第4章ー土方
土方は悩んでいた。仙台城下で一戦して最期を遂げたい、との思いが叶わなくなりつつあったからだ。流山で近藤局長と今生の別れを遂げた後、最後まで戦い抜いて武人として最期を遂げようと思っていた。しかし、現状はどうか。
仙台藩上層部の戦意は戦況の悪化とと共に急激に低下しつつあった。このままでは、仙台城下から錦の旗が見えるようになった時点で降伏するだろう。仙台藩兵と共に最後の出撃なり、会津藩が行っているように仙台城での籠城戦なりの主張が受け入れられる望みはほぼ無かった。かといって、他の幕府諸部隊、例えば遊撃隊等とのみの最後の出撃は、とても採れるものではない、と自分の理性は述べていた。鳥羽・伏見の戦いの際の津藩が藩祖高虎の遺訓を守り、さっさと寝返ったように、仙台藩も同様に、これ幸いと自分たちを攻撃して自らの保身を図るのではないか。藩祖政宗の所業を思えば、仙台藩がそのようなことをしてもおかしくはないか、とまでつい考えてしまった。いっそ、単身、薩長軍に斬り込んで斬り死にするか。
いかんな、考えが悪い方向に走っている。高虎の遺訓が実際にあるわけもあるまいに、とつらつら考えているところに入ってきたのが、神速丸の到着とフランス人数名が大鳥総督に至急の面会を求めているという話だった。大鳥総督が面会してみると教官のブリュネ大尉達だったとのことで、大鳥総督とブリュネ大尉がしばらく会談した後、大鳥総督は伝習隊の幹部の非常呼集を命じ、それに応じて自分たちが集まったのだった。今、部屋は集まった幹部の面々で熱気が籠っている。
大鳥総督が発言した。
「ブリュネ教官は、我々の命を保障したうえでの降伏の使者として来られた。皆の意見を聞きたい」
「バカなことを言うな。今更、降伏できるか」
「薩長を信用できるか。降伏して武装解除した後、拷問の末に惨殺されるに決まっている」
「しかし、仙台藩が降伏したら、どうやって抗戦するというのだ」
「もう潮時だろう。降伏も考えるべきだ」
集まった幹部、それぞれが発言しだした。怒号や自分と意見の違う幹部への罵声まで飛び交いだした。土方は発言せずに周囲の意見に耳を傾けた。自分個人はともかく、伝習隊全体としてはどうすべきだろうか。土方が考えにふけるうちに、どれくらい時間が経ったのか、いつか発言が収まりつつあった。土方が周囲を見渡したところ、発言していた幹部の面々がお互いに疲れてきたらしかった。
「ここは1つ、ブリュネ教官達の話を聞いてはどうか。そのうえで最終決断を下そうではないか」
大鳥総督がタイミングを見計らったようにそう発言すると、
「異議なし」
「そうしよう」
との声が幹部の面々から上がった。
「では、ブリュネ教官達を呼んでくる。徳川家や江戸の情勢等が分かるだろう。そのうえで決断しようではないか」
大鳥総督はそう発言して部屋から出て行った。土方は、どうすべきかの思索にまた戻った。