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第104章ー大鳥大佐

場面が前章から変わっています。冒頭で鹿児島から人吉へと場面が移っています。

 人吉攻防戦で勝利を収めた後、6月1日に山県有朋参軍の命令により鹿児島への転進を海兵隊は命ぜられた。その命令を受けて、人吉に駐屯している海兵隊は鹿児島へと転進することになったのだが、人吉から鹿児島への最短の陸路は未だに西郷軍にほぼ制圧されている状況下にあった。そのため、土方歳三少佐は人吉に駐屯している海兵隊の最高司令官として、長崎にいる海兵旅団長の大鳥圭介大佐と電信で協議した末に八代港までは陸路で移動し、八代港から海路で鹿児島へと向かうことにした。

 人吉から八代港までは60キロ近くある。6月2日に人吉からの移動を開始した海兵隊は山道を進軍したこともあり、6月4日の夕刻に八代港に到着した。八代港に到着した土方少佐は思わず目を見張った。そこには大鳥大佐が補充兵と共に人吉からの海兵隊の到着を待っていたのだ。やや遅れて八代港に到着した林忠崇大尉も大鳥大佐がいることに驚いている。


「驚かせてすまない。だが、いよいよ海兵隊も指揮官がいないのだ」開口一番に大鳥大佐は言った。

「滝川充太郎少佐まで戦死するとはな。荒井郁之助海兵局長も電信でのやり取りだが、苦慮されているのが分かった。今、一番妥当なのは、土方少佐を第1海兵大隊に大隊長として転属させ、本多幸七郎少佐を第2海兵大隊長に、林大尉を少佐に昇進させたうえで第3海兵大隊長に、北白川宮も少佐に昇進させて第4海兵大隊長にするあたりだろう。だが、土方少佐は子飼いともいえる第3海兵大隊から離れたくないだろうし、第3海兵大隊の兵も幾ら後任が林大尉とはいえ難色を示すだろう。短期間で3人目の指揮官を迎える第1海兵大隊の兵も似たようなものだ。本多少佐に至っては鹿児島で奮戦中だしな。そういったことから、第1海兵大隊長は不在として、私が第2海兵大隊長を兼務することになった。最も鹿児島解放までの一時的なものだ。鹿児島の第4海兵大隊と合流できたら、第2海兵大隊長は本多少佐にして、第4海兵大隊長は少佐に昇任のうえで北白川宮大尉が就任することになっている」

 お手玉みたいな人事異動だな、と土方少佐は内心で思った。だが、ある意味、最善の人事異動だろう。幾ら林大尉が実戦で奮闘し功績を挙げているとはいえ、林大尉より年長の北白川宮大尉を差し置いて林大尉が少佐に昇任して大隊長というのは無理だろう。海兵隊に入隊したのも北白川宮大尉の方が先になる。これが滝川少佐のように北白川宮大尉よりも先に海兵隊に入っていたのなら、まだ言い訳が立つが。宮様で先任でということなら、どうしようもない。先に北白川宮を大隊長にするしかない。林大尉も内心ではどうかわからないが、表面上は納得のいった顔色をして、大鳥大佐の話を聞いている。


「安心しろ。実戦指揮は土方少佐に一任するから」大鳥大佐は更に言った。その一言を聞いて、土方少佐は笑いが堪えきれなくなった。

「戊辰戦争でのことを気にしておられますな」笑いながら、土方少佐は言った。

「まあな、わしは運の悪い指揮官だからな」大鳥大佐は真面目くさった顔で言った。戊辰戦争での大鳥大佐の実戦指揮は悪くはなかったが、勝てずじまいだった。土方少佐の評価が高いのと大違いだ。

「謹んで実戦指揮を司らせていただきます」土方少佐も真面目くさった顔で答えた。

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