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第21章ー土方

「それでは行ってくる」土方歳三はできる限り軽く、妻の琴に声をかけた。

 琴は気丈にも夫を少しでも心配させないように心がけてはいるが、夫を心配しているのが見え見えの有様だった。

「ご心配なく、勇司も喜多も手がかかりませんし、甥のみならず村の人も協力してくれるので田畑も大丈夫です。心置きなく台湾へ赴いてください」

 言っていることは立派だが、言葉尻が微妙に震えていることが琴の内心を表していた。土方は、却って自分が出発した後のことが心配になってくるな、と思ったが、あえて触れない方が琴にとってよいだろうと割り切って、それ以上は琴に声をかけずに家を出た。


 台湾に赴く第一屯田兵中隊の集合場所になっている第一屯田兵中隊練兵所に土方がたどり着いたときには、まだ集合時刻の1時間前だったこともあり、ほとんど屯田兵はいなかった。だが、時間が経つにつれて三々五々と屯田兵が集まってきた。集まった屯田兵は予め定められた小隊別、分隊別、班別に集合していく。班ともなってくると生活も共にしているので(各班単位で協同して耕作等は実行するのが当たり前だった。)、班単位で練兵所に来る屯田兵も多い。中には別れを惜しむあまり、妻子や親兄弟が練兵所にまでついてきている屯田兵までいた。そして、どんどん各班の編成が完了し、各小隊も順次編成されていった。屯田兵中隊は4個小隊で、更に各1個小隊は4個分隊で、各1個分隊は4名ないし5名からなる3個班でとそれぞれ編成されている。土方が無言で眺めているうちに、集合時間までに4個小隊は全て編成を完結していた。それぞれの各小隊長から、全員そろった旨の報告を受けた後、屯田兵の家族もいることから、土方は一言言ったうえで、練兵所を出発することにした。


「この土地に来てから丸4年が経とうとしている。その間に屯田兵の諸君は、私が指示する数々の訓練に黙々と耐えてきた。その結果、今や君たち屯田兵は日本のみならず世界に通用する精兵になったと私は確信している。台湾に赴いて、これまでの訓練の成果を存分に発揮しようではないか。そして、私は君たちにここに約束する。少しでも犠牲を少なくするように私は努めて、君たち全員とは言わないができる限り多くの者がここに帰還できるように私は努力しよう。だが、君たち自身も無事に帰れるように軍務に精励しなければならない。幾ら私が努力しても、君たち自身の努力も無ければ無事の帰還はおぼつかない。この言葉を胸に刻んでほしい。では、今から出発しよう」

「応」屯田兵たちは答えた。


 土方率いる第一屯田兵中隊は、小樽へ更に長崎へと進んでいく。長崎で第一屯田兵中隊は再編成のうえで独立海兵大隊の指揮下におかれることになっていた。

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