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第113章ー大雨

 空が明け行く中、雲行きが怪しいのは、西郷軍の幹部にも分かった。

「天佑神助か」桐野利秋は、天を仰いで言った。他の幹部も口々に同様のことを言った。


 一方、海兵隊の幹部の多くは顔色を急変させた。

「まずい。大雨になったら」大鳥圭介は顔面を蒼白にした。それ以上の言葉を飲み込んだのは、部下を動揺させるわけにはいかないという自制心を働かせたからだったが、ほとんど無駄だった。部下たちも大雨が降ったらどうなるかを察して、動揺した。大雨が降ったら、海兵隊のシャスポー銃はほぼ射撃不能になる、つまり白兵戦を挑むしかなくなるのだ。

「頼む、どうか雨が降らないでくれ」海兵隊の幹部の多くが願った。


 だが、海兵隊の幹部でも泰然自若としている者もいる。林忠崇大尉もその1人だった。

「天も泣きたいのだろうな」林はひとり言をつぶやいた。

「戦の後には、よく大雨が降るという。天が泣くからだと。この戦争もほぼ終わりが近い。少し気が早い天だな」梶原雄之助大尉が林大尉を思わずたしなめた。

「しかし、雨が降るのはまずいです。どうしますか」林大尉は笑った。

「刀を振るえる者は刀で、振るえない者は銃剣で戦うまでだ。何か問題があるのか」梶原大尉も戊辰戦争以来の歴戦の兵である。林大尉の笑いに、自らも笑って答えた。

「そのとおりでした。確かに全く問題はありません」


 土方歳三少佐も泰然自若としている者の1人だった。

「これはよい雨が降りそうだ。思う存分、悔いの残らない刀の戦いができる」土方少佐はつぶやいた。だが、島田魁や永倉新八、斎藤一といった面々は顔色を変えた。

「これはまずい、乱戦になる」永倉がつぶやいた。

「とりあえず、私が先陣を務めます。永倉さんや島田さんは、土方さんに注意を払っていてください」斎藤が提案した。

「分かった。土方さんを死なせるわけにはいかん」島田が言った。永倉もうなずいた。海兵隊の配置だが、稲荷川の河口から川上に向かい、大雑把にいって、第1海兵大隊、第3海兵大隊、第2海兵大隊の順に並んで配置され、第4海兵大隊は予備として第3海兵大隊の後方にいる。普通に考えれば、海兵隊の両翼である第1海兵大隊か、第2海兵大隊を西郷軍は攻撃してくると思われた。だが、西郷軍は違った考えをしていた。


「いよいよ雨が降り出したな」桐野はつぶやいた。雨は次第に激しさを増している。

「では、先陣を切らせてもらいます。目標は、あの誠の旗でよいですな」辺見十郎太は確認した。

「それでいい。まさか中央突破はするまい、と海兵隊も考えているだろう。相手の虚を突くのは兵法の基本だ。それに」桐野は言葉を一時、切った。

「最期にふさわしい良い敵ではないか。新選組は」

「同感です」辺見は心からの笑みを浮かべて、桐野に返答した。


「行くぞ、西郷どんを鹿児島へ送り届ける」辺見は絶叫して、大雨の中、突撃を開始した。その後を今や400人程まで数を減らした西郷軍が続く。

「来たな」斎藤はつぶやいた。

「辺見はわしが引き受ける。他の者は全力で西郷軍を阻止しろ」

「応」斎藤の部下が口々に返答した。

「キェーイ」海兵隊の陣地に駆けてくる辺見の口から薬丸自顕流独特の猿叫が響き渡った。

「いい声だ」斎藤は内心でつぶやきながら、辺見を迎え撃った。最後の戦いの激突が始まった。

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