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第64章ー土方の想い

 土方歳三少佐と林忠崇大尉は、川村純義参軍の元を辞去した後、新選組こと第3海兵大隊の駐屯地に歩んで戻った。土方少佐は黙然と考え込みつつ、歩んでいた。林大尉はどうにも話しかけづらかったが、いろいろと土方少佐から醸し出される雰囲気に耐えきれず、思い切って土方少佐に話しかけることにした。

「何かいろいろ思うところがあるようですが」

「分かるか」土方少佐はその問いに笑みを浮かべて応えた。

「私も戊辰戦争で実戦を経験した身です。その経験からすると、土方少佐にはいろいろ思うところがあるように見えます。でも、自分からは整理しきれずに言い出せない。それなら、私から声をかけるしかないか、と思いました」

「実戦経験は伊達ではなかったようだな」土方少佐は、考えつつ話し出した。

「建前を言うと、川村参軍の言うことは一見すると常識だが愚策だ。何故、相手の得意な戦術に合わせて戦う必要がある。陸軍はともかく海兵隊は火力重視で兵を鍛えてきた。相手が斬り込み戦術を採る、大いに結構、それならこちらは銃撃や砲撃で相手を圧倒するまでだ。これが海兵隊の基本戦術だ。だから、俺は川村参軍の命令を渋った」

「確かにそうですね」林大尉は答えた。実際に、海兵隊は火力を重視している。それを海兵隊には事実上志願せずに、屯田兵として生きてきたはずの土方少佐が理解している。土方少佐の非凡さにあらためて林大尉は驚嘆した。

「だが、現在の田原坂の戦況から考えると斬り込み戦術のための部隊は確かに必要だ。それが何ともいえない感情を俺に抱かせるのだ。何で相手の西郷軍の戦術に乗らねばならないのだ」土方少佐は言った。

「更に言うなら、それに応じたいという思いが俺にもあるのだ。年甲斐もないと言われるかもしれない。かつての京都時代ならともかく、俺も40を過ぎたし、4人の子持ちだ。それにもかかわらず、前線で剣を振るいたい。林は俺を笑うか」

「笑いませんが、一言言わせてください」林大尉も考えながら言った。

「そういう思いなら、この斬り込み隊に土方少佐は参加しないでください」

「なぜだ」

「土方少佐が自分に相応しい死に場所を求めているように思えるからです。どうか死なないでください。お願いします」林大尉は真率の想いから言った。

「そうか」土方少佐はあらためて思った。確かに自分は死に場所を求めていたのかもしれん。

「分かった。だが、それなら誰が斬り込み隊を率いるのだ」

「私が率います。私では実力不足ですか」林大尉は答えた。

「いや。実力は充分だ。斬り込み隊は任せる」土方少佐は言った。下手に元新選組の一員に斬り込み隊の指揮を任せたら、元新選組を贔屓しているように見られかねない。それも考えあわせれば、林大尉が率いるというのは副大隊長の職責から言っても妥当だった。それに林大尉の剣の腕は、新選組で剣の腕を謳われた永倉新八や斎藤一が一目置く実力だった。

「それでは、取りあえず長崎の海兵旅団司令部に剣を至急、送るように電報を打って、明日朝から斬り込み隊を至急編制しましょう。とりあえず、明日に備えませんか」

「そうだな」土方少佐は言った。明日から忙しくなりそうだ。

少し長くなったので、抜刀隊の出陣は次回に回します。

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