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プロローグー榎本

 榎本武揚は腕を組んで瞑目し、椅子に座っていた。

 目の前に差し向かいで座っている男の話を聞いているのか、それとも無視しているのかも傍からは判断ができない。

 目の前の男、勝海舟は熱弁をふるっていた。

「開陽と甲鉄、両方を引き渡したら、最早、幕府海軍が薩長に対抗できなくなるというのは分かる。そして、薩長が絶対に約束を守るのか保証ができないのではないか、開陽と甲鉄は幕府海軍の切り札であり、これを幕府海軍が保持していれば、約束を薩長が破っても対応できる、とお前さんがいうのも分かる。だがな、実際問題として、開陽と甲鉄を引き渡さないと、慶喜公の命は無いんだ。水戸へ向かおうとした慶喜公を、薩長が身柄を抑えてしまっているんだ。速やかに幕府海軍が開陽と甲鉄を引き渡さないのは、慶喜公の密命を受けているからだ、慶喜公が謹慎したのは形だけで、まだまだ戦う気なのだ、と薩長の過激派は息巻いて主張していて、慶喜公の身柄を抑えてしまっている。これ以上、開陽と甲鉄を保持し続けたら、薩長の過激派をますます勢いづけてしまう。それに甲鉄と開陽の存在のおかげで、幕臣の蝦夷地植民の嘆願についてはある程度は受け入れてもいい、と確約を薩長から得ることが出来た。ここまで頑張ったんだ。ここいらが潮時じゃないか」

 榎本は勝の話を聞きつつ、甲鉄がここまで来た経緯をふと思い起こしていた。甲鉄を何とか購入できたのだが、その交渉に当たった部下が甲鉄をここまで運んできたアメリカ人から聞いた話だとして自分に語ったのだった。

「何でもアメリカが南北2つに分かれて争った際に、南部側がフランスの造船所に発注した軍艦2隻の片割れだそうです。造船所は中立違反覚悟でこっそり建造したそうですが、結局、フランス政府にばれてしまって、造船所はデンマークとプロイセンに1隻ずつ売り込んだとか。そうしたら、今度はプロイセンとデンマークが戦争をして、プロイセンが勝った。プロイセンはちゃんと買ってくれたそうですが、デンマークは敗戦で軍艦を買うお金が無い、ということで購入を拒否された。造船所も元を取らないといけないので、また南部に密売したとか。そして、南部の近くにまで運んだところで、南部が北部に降伏したので、北部が買うことになり、更にうちに転売することにしたそうです」

 戦争をそろそろ止める潮時が来たのかもしれん。甲鉄がこれ以上戦争に翻弄されるのを望むとも思えん。軍艦に心があるわけはないが、甲鉄に心があったら、そろそろ安住の地を得て、寛ぎたいと言うのではないか。会津や越後等々から、我々の来援を乞う連絡は来ているが、我々は幕府のためにある。幕臣の生活を維持し、慶喜公の命を護るためにも、ここらで矛を収めるべきか。

 榎本は、慶応4年5月、甲鉄と開陽以下の幕府海軍を薩長に引き渡すことに終に同意した。これは、この後の歴史の流れに影響を与えることになる。

 

 

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