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第69章ー田原坂正面への総攻撃

 陸軍の田原坂正面への総攻撃準備は19日に整った。17日の山県参軍の命令を受け、18日は攻撃規模を縮小して、19日早朝からの田原坂突破の準備を整える準備に費やした。

「どんどん撃て」これまで溜めこんだ砲弾全てを射耗するかのような陸軍の猛砲撃が皮切りだった。西郷軍にとって不運だったのは、精鋭の4番大隊が横平山奪還作戦に投入された結果、戦にまだまだ不慣れな高鍋隊を田原坂正面に配置せざるを得ない有様だったことだった。高鍋隊は陸軍の砲撃によってあっという間に壊乱状態に陥った。

「今こそ田原坂を突破する好機だ」野津鎮雄第1旅団長が叫び、陸軍の総力を挙げた田原坂突破作戦が始まった。壊乱状態に陥った高鍋隊にそれを阻止する力は無い。

「しまった」桐野利秋は田原坂正面に配置した高鍋隊が壊乱し、田原坂正面の戦線が崩壊しつつあるという伝令の報告を受けて、叫んだ。やはり、横平山奪還に力を注いだのは結果論だが、誤りだったのだ。部下の反対を押し切って、4番大隊を田原坂正面に戻すべきだった。

「横平山奪還作戦を即時中止する。4番大隊は今から田原坂正面の救援に向かう」桐野は配下の4番大隊に断腸の思いで命令を下した。4番大隊の部下の多くも横平山奪還作戦が今から成功しても、田原坂正面の戦線が完全に崩壊しては無意味どころか、却って退却できなくなり、有害無益なことが分かっている。多くの者が無念の涙をこぼしたが、桐野の命令に従って、田原坂正面の救援に向かった。

「助かった」横平山を死守していた第3海兵大隊長の土方歳三少佐は安堵の溜め息をこぼした。横を見ると副大隊長の林忠崇大尉も同様の想いだったようで、一息ついていた。

「追撃しますか、と問うのも無意味な有様ですね」林大尉は土方少佐に言った。

「全くだな。追撃はできない」土方少佐も答えた。第3海兵大隊は即時後方に撤退しての再編制が要求される状況だった。何しろ、増援の砲兵中隊を含めても4割近い兵員が死傷していたのだ。20名いるはずの小隊長は過半数が戦死し、中には小隊長代理までが相次いで戦死した結果、3番目の代理の小隊長がいる小隊が存在する状況だった。第3海兵大隊は全滅の危機を辛うじて乗り切った。

「それにしても、林大尉は本当に運がいいな。最前線への督励にも何度も赴きながら、未だに無傷だ」

「土方少佐を最前線に行かせて、死なせるわけにはいきませんから」

「本多忠勝の生まれ変わりのようだな」

「それは過分な褒め言葉です」林大尉はさすがに恥らった。

「本多忠勝と言えば、徳川四天王の筆頭ではないですか。私では及びもつきません」

「4倍以上の敵兵と互角に部下を戦わせてもいるし、最前線にも何度も赴きながら無傷なのだから、決して過言ではないと思うぞ。家柄も充分だ。何しろ一文字大名だろう」緊張が緩んだのか、土方が軽口を叩いた。林大尉はますます恥らった。

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