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第37章ー虎口

 本多幸七郎は最善の手段を考えて、その手段を選択して談判したつもりだった。

「海兵隊員全員が私服に着替えて、火器硝薬製造工場からの機材の搬出に協力します。この作業は昼夜兼行で行い、一刻も早くこの作業を済ませて、大阪に帰還しましょう」本多は陸軍の担当者に談判した。

「ご協力には感謝しますが、そこまでの必要があるでしょうか」陸軍の担当者の危機感は薄く、本多の考えを心配し過ぎではないか、と考えているようだった。

「ともかく一刻も早く作業を行うべきです。私としては、本当に何者かによる襲撃の危険があると考えています。実際に襲撃により死傷者が出たら、重大な責任になります」本多は半ば脅迫した。

「分かりました。海兵隊のご協力に感謝します。昼夜兼行で作業を行いましょう」陸軍の担当者も遂に同意した。だが、それは陸軍の謀略の掌の上でのことに過ぎない手段だった。


「全く怪しからん。事前通告もなく、更に約束を無視して、昼夜兼行で火器硝薬製造工場からの機材の搬出を始めたと聞くが本当か」

「本当らしい。更にその作業には海兵隊員が率先して当たっているらしい」

「海兵隊だと」

「海兵隊が、西郷兄弟をはじめとする我々を敵視しているのは戊辰戦争以来の因縁から当然のことかもしれんがな。だが、それのみならず海兵隊は西郷隆盛先生を逮捕監禁するなり、刺殺するなりするために完全武装を整えて鹿児島には乗り込んできたらしい」

「そこまで海兵隊はするのか」

「大体が陸軍の工場の作業をするのに海兵隊が乗り出してくること自体が怪しい。海兵隊は西郷隆盛先生を殺すためなら何でもしかねないと俺は思う。弟の西郷従道先生を失脚させたのは海兵隊だというのは有名な話だ」

「許せん。絶対に許せん」

「俺も同じ考えだ。どうすべきと考える」

 私学校の生徒同士の会話は過激の一途をたどった。

「この際、奴らを襲撃し、更に陸軍火薬庫や海軍造船所を我々の手で押さえるべきだ。そうしないと、いざという時の行動すらできなくなるぞ」

「全くだ。善は急げだ。早速、奴らを襲撃しよう。また、陸軍火薬庫や海軍造船所を我々の手で速やかに押さえよう」

 私学校の生徒たちの行動は共通の敵である海兵隊に対する団結の末、迅速に行われた。2月3日までに鹿児島内の全ての陸軍火薬庫や海軍造船所、火器硝薬製造工場は武装した私学校生徒らの襲撃を受けた結果、全てが私学校生徒の手に落ちた。更に政府(というか陸軍省)は、それにより海兵隊員を含めて多数の死傷者が出たという発表を行い、新聞はこぞってそれを報道した。

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