第45章ー応急処置
「嘆いていても始まりません。対策を考えましょう」大鳥圭介が発言した。
「幸いなことにシャスポー銃はフランス陸軍の制式小銃でもあります。至急、フランス本国や植民地からの銃弾の輸入を行う必要があると考えます。後は生産設備の拡張ですが、横須賀造船所にその余裕はあるでしょうか」
「まずは、どの程度、銃弾が必要になると見積もられる」荒井郁之介局長が発言した。
「実査に戦場に赴く身としては、日産3万発は最低でも欲しいところです。なぜなら、海兵旅団の兵員数は3000名余りです。1人1日10発は安心して撃てるくらいは必要と考えます」新設の海兵旅団長に就任予定でもある大鳥が答えた。
「横須賀造船所の生産設備の拡張ですが、海軍省本体はいい顔をしないでしょう。まず、多額の予算が必要になります。しかも、シャスポー銃は既に後継銃を検討せねばならない段階に達しつつある銃でもあります。幾ら戦時中とはいえ、そのような銃の銃弾の生産設備の拡張というのは、予算面からいうと無駄遣いと海軍省本体から言われても仕方がありません。それに横須賀造船所はその名のとおり、造船を主に考えている施設です。銃弾の生産設備のために更に土地が欲しいと言っても、その余裕はないと言われると考えます。かといって銃弾の生産設備のための工場を新たに作るとなると、土地の確保等も必要になってきます。それにシャスポー銃は陸軍は採用しておらず、海兵隊の専用銃です。そういった点からも生産設備の拡張は望み薄です」補給担当の士官が発言した。
「生産設備拡張の金をフランス本国等からの銃弾購入に回した方がいいと海軍省本体には言われるだろうし、実際問題として生産設備拡張は非現実的ということか」荒井局長が言った。
「はい。ほぼ間違いなく」
「となると、フランス本国等からの銃弾の輸入を至急図るしかないか。日産1万発が可能ということだから、1月に製造可能な銃弾は約30万発、一方で1月に必要な銃弾は90万発だ。逆算すると不足分として月に最低60万発の銃弾の輸入が必要だ。膨大な数の銃弾を輸入せんとならんぞ」
「それにしても、海兵隊全部を動員すると10日しか戦えないくらいの銃弾しか備蓄していなかったのは問題ですね。今後は、平時の備蓄量を増やしておく必要がありますね」大鳥が言った。
「それは今後の課題だ。動員が完了して銃弾を充分に確保してとなると海兵隊が前線に赴けるのは、2月以上先になる可能性が高い。それは政治的な事情が許さないだろう。大隊単位での前線投入を考えざるを得ないと考えるが、大鳥はどう考える」荒井局長が言った。
「私も同感です。大隊単位で前線に投入というのは兵力の逐次投入で、兵法上は愚策ですが政治的にはやむを得ないかと。それに輸送面の問題もあります」
「次から次と問題が続出するな」荒井局長は自嘲した。