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護朗の日常07




「「あけましておめでとうございますっ!」」


 斜め35度では無く45度きっちり曲げて言われた言葉に譲は穏やかな笑みでもって応えた。


「おめでとうございます。今年も宜しくお願いします。」


 優しげな風情で言われた言葉に男達は和む。


「さ、譲さん、どうぞ座られてください。ご自宅なんですから。」


 マンションに仕立ての良いスーツを着た数名が正月の挨拶に訪れた。年賀の挨拶に来たのである。例年の事とはいえ、今年は2人ほど人数が多い。新たな顔の2人は緊張しつつも人工ではない和みオーラ満載の譲に癒されていた。


 男達は譲を長時間立たせてはいけないので皆慌てて椅子に座る様に促す。


「では皆様も座ってください。」


 タイミングよく宇治が玉露と花弁餅を持ってきた。


「・・・どうぞ。」


 男達は宇治には無く譲に礼を言う。慣れた事なので譲は笑顔でそれを流して場が和むと視線の行く先は一つ。


 譲の背後に鎮座・・・いや、違和感というよりは存在感を放つそれは。


「あの・・・あれは何でしょうか。」


 男の一人が指差す先はそう。


 正月には欠かせない。


 鏡餅。


 それもただの鏡餅ではない。


 高さ2m幅1mの大きさを誇るものなのだ。


「ああ、これはですね・・・。」


 譲の苦笑が滲む顔には彼が設置したものでは無い事は明らかである。


「あけましておめでとう御座います!!!」


 突然響いたのは声変わり前の初々しい少年の声。


 若干強面の顔が混じっている男達が目を丸くすると鏡餅が動いた。


 上下、斜め、横と動きながら半回転した鏡餅の中心には穴がある。その穴には熊のぬいぐるみの顔が載っていた。


「あれ?ご主人様、僕言い方間違えましたか?」


「・・・間違っていないよ。」


 驚く男達の顔を見ながら譲は元旦早朝疲れた体を若干ふらつかせながら起きてきたにも関わらず目を丸くして驚いてしまった自分を思い出す。


 誰だって驚くだろう。前日には無かったものが、しかも巨大な鏡餅がリビングにあれば。


 だがその瞬間やはり護朗の明るい声が響いたので少し安堵したのだ。


 譲は耐性が付いているが目の前にいる男達は護朗の存在すら知らない者達もいる。驚くのも当然の事だろう。


「僕の護衛ロボットです。」


 簡潔な説明だったがそれだけでこの場にいる男達は理解し、また某氏の悪戯を知る者達は苦笑するしかない。


「これ、またあの人の仕業なんでしょうか。」


「かもしれません。朝、工藤さんが来てくれたのですが笑顔で直ぐに帰っていきましたから。」


 それを聞くと全員が苦い笑いを浮かべる。


「といってもこれは既に護朗の趣味と化してしまっているのでどうしようもないと思うのです。それに本人も楽しそうですし子どもの悪戯だと思って笑ってやってください。」


「・・・はあ。そうですな。」


 そういわれてみてみると護朗はぬいぐるみなので表情は動かないもの嬉しげな雰囲気満載で喜んだ?喜んだ?と語っているように見えてしまうから不思議だ。


「子どもならばこれが必要でしょう。」


 男の中の一人が懐から取り出したのはその人が持つにはとても似つかわしくない某サ○リオキャラクターがプリントされたお年玉袋。


 表情筋が硬いだろうに無理して微笑みながら護朗にお年玉袋を渡す。しかし無理して笑うその顔は笑わない顔より更に恐ろしく、此処に人間の子どもが居ない事は幸いと言うべきだろう。


