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第107章ー向こう100年の安泰

「ご苦労だった。海兵隊は向こう100年は安泰だな」川村純義参軍は、鹿児島救援に成功した大鳥圭介海兵旅団長に向かって言った。

「嫌味とはとらないでくれ。私の本音だ。薩摩出身の海軍本体の人間として、旧幕府諸隊出身が幹部を占める海兵隊にいろいろ思うところはある。だが、西南戦争でここまでの功績を挙げた海兵隊を、海軍が予算の都合で云々等といって消滅させようとしてみろ。政府の各関係者から猛反対を食らうし、新聞とかからも絶対に叩かれる。何でここまで有用な海兵隊を消滅させるのだとな。この戦争が始まって以来、田原坂突破、熊本鎮台救援、人吉への一番乗り、鹿児島救援等々、海兵隊の武勲談は事欠かない。海兵隊所属の個人の話も印象に残るものが多々ある。林忠崇大尉は、今平八だったか、今忠勝だったか、と呼ばれているそうだな。横平山で4倍の西郷軍と白兵戦で渡り合い、勝利を収めて、自分は無傷という功績を挙げ、それ以降もずっと無傷で戦果を挙げていては、そう呼ばれて当然だ。他にも古屋佐久左衛門少佐、滝川充太郎少佐の奮戦の末の戦死、ここまでの英雄にきちんと報いなくては、海軍の鼎の軽重が問われる。私の名誉にかけて、きちんと海兵隊の戦死者に報いることは約束する。そうしたことから、海兵隊は向こう100年は安泰だと思うのだ」

「はは」大鳥旅団長は思わず笑いをこぼしてしまった。

「今から後方警備任務にあたる海兵隊の兵たちに、川村参軍の今のお言葉を伝えていいでしょうか」

「ダメに決まっている。あくまでも内々の話だ」

「でしょうね。お伝えしたら、心底から喜ぶでしょうに」


 川村参軍の前を辞去した大鳥旅団長は、建物から出た後に空を仰いだ。梅雨の晴れ間の青空がのぞいていた。それが、将来の海兵隊の運命を暗示しているように大鳥旅団長には思えた。

「よく、ここまで来た。海兵隊は創設以来、海軍本体から消滅させようとする圧力を受け続けてきた。いつ潰されるかと心配していたが、当分の間、その心配はなくなった。本当に良かった」大鳥旅団長は内心でつぶやいた。後1つやっておくことがあった。


「本多幸七郎少佐を第2海兵大隊長に転任する」

「はっ」本多少佐が転任の辞令を受けた。

「北白川宮能久大尉を少佐に昇任のうえ、第4海兵大隊長に任命する」

「はっ」北白川宮大尉が昇任と受任の辞令を受けた。ここに海兵大隊長があらためてそろった。

「海兵隊の再編制はほぼ完了した。それから、山県参軍から命令を受けたが、今後は海兵隊は鹿児島の治安維持の任務にあたることになった。このことは川村参軍からも同様の命令を受けている。任務に精励するように」大鳥旅団長は訓示した。

「それは残念ですな。前線からはお払い箱ですか」土方歳三少佐が半分冗談で発言した。

「ここまで奮闘してきたんだ。後方を任されてもいいだろう。それに陸軍から功績の挙げ過ぎだと嫉視されるぞ」大鳥旅団長も同様の発言で返した。

「それでは仕方ありませんな」土方少佐が発言し、周囲の面々も苦笑しながら同意した。ある意味、海兵隊の面々にとっては戦争が終わったと思われた瞬間だった。

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