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第105章ー重富上陸へ

「1日も早く、本多幸七郎少佐らを救援に向かいたいのだが」6月5日、海兵隊の幹部が集まった会議の席で土方歳三少佐が力説していた。

「そうは言っても、輸送船は鹿児島への物資補給が最優先だ。兵員はその次になる。それに山県有朋参軍は陸海協同での鹿児島救援を策しているらしい」大鳥圭介大佐がなだめるような口調で言った。

「山県参軍が?」林忠崇大尉が口を挟んだ。

「水俣方面から大口を経て陸路で鹿児島を救援しようと陸軍2個旅団が向かっている。また、人吉戦線が一段落したので、人吉から大口攻略のために1個旅団が転進した。そのために西郷軍も奮闘はしているものの、兵力差から圧倒しつつあるという連絡があった。それで、進軍速度等から考えて、6月20日頃に鹿児島の北の重富に我々を上陸させて、鹿児島を攻撃している西郷軍の退路を断ち、鹿児島に上陸している部隊と鹿児島救援軍とを協同させて、西郷軍を包囲殲滅しようと山県参軍は考えているらしい」大鳥大佐が説明した。土方少佐と林大尉は思わず目を見合わせた。お互いに不安そうな顔色をしている。

「何か言いたそうだな」大鳥大佐が言った。

「幾らなんでも、無理です」林大尉が一言で切り捨てた。

「林大尉の言うとおりだな。3個大隊、12個中隊しかない我々で西郷軍の退路に立ち塞がる。鹿児島にいる西郷軍は50個中隊と見積もられています。補給不足に苦しんでいるとはいえ、4倍以上の大軍が死に物狂いで1点から脱出しようとするのを阻止するのは。やれというのならやりますが、その代り海兵隊は壊滅しますし、西郷軍の脱出阻止も無理です」土方少佐が続けて言った。

「それならどうする」大鳥大佐が反問した。

「重富には上陸しましょう。鹿児島奪還に逸っている西郷軍の背後を衝くこと自体は悪い考えではありません。その代り、西郷軍の脱出は黙認して、鹿児島救援のみに目的を絞ります」土方少佐が提案した。林大尉もそれに同意した。

「分かった。山県参軍をその線で説得しよう。それから救援に早く向かいたいのは私も同じだが、兵の補充や消耗した物資の補給を考えると、我々が動けるのは6月16日以降になる。それには従ってもらう」大鳥大佐は会議を締めくくった。


 重富上陸のための船舶の手配が中々つかなかったことや、山県参軍が最終的には海兵隊案を認めたものの西郷軍の包囲殲滅案を諦めるのを渋ったことから、結局、八代港を海兵隊が出発できたのは6月19日になってからだった。補給と整備のために一時、鹿児島を離れ長崎へ回航されていた開陽と東が、補給等を済ませたので、海兵隊の重富上陸作戦を支援するために同行する。本多少佐がかつて言ったように、この光景に大鳥大佐も土方少佐も、そして、戊辰戦争での従軍経験のある者の多くが涙を浮かべた。

「いい今生の思い出ができたな」大鳥大佐が言った。

「止めてください。縁起でもない」林大尉が思わず止めた。

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