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第68章ー田原坂正面へ

 山県有朋参軍の副官の密やかな楽しみは、山県参軍の顔色を見ることだった。山県本人は気づいていないが、身内しかいない場では山県は結構、自分の感情を顔に出す。山県の海兵隊、特に新選組に対する感情は極めて複雑なものがあり、ある意味、玄妙な顔色をしょっちゅう醸し出していた。特に今日17日の朝は、それが特におもしろい。

「ふむ、横平山からの攻勢は無理で守勢を採るべきだと新選組は言っていると」

「はい、3倍近い西郷軍が横平山奪還のために攻撃してきているとのことです。しかも、それを桐野が直卒しているらしいとのこと。そのため、新選組は横平山に西郷軍を引きつけるので、その間に田原坂への正面攻撃を行ってはどうか、と言っています」山県参軍の前では、熊本救援軍の参謀が報告している。

「うむ、名案だ。わしも前からそう考えていた」

 あれ、と副官は疑問を覚えた。横平山攻撃前は、横平山から攻勢を取ることになっていなかったか?山県は副官が疑問を覚えているのに気づかずに言葉を続けた。

「速やかに田原坂正面突破の作戦計画を立案し、攻撃準備を整えたまえ」

「あの、横平山攻撃前は別の話になっていたと思うのですが」報告していた参謀も山県の発言に疑問を覚えたのだろう、反問した。

「察しが悪いな。新選組から横平山攻撃案を非難する報告が来ているか」

「いえ、来ていません」

「新選組は、我々が立案した横平山攻撃案に従って大損害を出している。実際に我々が非難されても仕方ない。だが、新選組はそれを不問にする代わりに、我々にも血を流して田原坂を速やかに突破しろ、と暗に言ってきているのだ」

「分かりました。速やかに作戦計画を立案します。」参謀は山県の前を退出した。

「情けは人のためならず、と言うが。海兵隊の情けはいろいろと考えが深すぎる。台湾出兵の時も、薩摩を追い落とそうとするわしの考えを察して、海兵隊は情けをかけてくれたからな。こちらもそれなりのことをしないと」副官が長州出身で気を許しているということもあるのだろう、山県は参謀が去った後、ひとりごちた。


 一方、横平山前面では西郷軍の猛攻が新選組に対して行われていた。桐野も一晩、寝たせいか冷静になると、横平山にそうこだわり過ぎるのは愚策だと理性を取り戻しつつあった。だが、横平山の誠の一字旗が部下の冷静さを奪いつつあった。

「何としても、新選組の陣地を奪え。そして、あの旗を奪え」部下の小隊長の1人が叫んで、何とか新選組の陣地に小隊を突入させる。だが、そこには抜刀隊もいるし、新選組の抜刀隊以外の隊員も刀による白兵戦を怖れるどころか、逆に銃剣のさびにしてみせると豪語する兵揃いである。西郷軍お得意の白兵戦も新選組相手では勝手が違った。新選組の逆襲の前に、小隊長が戦死し、小隊は陣地から敗走した。一方、新選組も無傷では済まない。相馬主計を筆頭に多くの兵員が死傷していく。17日の夕闇が迫る頃、新選組は全員を合わせても無傷な者は600名を切りつつあった。しかし、西郷軍の損害の方が更に甚大で、無理な強攻がたたり、鹿児島出発時には2000名いたはずの4番大隊の戦闘可能人員が1400名以下になっている。

「強攻策もここまでか」桐野は部下を集めて、横平山奪還を断念することを告げようとしたが、部下の猛反対にあった。

「後、一押しなのです」

「あの旗を奪わせてください」部下が口々に叫ぶ。

 桐野は結局、部下の反対を押し切れなかった。だが、これが災いとなる。

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