第35章ー陰謀
海兵隊の存在のために史実が少し変わっています。
明治9年の年末、東京の某所にて、男たちが密談していた。
「鹿児島の現状をこれ以上は見過ごすことはできん。特に弾薬製造を鹿児島に頼っているのは危険極まりない。この際、製造所を大阪に移す」
「しかし、それは間違いなく西郷隆盛らにとっては挑発行為になるぞ。本当に武装して挙兵する事態になりかねない」
「早いか遅いかの違いだ。これ以上はためらう必要はない」
「それにしても誰を行かせる。本当に死者が出かねない」
「海兵隊を遣う。川村純義海軍大輔も派遣自体には賛成するだろう。真意を知れば、川村は反対するだろうから、表向きは鹿児島との口約束通り、事前に通報して、日中に小舟を使い、小規模に弾薬製造設備の移送を沖合に停泊した商船に行うということで川村には言っておくが、通報はこちらでやると言っておいて、事前通報はせず、商船を接岸させて大規模に昼夜を問わずに急いで搬出する。そして、武装した海兵隊員を万が一に備えるためと言って乗船させておく。これだけのことをすれば、確実に奴らから暴発してくれる。ともかく、先に1発目を撃たせて、死傷者を出させる。それが肝要だ。我が陸軍の兵士を死なせるわけにはいかん」
「汚いが仕方ないか」
男たちは密談後、三々五々と帰宅していった。
新年早々、荒井郁之助海兵局長は、川村海軍大輔に呼び出しを受けていた。
「海兵隊1個小隊を警備のために赤龍丸に乗船させろ、とのことですか」
「そうだ。陸軍から要請があった。鹿児島の火器硝薬製造工場を大阪に移すのだが、鹿児島は現在、不穏極まりない情勢にある。それ故、移送に使う商船に武装兵を万が一に備えて乗船させておく必要があるのだが、陸軍の兵は船上での行動は不慣れだ。だから、船上での行動に慣れている海兵隊に警備をお願いしたいとのことだ」
「気になりますな。海兵隊は正直に言って旧幕府系の集まりです。鹿児島に行ったら、親の仇のような扱いを受けるのが目に見えています。下手をすると、海兵隊の軍服を着て鹿児島城下を歩くだけで斬られますよ」
「幾らなんでも、鹿児島の情勢がそこまで悪化はしてはいないだろう。それに、きちんと事前に鹿児島県庁には通報して、やり方についても打ち合わせは準備万端に整えておくとのことだ。あくまでも万が一に備えたいとのことだから、安心していい」
「分かりました。念のためにその小隊は本多幸七郎大尉に直接率いさせます。江華島でも実戦を経験していますし、彼なら安心でしょう」
荒井は内心で大きな不安を覚えたが、特に反対できる理由もないので、渋々川村に同意して、海兵隊の派遣準備に取り掛かった。