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第85章ー邂逅

 背面軍の熊本城到着を受け、西郷軍は軍議を開いた。二本木においていた本営は木山に移されていた。

「この地にとどまって一戦を挑み、雌雄を決すべきだ」桐野利秋らは強硬に主張した。

「この際、鹿児島の本拠地を守備する部隊を送り、一部は大分、宮崎方面に展開して、勢力を張り、持久戦を挑むのはどうか」野村忍助らはそう主張した。

「大体、一戦を挑むというが、戦力的に無理がある。守勢を執るべきだ」

 実際、熊本城近辺にいる西郷軍の総兵力は、1万に満たない。一方、熊本城近辺にいる政府軍は背面軍と田原坂方面軍が合流し、それに熊本城に籠城していた熊本鎮台軍も加わった結果、3万に達しようとしていた。約3倍の戦力差にもかかわらず、野戦を挑むのは無謀という野村らの主張は一理あった。

「桂久武らを鹿児島には派遣済みだ。鹿児島の守備を顧慮する必要はない。それに野村らの主張に従うならば、ただでさえ劣勢の戦力を更に分散させることになる。この地での一戦にかけるべきだ」桐野らは主張した。議論は紛糾したが、最終的に桐野らが主張を押し通し、熊本城東での会戦に西郷軍は運命をかけることになった。


 その頃、熊本城近郊で、海兵隊の幹部は長崎以来の久しぶりの邂逅にお互い感慨にふけっていた。

「古屋佐久左衛門少佐が亡くなられたのか」滝川充太郎少佐はその知らせを聞いて言葉を詰まらせてしまった。

「嘘だ、と言ってくれ。古屋少佐は歴戦の軍人で戦の名手だ。戦死されるわけがない」

「戦争だ。幾ら戦の名手でも戦死されることはある。それに田原坂の突破に成功したのを見届けられての死だ。勝ち戦の喜びの中で亡くなられたのは救いだと思う」土方歳三少佐が言った。

「そうだな、それがせめてもの救いだ」

「古屋少佐の後、私が事実上の第1海兵大隊長として着任し、大隊長の任務を務めています。どうかよろしくお願いします。」林忠崇大尉が滝川少佐に言った。

「分かった。こちらこそよろしく頼む」

「話を変えるが、熊本城救援一番乗りを果たしたそうだな」土方少佐が言った。

「行き違いがあってな。命令が海兵隊の下に届いていなかった。それで、何も知らずにのこのこと熊本城に向かってしまって、一番乗りを果たしただけなんだが。お蔭で背面軍所属の陸軍の将兵から睨まれた、睨まれた。中には黒田参軍が海兵隊に功績を上げさせるためにわざと海兵隊に連絡しなかったとか、言う奴まで出た。そういうそちらも田原坂では奮闘したらしいな」

「結果的にな。それにしても古屋少佐をはじめ、多くの兵を失うことになった。そういえば、西郷軍から京の復讐と言われたよ。こちらも思わず戊辰の復讐と言いたくなった。お互い復讐心をたぎらせあうことはないだろうに」

「全くだな。そういえば本多幸七郎の第4海兵大隊はどうした」

「どうも、新作戦に投入されるらしいという情報が入りました。出所は秘密ですが」林大尉が口をはさんだ。

「林大尉はいつの間にか陸軍から情報を入手しているな。出所が秘密というなら、それ以上は聞くまい。それにしても一大決戦が近そうだな。どこで戦うことになるやら」土方少佐が言った。

「海兵隊全体のこの場での指揮権は私にあるということでいいか」滝川少佐が確認した。

「それでいい。滝川少佐が最先任だ」土方少佐が同意した。林大尉も無言で同意した。

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