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第17章ーブリュネ

明治5年の夏という設定です。また、この2人がここまでスムーズな会話ができるはずはないのですが、小説ということで目をつぶってください。

 ブリュネ少佐は日本からはるばる来た林忠崇海軍少尉の顔をつくづくと見ながら考えた。この人物とはどこかで会ったことがあるが、どこで会ったのだろう、どうしても思い出せない、妙にこういうことは癇に障るものだなと思った。一方、林の方は感激に満ちた目でブリュネを見続けていた。その林の目は、ある意味ブリュネを更にいらだたせるものでもあった。ブリュネは思い切って林にいつ会ったのかを尋ねることにした。

「申し訳ない。林少尉とはどこかで私はお会いしたはずなのだが、どうしても思い出せない。どこでお会いしたのか、教えていただけないか」

「あなたが覚えておられなくて当然です。私はあの戊辰戦争の際に、土方さんと共にあなたが私達が所属していた遊撃隊の降伏の説得に来られた際に、遊撃隊に所属ていた一員の1人です。あなた方の説得や交渉のおかげで、我々旧徳川家の家臣というか、旧幕臣の多くが生き延びることが出来ました。私にとっては感謝しても感謝しきれません」

 林の言葉は、ブリュネのかつての感慨を思い起こさせると同時に、つい最近起こった悲劇を思い起こさせ、ブリュネの内心を大きくえぐった。ブリュネは言葉を選びつつ、林に出来る限り分かりやすく自分の心情を伝えるとともに、林の祖国、日本が今後に味わう悲劇が少しでもなくなるように林に自分が味わった悲劇を伝えようと思った。

「大鳥海軍少佐の紹介状によると林少尉は海軍所属で海兵隊の一員らしいが」

 ブリュネ少佐は当たり障りのない話から始めた。林はブリュネの内心が分からないらしく、朗らかに答えた。

「そのとおりです」

「大鳥教官がフランスで君に学ばせたい内容は紹介状の中に書いてあった。私は出来る限りの協力はするつもりだが。ところで、君の国では国民が武器を持って、政治体制を変えようとしたことはこれまでにあるかね」

「国民が武器を持って、政治に対する不満から一揆と称する行動を起こしたことはありますが、政治体制を変えようとしたことは無いと思います」

 林はブリュネの意図が分からずに答えた。

「それはある意味、幸せなことだ。国民が武器を持って政治体制を変えようとすることは、国民に大きな返り血を流させることに必ず通じる。我がフランスではここ100年ほどの間に何回、国民が武装蜂起して政治体制を変えようとしたことか。そして、そのたびにどれだけの返り血が流されたことか。このたび、私が速やかに懲戒処分を解かれ、少佐に昇進できたのは、パリの市民が普仏戦争においてフランスが敗北したことに激怒し、パリコミューンという自治組織を結成したのが発端だった。私は諸般の事情からフランス共和政府の一員となり。パリコミューン軍を結果的に武力鎮圧する羽目になった。その際には君たち海兵隊が使っているシャスポー銃がパリコミューン軍を武力鎮圧するために主に使われた。だが、私にとってシャスポー銃は祖国フランスへの侵略撃退に使われるのが第一任務で、武装蜂起した国民を鎮圧するために我々に装備されたものではないはずだったのだ」

 ブリュネは思わずまくし立てていた。林は目を白黒させて黙ってしまっている。

「今の私の言葉の真意はよく分からなくてもいい。私が今、言いたいのは、国民の内戦は何としても避けるべきだということだ。手紙を読んだり、新聞での報道を読んだりすると、日本でも内戦が起こるかもしれないらしい。君たちはそれへの対処を考えねばならない。私も聞かれたらアドバイスをするつもりはあるが、本来は君たちの問題だ。できる限り、国民の内戦を避けるために、君たちは努力しないといけない」

 林はしばらく考えるうちにブリュネの真意を理解したらしい。

「ブリュネ少佐のお言葉は理解しました。私のできる限りのことはします」

「よく言ってくれた。私が今贈りたい言葉は以上だ。よろしく頼む」

 林はブリュネに敬礼し、ブリュネは林に答礼した。

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