表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/120

第81章ー取材

 林忠崇大尉は指揮下の第1海兵大隊を率いて植木に向かった。土方歳三少佐の率いる第3海兵大隊もそれに追随する。土方少佐は自分が先に行きたがったのだが、林大尉がそれを止めたのだった。

「土方少佐の方が上官です。上官を先に行かせて、部下が後に続くというのは不自然です。部下の私が先に行くので、土方少佐は後に続いてください」林大尉は先日の抜刀隊編制直前の土方少佐との会話以来、土方少佐が内心で逝きたがっているのではないか、と不安になっていた。古屋佐久左衛門少佐の戦死は、林大尉の内心の不安を増大させており、それもあって、第1海兵大隊を先に行かせていた。

「待っていたぞ」植木に第1海兵大隊等が到着すると、山県有朋参軍が、川村純義参軍と共に再編制が成った海兵隊2個大隊を出迎えた。林大尉は思わず恐縮した。事実上のトップともいえる参軍が2人揃って出迎えるなど本来はあり得ない。

「そう固くなるな。戦線が半分固定化してしまったので、動きようがないのだ。それに田原坂での最初の戦闘から横平山での戦闘、田原坂の突破までよく海兵隊は奮闘している。それに正直に言うと1か月近く再編制にはかかると思っていたのに、早、最前線に復帰とは嬉しい誤算だ。今後の奮闘に期待すると言いたいが、最前線は陸軍で既に固めてしまった。海兵隊には後方警備と予備の任務を与えたい」

「分かりました。全力を尽くします」林大尉は山県参軍に答えたが正直に言って拍子抜けした。何のためにあれだけ過労死寸前の状況に追い込まれたのだろう。

「ところで、新聞記者が取材したいと言って来ている。許可を与えたので、土方少佐と共に取材を受けてほしい」

「分かりました」林大尉はそう答えて、山県参軍の前を辞去した。


「郵便報知新聞の犬養です。どうかよろしくお願いします」林大尉の目の前の男はそう言った。

「はい、取材したいことがあるそうで」林大尉は当たり障りのない答えをした。林大尉の横では土方少佐がどう見ても仏頂面としか見えない顔をして座っている。無理もない、と林大尉は思った。最前線に急行したら、後方警備の任務を与えられ、記者の取材を受けろと言われては、自分も仏頂面をしたい。

「海兵隊の多くは旧幕府の方だとか、戊辰の復讐とか叫ばれているのでしょうか」

「京の復讐と西郷軍に叫ばれて困っているな。全くそこまで恨まれているとは思わなかった」土方少佐がいきなり言った。

「いや、戊辰の復讐と叫んでいるのかと」

「そんなふうに復讐心をあおりたくないですな」思わず林大尉も言っていた。フランスでの経験も相まって林大尉にそう言わせていた。同じ日本の民ではないか。復讐心を新聞があおってどうするのだ。

「もし、部下がそう言っていたら私は止めます。戦争が終わったら、同じ民です」

「はあ」犬養と名乗った男は毒気が抜かれたような顔をしていた。

「それでは失礼する」土方少佐はいきなり立ち上がり、林大尉にも随行するように身振りで示した。犬養と名乗った男が呆然としている間に2人は去った。


「失礼だったのでは」林大尉は土方少佐に言った。

「どうも気に食わなかった。最初に結論ありきみたいな取材だったからな。叫んでいないと言っても聞く耳を持ちそうになかった。京の復讐と言われているのは事実だがな」土方少佐は言った。

「私は京にいなかったのですがね。京の復讐と言われると微妙な気になりますな」林大尉も言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