第108章ー肉じゃが
本来なら外伝にすべきかもしれませんが、本編に入れました。
海兵隊の鹿児島での駐屯の日々が始まった。住民からの敵意はあるものの、海兵隊員としては戦闘からしばし離れた安息の日々だった。こうなると兵たちに手紙を書く余裕等も出てくるし、故郷からの贈り物も届くようになる。ある荷物が、第1屯田兵村から届いたのは8月になってからだった。
「土方さんが妙なことを始めたぞ」斎藤一が永倉新八に言った。
「何だと」
「大鳥旅団長に肉や野菜を手に入れたいと言ったらしい。それも何十キロもだ」
「怪しいな」
「怪しいだろう。何か美味しい物を食べる気では」
「俺達も食べたいな」
こういう噂はあっという間に広まる。林忠崇の耳にも入った。林も相伴にあずかろうと算段した。
「参ったな」
「参りましたね。1人分が少なくなってしまう」
「かといって、今更取りやめにもできないしな」
土方と部下の屯田兵達は頭を抱えた。彼らが作ろうとしていたのは、故郷の料理だった。米の取れない屯田兵村では、ジャガイモが主食の地位を占めていた。いつもゆでたイモを食べるというのは辛い。そうなると、ジャガイモ料理をいろいろ工夫するようになる。最近の人気料理は、肉と野菜をジャガイモと煮て食べることだった。春まきの一番ジャガイモが採れたということで、父や夫に故郷の味を久しぶりに食べさせたいと村からジャガイモを大量に送ってきた。それで、どうやって食べるという話になった。折角だから豪勢に肉と野菜を入れたあの料理にしようという話になり、土方たちは準備をしていたのだった。幸か不幸かジャガイモは主食という意識が送ってきた村にあったので、それなりにはある。
「いっそのこと、おかずとして考えるか」
「えっ」
「ご飯と一緒に食べよう」
「何か、そばをすすりながらご飯を食べるような気がしますが、仕方ないですね。自分たちの中隊だけで食べたら、恨まれそうだ」
「食い物の恨みは怖いというから仕方ないな」土方たちは残念がった。
「これが故郷の料理ですか。旨いですね」林はくつろぎながら食った。
「厚かましいという意識はないみたいだな」土方は林を少し睨んだ。
「厚かましいとは思いますが、兵にとって最大の娯楽は食事ですよ」人陰に隠れてしまって、よく見えないが永倉や斎藤、島田魁も相伴に預かっている。それを見て、林はあらためて言った。
「それに皆も旨そうに食っているではないですか。海兵隊のおかずに正式にしませんか」
「俺たちにとっては主食なんだが」
「そうなんですか。いや、それにしても旨い」林は、ぱくぱくと食った。
これが後に海兵隊の料理に正式採用され、いろいろと工夫を凝らされるようになっていくのだが、それはまた後のことである。また、土方歳三が肉じゃがを発明したという伝説も、さらに後には流れることになる。
次章から事実上の最終章になります。




