第46章ー長崎へ
「川村純義海軍大輔が戻られるまで、と言うよりも連絡がつくようになるまでは、我が海兵隊は総動員に移れません。まさか、ここまで急速に情勢が悪化するとは考えていなかったので、川村海軍大輔から事前に総動員体制をとってもよい旨の了解を取っていなかったのです。昨日、陸軍は出動命令を一部の部隊に下したとのことですが、海兵隊は出動待機命令を出すのが精一杯です。となると、輸送のために必要な船舶は陸軍が先に抑えてしまう可能性が高いです」大鳥圭介が発言した。
「そうだな。川村海軍大輔の説得に一縷の望みを託したのが、結果的に裏目に出たか」荒井郁之介局長は嘆いた。
「川村海軍大輔とはいつになったら連絡が取れますかね」大鳥が言った。
「連絡がいつ取れるのかは皆目分からんとしか、言いようがないな。各屯田兵村には電報で待機態勢を取るようには連絡してあるが、屯田兵村から動員して移動させるとなると川村海軍大輔の許可が要る。連絡が取れて、川村海軍大輔の了解や許可を取ってとなると、川村海軍大輔の了解や許可が取れてから、長崎に集結するまでにどれくらいかかる」
「ぎりぎり1個大隊、3個中隊ならある程度余裕をもって運べる船舶は、とりあえず東京港に集めて確保していますが、その船舶を小樽に向かわせ、更に長崎へとなると10日はみておく必要があるかと」輸送担当の士官が話した。
「全く船舶も足りないな。それに時間もかかる」荒井局長は頭をまたも痛めることになった。
「三菱に打診したところでは、後、1個大隊程度を輸送できるだけの船舶は東京とその近くで確保できるとのことです」
「それは至急押さえろ。それまで、陸軍に取られたら、海兵隊が長崎に集結できるのにさらに時間がかかることになるぞ。わしが独断でやる」
「とりあえずの輸送計画ですが、2個大隊を輸送可能な船舶を確保できるとの前提で素案はまとめてあります。まず、横須賀にいる海兵中隊3個を至急、長崎に輸送します。残りの船舶は小樽へ向かわせ、4個屯田兵中隊を小樽から乗船させて長崎へ輸送します。また、横須賀からの海兵隊を長崎で下船させた船舶は速やかに小樽へ向かわせ、4個屯田兵中隊を小樽から乗船させて、長崎へ向かわせます。また、最初に小樽へ向かった船舶は長崎から折り返し小樽へ向かい、小樽で残りの2個屯田兵中隊を乗船させて、再度長崎へ向かいます。川村純義海軍大輔の命令が出てから、4日後に3個海兵中隊が長崎へ到着、10日後に4個屯田兵中隊が長崎へ、18日後に4個屯田兵中隊が更に長崎へ到着、最後の2個屯田兵中隊が長崎へ到着するのは24日後です」
「結構、時間がかかるな」
「はい。その間に志願兵は長崎に集結するように呼び掛けます。志願兵中隊2個の編成が完了するのは、最後の2個屯田兵中隊が長崎へ到着するのとほぼ同時になるかと思料します」
「それが精いっぱいか。よし、それで詳細を詰めてくれ」荒井局長が断じた。