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第57章ー新選組の再集結

 土方歳三は思わず涙腺が緩むのを覚えた。目の前には80名余りの旧新選組の隊士が集っている。よくぞここまで生き残って来てくれたという思いとここまで減っていたのかという思いが去来していた。確か鳥羽・伏見の戦いの直前には150名近くがいたはずだ。それが相次ぐ戦死や脱走(いつの間にかはぐれてしまった者もいた)により減っていった。そして、仙台で自分が降伏したときには、自分も新選組からはある意味脱退していた。それなのに、この場に来てくれるとは。やはり、この旗のお蔭か、と後ろを振り返った。自分が入植した屯田兵村で最初にできた亜麻で作った誠の字が入った旗、かつての旗は確か木綿製だったはずだが、戊辰戦争後に様々な苦労を重ねてきた今の自分たちにはこの旗の方がふさわしいかもしれない、と思わなくもない。ふと前にいる面々を見渡すと、同様な思いに駆られているのか、目元を涙でにじませている者が多数いた。


「それでは今から集会を始めます」司会を買って出た林忠崇大尉が発言した。

「といっても無礼講です。酒は1斗樽に入っている分が無くなったらおしまいです。料理は今日の夕食ですが勘弁してください」

「いや、充分だ。呑み過ぎからくる二日酔いで、訓練をさぼる奴が出たら困る」土方が言った。前にいる面々からも笑い声が上がった。

「私からも一言、言わせてもらおう。よくここまで来てくれた。心から礼を言わせてもらう。西郷軍と戦おう。賊軍の汚名をそそぎ、官軍として今度は戦おうではないか」

「応」旧新選組の面々から答える声が上がった。


「ところで、林大尉が新選組の副長ということになるのでしょうか」斎藤一がいきなり言った。

「そう見られる方もおられるかと思います」林が答えた。

「納得行きませんな。新選組の副長と言われる以上、剣術の腕を披露してもらわないと。永倉」

「応、どうした」永倉新八が答えた。

「林大尉と竹刀で試合をしてくれないか」

「しかし、いきなり言われても林大尉が受けてくれるのか」

「私は受けてもいいですが」林は答えた。

「決まりだな。早速やってもらおうではないか。土方少佐、審判をお願いします」


 急きょ、剣道場から取り寄せた竹刀と防具をお互いに身に着け、旧新選組の面々の前で、林と永倉は対峙した。

「林大尉は、元お殿様だからな。負けたら恥だぞ」斎藤が永倉に声をかけた。

「わしを誰だと思っている」永倉が言った。

「では、はじめ」土方が声をかけた。

「何」永倉が絶句した。林が、正眼の構えからいきなり右片手による変形突きを披露したのだ。これまでに見たことのない技と永倉の内心の軽侮が相まって、林の突きはいきなり決まった。

「実戦だったら、永倉は死んでいるな」斎藤はにやにや笑って言った。

「言い忘れたが、林大尉は元お殿様だが、剣術は私にそう引けを取らんぞ」

「わざと言い忘れたな。2度目はない」

 実際、永倉が本気になると林は防戦を強いられた。だが、一本は決して取られず、折を見て逆撃を策して永倉をたじろがせる。いつの間にか、旧新選組の面々は林と永倉の試合に魅入られていた。2人共に汗まみれになり、息が荒くなっていることに気づいた土方は2人を分けることにした。

「それまでだ、2人とも止めろ」土方の大声は林と永倉の動きを止めた。

「この実力なら、新選組の副長を名乗られても文句は言えんな」永倉が言った。

「私は林大尉の剣技を初めて見たとき、沖田総司さんの再来に思えましたよ。いろいろと違うところはありますがね」斎藤が言った。

「そういわれれば」土方はあらためて思い起こし、周囲の面々の多くも永倉や斎藤に同意した。

「林大尉は新選組の新しい副長にふさわしいと思うがどうか」土方が言うと

「異議なし」「文句は言えんな」と周囲の面々も口々に言った。林は慌てたが断れる雰囲気ではない。

「不肖の身ですが、謹んでお受けします」林は畏まって言った。

「さて、本当に無礼講を始めるか」土方があらためて音頭を取って、集会が始まった。旧知の面々がお互いに顔を合わせ、消息を尋ねあう。また、土方ら旧幹部に挨拶をする者もいる。集会は小1時間余り和やかに続いて終わった。

 本当は剣の達人同士の試合は一瞬で決着するらしいですが、小説の描写上、こうなりました。

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