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第63章ー斬り込み

 川村純義海軍大輔は西郷軍の挙兵以来、苦悩していた。大恩ある西郷隆盛さんを挙兵させる最後の一押しを自分がしてしまった。この落とし前は自分で付けるしかないが、いかにすべきか。皮肉にも、様々な政治的思惑も絡んで、山県陸軍卿と共に征討軍の参軍(総督に次ぐ地位、但し、総督は皇族の有栖川宮なのでお飾りといってよく、実際にはトップと言ってもよい)に川村は任命されていた。こうなった以上、速やかに戦乱を終わらせることが、自分にできる最善だと考えて行動しようと川村は努めてはいた。


 3月8日、川村は田原坂の後方、南関にいた。陸軍のみならず川村の指揮下にある海兵隊も田原坂の激戦に参加していた。海兵隊は、大鳥旅団長の発案で旧幕府諸隊名を各大隊の呼称に採用している。その呼称に従うならば、伝習隊に加え、新選組が田原坂に向かっている。これでは、鹿児島の大山県令が自分に浴びせた面罵を自分から肯定するようなものだな、とふと川村は思ったが、更に次の瞬間に思い浮かんだことがあった。

「新選組」、その本来の名前は言うまでもなく、幕末の京都警備の任務を行い、人斬り集団の異名すらとった組織のものである。この新選組を、西郷軍の抜刀斬り込み作戦に対抗して投入してはどうか。皮肉なことに元新選組の副長の土方歳三少佐が、新選組こと第3海兵大隊長として田原坂に向かっている。更にその部下の志願兵には元新選組の面々も多数参加しており、いわゆる腕に覚えのある兵も多数いると見られている。この部隊ならば、西郷軍の抜刀突撃を受けても逆に優位に戦えるのではないか。

「これは検討してみる価値があるぞ」川村は一人、つぶやいた後、第3海兵大隊が到着次第、土方少佐を呼んで、自分の考えを示すことにした。


 3月10日の夕刻に田原坂の前面に到着して第3海兵大隊の駐屯地を確保して早々、土方少佐は川村参軍に呼び出されていた。土方は1人で聞くのはどうもまずい気がして、林忠崇大尉を同行して、川村参軍と会った。

「よく来てくれた」川村参軍は開口一番に言った。

「君たちに検討してもらいたいことがある。斬り込み専門の部隊を第3海兵大隊から臨時に編制することはできないだろうか。今、田原坂で西郷軍と戦っているが、西郷軍の斬り込みに苦戦を強いられている。政府軍もこれに対抗して斬り込み専門の部隊を編制してはどうか、と考えているのだが」

「できるか、できないか、でいうなら可能ですが、気乗りはしません」土方は返答した。

「なぜだ」

「そもそも斬り込み戦術自体がある意味古い戦術です。それに戊辰戦争からほぼ10年が経ちます。斬り込みの経験のある兵は高齢化しています。命令とあれば従うまでですが」

「それなら、参軍として私が命じる」

「分かりました。最善を尽くして、斬り込み隊を編制します」土方は返答した。

「副大隊長として発言してもよいでしょうか」林大尉が言った。

「何だ」川村は返答した。

「斬り込み隊ですが、新規に編制する関係上、2、3日は再編成に掛かると考えます。前線に投入できるのは3月14日以降となりますが、その点は了承していただけませんか」

「それはやむを得まい」

「では、3月14日を期して斬り込み隊を編制します」土方は了承しながら思った。これは地獄を見る部隊になるな。薩摩隼人の剣術は幕末の京都でもその名を轟かせていた。田原坂は両軍の血を大量に欲しているようだ。


 

話の流れから推察できると思いますが、この世界では警視隊による抜刀隊は編成されません。その代わりを第3海兵大隊から編制された部隊が務めることになります。

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