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第34章ー嵐の予感

前章から2年近く時間が飛んでいます。

 海軍省の海兵局長室は明治10年の正月を間近に控え、無遠慮な面々の襲撃を受けていた。荒井郁之助局長は気心が知れすぎた無遠慮な面々の襲撃を苦笑いしながら受けていた。


「全く遠慮というものを少しはしろ」荒井がこぼした。

「聞こえん、聞こえん。ここ数年、散々こき使いまくったくせに」古屋佐久左衛門が言い返した。

「全くです。去年は朝鮮にも行かされましたからね。まさか、あんな謀略が待っているとは全く露知らずに『雲揚』に載らされて、井上良馨艦長から事の次第を知らされた時は慌てふためきましたよ。私の独断で海兵隊としてはできませんと断ろうかと思いました。そうしたら、海軍大輔からの特命だと極秘命令書まで示されて、危うく江華島からの砲撃で死ぬか、という目に遭わされました。あの恨みはまだ解けていませんからね」本多幸七郎も言った。

「あの件は、本当にわしも知らなかった。知っていたら、反対していた。だから、わしに怒りを向けられても困る」荒井が言った。

「海兵隊の最高責任者なのだから、仕方ないですね。我慢してください」大鳥圭介が混ぜ返した。

「それにしても、熊本、秋月、萩と士族の反乱が相次いでいますね。その鎮圧に出動させられる海兵隊員の身にもなってください」と更に大鳥が続けた。

「今、長崎に派遣されている滝川充太郎からの連絡でも同様のことが書かれている。長崎に駐屯している第2海兵中隊を新年早々に一度呼び戻して、休養させたい。その代りに古屋が率いる第1海兵中隊に行ってもらう。後、砲兵中隊も派遣しておく」荒井が言った。

「何で俺なんだ?」

「まさか英国から帰ったばかりの北白川宮殿下率いる第3海兵中隊に長崎に行ってもらうわけにはいかないだろう。宮様なのだから、いくら本人が固辞してもそれなりの地位に就けねばならん。砲兵の知識を北白川宮殿下はそんなに有しておられない、何しろ英国では海兵隊に砲兵の教育はされないからな。だから、海軍歩兵というのも妙な言い方かもしれんが、海軍歩兵である新編成を完了したばかりの第3海兵中隊長をお願いするしかなかった。となると残りの海兵中隊を出すしかない。そして、本多の第4海兵中隊は編成中となると、第1海兵中隊を長崎におくしかない。ただ嫌な予感がしているのも事実なんだ」荒井が半分独り言を言った。

「というと」古屋が尋ねた。

「長崎の海兵中隊は主に九州方面に睨みを利かせる一環として置かれている。単に睨みを利かせるだけならば第3海兵中隊でも充分だ。だが、どうも実戦が間近い気がしてならん。薩摩士族等の不満は爆発寸前だ。俺から見ればあれだけ優遇されているのに何を言うという気がしてならんが、薩摩士族は維新の功績は自分たちのものという自負から、自分たちが冷遇されているという不満が横溢している。西郷隆盛らが抑えているが、そろそろ限度の気がしてならん。万が一、武装蜂起となった際には歴戦の信頼できる指揮官率いる部隊が現地にいた方が安心というわけだ」

「なるほど、了解した。確かにその危険はある」その場にいた面々も口々に同意した。

「考えすぎかもしれんがな。ところで、土方歳三から蕎麦粉が届いた。北海道の蕎麦の味見をしてくれとのことだ。お前たちが来ることを見越して、馴染みの蕎麦屋で蕎麦にしてもらった。味見にこれから行くが、一緒にどれだけ付いてくる。全員分はあるぞ」荒井が誘った。

「それは楽しみだ。一緒に行こう。それにしても、土方が蕎麦を北海道で育てるようになるとは本当に意外だったな」大鳥が言った。他の面々も似たようなことを言って、荒井の後に続いた。

本当は、江華島事件とかも描く予定でしたが、史実を調べるほど謀略臭を感じてしまって、省略しました。萩の乱とかもすぐに鎮圧されていて、佐賀の乱と同様の描写になりそうでしたので、触れるだけにしました。次から第3部になります。

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