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第83章ー乃木

 林忠崇大尉は犬養毅からの取材を終え、一息ついた。あの後、2人の間では予想外に話が弾んでしまった。犬養は前回の取材で反省したのか、質問は投げかけるものの聞き手に基本的に徹しており、林の返答を生かそうとする姿勢を見せていた。それに林の経歴は取材する者としてみれば、幾らでも質問したくなる経歴である。そんなこともあり、予想外に時間が経っていたのだった。

「林大尉、山県参軍がお呼びです」犬養の取材を終え、我に返った林大尉の元に伝令が来た。林大尉は速やかに山県有朋参軍の元に向かった。


「よく来てくれた。早速だが、海兵隊全てを持って前線に赴いてもらいたい」山県参軍は、林大尉に言った。その横では土方歳三少佐が山県参軍の命令を共に受けている。海兵隊全てと言っても2個大隊に過ぎない。植木方面で戦っている陸軍はそれより遥かに多い。一体、何が起こったのか、林大尉は緊張した。

「植木を何とか占領したものの、西郷軍は何としても熊本城救援を阻止しようと奮闘している。こちらも田原坂突破のために弾薬等の補給を大量に消費したし、八代から熊本城救援に向かう背面軍にも補給をまわしたために、前線では補給不足になってしまい、ますます熊本城救援が困難になるという悪循環だ。現在、荻迫方面で戦っていた第14連隊が西郷軍の反撃を受け、包囲されて苦戦している。速やかに救援してほしい」山県参軍が命令を下した。

「了解しました」土方少佐と林大尉は答えて前線に赴いた。


「今度は第3海兵大隊に先に行かせてくれ」土方少佐が林大尉に言ったが、林大尉は意見具申という形でそれを拒絶した。

「私よりも土方少佐の方が実戦経験豊富です。第1海兵大隊が苦戦に陥った際に土方少佐なら適切に救援できるでしょうが、第3海兵大隊が苦戦したときに私では適切に救援できません。私が先に進みます」荻迫に近づくにつれ、前線独特の緊迫した空気が漂ってきた。田原坂での激戦を切り抜けた兵がいるとはいえ、初めての実戦を迎える兵も少なからずいる。林大尉は(本音としてはもう少し後ろで大隊全体の指揮を執りたかったが)大隊のほぼ先頭に立って、進軍した。事実上の大隊長自らが先陣を切る、この光景は部下の士気を高揚させた。

「ふむ、伏兵に遭ったか。両翼に部隊を少しだけ展開しろ。包囲網を突破して、第14連隊を救援する。その後は速やかに後退だ」林大尉は戦況を観察して、命令を下した。山県参軍は第14連隊の救援だけを命じている。戦線の突破までは命じていない。第1海兵大隊は林大尉の命令を受けて突撃した。もちろん先頭は林大尉が務める。こういった際の白兵戦は海兵隊の十八番である。白兵戦で西郷軍を一時的に混乱させ、第1海兵大隊は第14連隊の戦線までたどり着いた。退路は土方少佐率いる第3海兵大隊が確保してくれている。

「今のうちに退却してください。今なら間に合います」林大尉は言った。

「分かった」第14連隊を率いていた乃木少佐は負傷していたが、指揮は執れる状況だった。第14連隊は何とか退却に成功した。

「あの時、海兵隊のおかげで死に損なった」乃木少佐は西南戦争が終わった後、林大尉に述懐した。

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