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第49章ー古屋と林

少し時間が戻っています。2月11日前後の長崎での状況です

 長崎にいるとどうしても情報の伝達が少し遅くなるな、と古屋佐久左衛門は内心でぼやいた。勿論、かつての飛脚による情報伝達よりも遥かに早いのは認める。しかし、電信網が日本全国に広まり、今や主要都市では電信がつながり、電報による民間人同士の連絡まで一部可能になっている現在は、時として奇妙な事態を引き起こしていた。古屋は鹿児島情勢の急速な悪化を主に東京からの電信により知っている状況で、本来なら鹿児島に近い自分たちの方が鹿児島情勢について詳しいはずなのに、東京からの電信情報の方が早くて詳しいことが稀ではなく、その意味で隔靴掻痒というか、何とも言えない焦燥感を感じることが多かった。何しろ、いざという時に鹿児島鎮圧の先兵に立たされるのは自分たちなのだ。


「また、情勢が悪化したようですね」林忠崇海兵大尉が声を掛けた。

「またというな。事実ではあるが」古屋は答えた。

「出動待機命令ではどうも済まないみたいだ。海兵局から連絡があった。鹿児島鎮圧のために陸軍は出動命令を正式に2月10日に一部の部隊に下した。海兵局は川村海軍大輔と連絡が取れ次第、全部隊に出動命令を下すとのことだ」

「全部隊ということは、まさか屯田兵も全てですか」

「ほぼそのとおりだ。昨年、入植したばかりの屯田兵中隊は出動命令を免除されている。開拓作業もまだまだだし、北海道を空にもできんからな」

「本当に天下の大乱ですな。それで、我々はどうなるのです」

「出動命令が発令され次第、大鳥圭介が新編の海兵旅団長に就任する。私は第1海兵中隊を基幹とし、屯田兵3個中隊を組み込んだ新編の第1海兵大隊長に就任する。砲兵中隊は旅団長直属になる」

「私は砲兵中隊長のままですか」

「いや、君はフランス留学帰りで最新の兵学を詳しく知っている。それで、土方歳三少佐が就任予定の新編の第3海兵大隊の副大隊長に就任とのことだ。土方少佐は、実戦の勘というか、実戦で指揮を執ることについては、文句なしに海兵隊の士官の中ではトップなのは戊辰戦争で実証されている。しかし、惜しいかな、兵学については独学で少し学んだ程度で詳しくない。海兵隊で教育しようにも、土方少佐は屯田兵として出獄後すぐに北海道に行かれてしまったからな。それで、それを補う意味で君を第3海兵大隊の副大隊長に就任させるとのことだ」

「少しぼやかせてもらってもいいですか。フランス留学をもう少し私は続けたかったのに、昨年の秋にフランスの士官学校を卒業したら、とりあえず帰国しろ、現在の知識を他の士官に伝えてほしい、との命令が私に届いたので、日本に帰国したら、砲兵中隊長を命ぜられて、長崎にいきなり赴任の辞令を貰った時には、何の冗談だと思いましたよ。そして、長崎に赴任して早々に天下の大乱に出動する羽目になるなんて。軍人ですから命令には当然従いますが、何ともやるせない思いがします」

「気持ちは分からないでもない。だが、土方少佐と共に戦うのは君にとっていい経験になるはずだ。それに君は土方少佐と気が合うと私は思っている」

「何か根拠が」

「君が剣術等様々な武術に長けていることだ。元大名とは思えん。殿様剣術などではない、とんでもないレベルだ」

「お褒めに預かり、恐悦至極と言えばいいですか。土方少佐を軍人として私は尊敬していますが、土方少佐が私を気に入ってくれればいいですね」林大尉は答えた。

林忠崇の武術の腕は、史実に準じたものです。剣術のみならず槍術、弓術、鎖鎌術や馬術どころか、洋式砲術まで幕末に学んでいたとか。更に和歌も得意で、狩野派の絵についても出藍の誉れを受けた文武両道の人物。幾ら史実とはいえチート過ぎる気さえします。

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