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第115章ー西郷隆盛

 永倉新八と島田魁は、土方歳三少佐の直衛を行っていたが、西郷軍の強襲に対して応戦するうちに徐々に土方少佐から離れていた。西郷軍の強襲は、錐のように鋭く細くなっていて、その先端は第3海兵大隊を突破し、第4海兵大隊が応戦する状況になりつつあった。

「さすが、西郷軍の最後の精鋭、ここは湊川か」講談で太平記を聞いた覚えのある永倉は呻いた。

「だが、湊川で勝ったのは足利軍だ。同様の運命をたどってもらう」その永倉の目に、数人の男が護衛した西郷軍の巨漢が通ろうとしているのが映った。

「西郷隆盛か」永倉は一喝して、部下と共に向かった。その声が聞こえた島田も部下と向かった。


 別府晋介らと共に小倉処平は西郷隆盛を護衛しつつ、稲荷川を渡河して前へ前へと進んでいた。当初、10人ほどいた護衛は櫛の歯が欠けるように海兵隊の兵士の前に倒れていく。本来、西郷の護衛は、薩摩出身者で固められていたのだが、小倉が懇願した結果、護衛としての同行が許されたのだった。周囲から襲い掛かる海兵隊の兵士に応戦しようとしていると、大声が聞こえ、更に数十人の兵士が西郷隆盛に向かってくるのが見えた。

「晋どん、晋どん、もうここらでよかろう」西郷隆盛が別府に言った。確かに護衛は最早、数えるほどしか自分も含めて残っていない。一人十殺したとしても無理だった。

「ごめんなったもし」西郷隆盛を海兵隊の手にかけるわけにはいかない。別府はあふれる涙をこらえながら、東を向いて膝を折り、手を合わせて祈っている西郷の首を斬った。

 その直後に、永倉が部下と共に駆け付けた。永倉は眼前で起こったことに思わず動揺していたが、別府は最期の良き敵と思ったのか、永倉に白刃を煌めかせた。その刃を見て、永倉は逆に落ち着き、刀を構えた。別府の初太刀を、近藤勇の教え通りに永倉はかわした。だが、別府は二の太刀、三の太刀と追撃をかけてくる。

「さすが、本場の示現流。二の太刀、三の太刀と追撃をかけてくる。だが」永倉は内心で憐れんだ。

「二の太刀、三の太刀と速度が落ちている」永倉は間合いを測り、得意の龍飛剣を振るった。せめて、自分の得意技で葬ろう、永倉なりの別府に対する敬意の払い方だった。下から上へ、永倉の刀は奔った。別府は永倉の刀を避けきれず、腹から胸へと斬られた。

「無念」別府は倒れた。

 その頃、小倉は海兵隊の兵士に取り囲まれていた。小倉は懸命に応戦するが、多勢に無勢である。右ふくらはぎに銃剣が刺さり、倒れたところに頭を打って小倉は昏倒した。ほぼ同じころに、西郷の護衛は全員が死ぬか、意識を失っていた。

 そこに島田も駆け付けてきた。永倉は島田の顔を見て我に返り、島田に尋ねた。

「そういえば、土方さんは」

「しまった」島田は顔色を変えた。西郷隆盛という声に思わずひきつられてしまった。

「わしが土方さんのもとに駆け付ける。島田は西郷さん達の遺体を護ってくれ。辱めを受けないように。こんな乱戦だと何があるかわからん」永倉は島田に指図した後、土方少佐のもとへ走って向かった。

「分かった」島田は肯いて、部下と共に西郷とその護衛の遺体を護った。気が付くとまだ息のある護衛もいた。島田とその部下は、その護衛の武装を解除し、一部の者を割いてけがをした護衛を海兵隊の野戦病院へと運んだ。島田は西郷や別府らの遺体を背で守りつつ、思わず何度もつぶやいていた。

「南無阿弥陀仏」

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