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第48章ー島田、奔る

 2月17日に届いた土方歳三からの電報は簡潔だった。

「ナガサキヘコラレタシ、シサイハテガミデ」

 島田魁はその電報の文面を見た瞬間に覚った。これは、海兵隊の志願兵として自分に来てほしいということか。先日来、西郷隆盛が挙兵したらしいという話題で、京都市内は持ちきりだった。大久保利通が元親友の西郷さんを殺そうとした、それを糺すために西郷さんは挙兵したというのが主な話だった。海兵隊はこのために急いで志願兵の募集と予備役兵の動員の準備をしているのか、昨日の新聞には海兵隊の志願兵募集の話が出ていた。

「これがぐずぐずしていられるか」島田は思わず叫ぶと、すぐに妻を呼んだ。


「金を出せ」

「いきなり何を言うのです」

「だから、金を出せと言った」

「何に遣うかを言ってください」

「だから、金を出せと」

「あなたは強盗か、泥棒ですか」

「わしに対して何ということを」

「どれくらい要るのか、何に遣うのか、それを言ってください。大体、うちにお金が有り余っているとでも。こないだのツケの支払いもできていないのに、そのお金はできたのですか」

「すまん、まだ、できていない」島田は思わず妻に頭を下げる羽目になった。


「要するに土方さんから電報で連絡があって、長崎に来て、海兵隊の志願兵として共に戦ってほしいということらしいので、長崎までの旅費を出してほしいということですね」

「そういうことだ。わしは一刻も早く長崎へ行きたい」

「手紙が届いて、中を確認してからでもいいのでは」

「そんな余裕があるか。電報でわざわざ連絡してくるくらいだ。土方さんは、わしが来るのを待ち望んでいるのだ。何とかしろ」

「私はお金の成る木じゃありません。ツケだってまた溜まりだしている有様なのですよ。大体、長崎までの旅費とのことですが、どうやって行くつもりですか」

「京都のここから大阪か、神戸へ歩いて行き、そこから船で長崎まで行くつもりだ」

「かなりお金が要りそうですね」

「かなり要るな」妻と会話する内に島田も頭が冷えてきた。

「あなたがそこまで言うのなら、何とかしましょう。後の支払いに苦しみそうですが、借金するしかなさそうですね」

「身内に頼もうかとも考えていたのだが」

「時間が惜しいのでしょう。取りあえず質屋でお金を借りて、それで旅費を工面しましょうか。私の笄を質に入れれば、何とかなるでしょう」

「苦労を掛けて、すまんな」島田はまたも妻に頭を下げた。


 結局、夫婦そろって質屋に頭を下げて、少しでも多くのお金を引きだし、何とか旅費を工面して、島田が京都を出発できたのは、19日の早朝だった。その日の内に大阪に着き、翌日の長崎行の船に無理をして乗り込み、23日に長崎へ着いた。土方さんは25日に到着予定とのことで、まだ来ていなかったが、志願兵ということで早速、海兵隊から給料を受け取れたので、妻に送金した。これで、何とか質物を受けだすことと今のツケは解消できるだろう。島田はとりあえず安堵した。

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