「わ、これってなんですか?」


 鏡餅の格好のまま首を傾げるので餅ごと傾いたがそれもまた愛嬌と無理矢理思うことにする。


「お年玉だ。正月子どもが貰う小遣いだな。」


 すると護朗は譲を見た。


「いただいておきなさい。」


 笑顔の譲の言葉に護朗は嬉しげに無理矢理鏡餅の発泡スチロールから手を出して受け取る。可愛いが、発泡スチロールを砕く鈍い音はいただけない。


「ありがとうございます!」


「それでなにか好きなものでも買うといい。」


 そんなあれこれを全て聞かなかった事にして笑うその男の顔は先程よりも恐ろしいのだが、本人は至って至極真面目に笑みを作っている事と護朗自身が恐ろしいと思っていない事で若干救われた。


「ご主人様ぁ、頂きました。」


 嬉しげな声を出す護朗の声に譲は穏やかな、こちらは本当に人を和ませる笑みを浮かべて軽く頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「いえ、そんな。」


 恐縮する男の横で並んでいた男達もそれぞれお年玉袋を出して護朗に差し出す。こちらのお年玉袋は水引きのそれで可愛らしくもなんともない。


「自分からも。」


「こちらも受け取ってくれ。」


「譲さん、宜しいでしょうか?」


 穏やかな笑みでお礼を言う譲に癒されながらお年玉を差し出す男達に向かって護朗も(人工)和みオーラを出すとその場は益々和みの部屋と化す。


 そうして年始の挨拶が終わった男達はとても気持ちの良い気分で部屋を去っていったのだった。


「良かったね、護朗。」


「はい!」


 回って調子の外れた「お正月」を歌いながら踊る護朗の姿はとても可愛らしいと譲は思うのだがいかんせん。


「・・・・・・・・今日はあまり踊ると壁にぶつかるから気をつけてね。」


 本日の護朗は横に大きかった。


 譲が言うと同時に壁に当たった護朗は見事転倒。更にドアに当たってしまい、発泡スチロール製鏡餅は大破してしまった。その際若干揺れた様な気がするのは気のせいである。


「ううううううっ~。壊れましたぁ。」


 壊れた鏡餅の中から覗くのは羽子板。どうやら羽子板コスプレの上に鏡餅をつけていたらしい。


 何がしたいのだ。


 と思う人間は複数居たが、少なくとも口にする者はいない。何故なら護朗は譲お気に入りの子だからだ。


「・・・そう、羽子板の方は?」


「それも壊れました・・・。うう、実物大羽子板やってみたかったのに。」


 護朗は出来るだろうが、相手がいないだろう。


 だがそれを突っ込む人も誰も居ない。


 譲以外は。


「でも羽子板は相手がいないと出来ないでしょう?実物大羽子板で護朗に適う人はいないと思うけど?」


 首を傾げる譲に護朗は笑顔で手を上げる。


「実は博士がクリスマスプレゼント兼お正月のお祝いにきょうだいを作ってくれるといっていたんです。だからその子と遊ぼうと思って。」


 高いクリスマスプレゼント兼お正月祝いもあったものだ。


 実は護朗の制作費は○億円。それをプレゼントとして用意するというのだから博士は太っ腹だと誰もが思うのは不自然では無い筈。


 護朗を作った博士の実費製作とはいえ確実に数千万円は掛かる筈だろう。まあ、護朗用のスペックを使えばそうでも無いのかもしれないが。


 だがしかし。


 護朗だけでも大変なのに更に一人(?)増えるとは。


 工藤の血管が心配である。


「護朗。」


「はい、何ですか宇治さん。」


「そのプレゼント提案したのはもしかして。」


「佐々木さんです!これも佐々木さんが用意してくれたんですよ!」


 宇治はすぐさま携帯を取り出して譲に一礼すると隣室へと引っ込んでいく。当然工藤に報告するためだ。


 その時チャイムが鳴った。


「はい。」


 直ぐに宇治が戻ってきて画面で確認している。


 さてどんな子が来るのであろうか?


 喜色満面な護朗。


 笑顔の譲。


 引き攣る宇治。


 そして一言も喋らなかったためいたのかどうか分からなかった荒川。


 それぞれがそれぞれの想いを抱きながらドアは開かれようとしていた。




 ・・・・・次号待て!みたいになってしまいました。のりで書いていたらこんな話に・・・(涙) 

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