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護朗の日常06




「きゃふぅ~!」


 粗末な木箱の中身に詰まったポップコーン(米の付く国ではダンボールの中の梱包材に穀物が使われる事がある)の中から両手を天に突き出した形で出てきた護朗は博士の手を借りて地面に足をつける。


 当然、長靴装備済みだ。(皮製の長靴である。)


「大丈夫?」


「はい。充電が心配でしたがなんとか!」


 ドイツの樵スタイルを目指したのか、羽付帽子を被って護朗が持ったのは。


 電動鋸。


 鋭い音を立てて見据えるのは。


 もみの木。


 良く税関通ったな、という突っ込みはしてはいけない。


 これでも護朗と博士は苦労したのだ。


 今二人が踏みしめている大地は。


 実は日本ではない。


 米という漢字が付く国なのである。


 其処までの道のりは長かった。


 


 何故なら二人は貨物船に乗ってきたからである。(飛行機より船の方がチェックは若干緩い。)




 護朗は飛行機に乗ったら色々と、そう。色々色々色々色々色々!と税関や国内は勿論国際法にいくつも引っかかるものをごっそり内蔵させているのだから。


 それなら季節柄プレゼントとして貨物船に乗せてしまえばいい!という事であくまでも子ども用おもちゃロボットと(博士が無理矢理主張し続けて)此処まで来たのである。


 その道のり約一ヶ月。


 米の付く国に着いてから少しだけ、そうほんの少しだけマッドな方々に見つかり大変な事になりそうになったがそれは護朗の中ではとてもとても些細な事だったので割愛する。


 たとえ数十名のギャングや、黒服、サングラス、イヤホン付けた強面のお兄さん達にリボルバーやライフル(機関銃では無かったのは護朗を壊さない為だろう)を持って数十キロに及ぶカーバトルと銃撃戦を繰り広げて返討ちにして結構な被害と騒動を起こしたにも関わらず地元新聞に掲載されなかったとしても。


 護朗にとっては本当に些細な出来事なのである。数十秒で忘れてしまう出来事なのだ。


 最も、博士曰くとても優秀なロボットである護朗が忘れるはずも無いのだが、だがやはりそれは回路に留めて置く程度の瑣末な出来事。


 そんな事より大事なご主人様が紙で指を切った等の大事件の方が護朗にとっては重要であった。


 護朗はご主人様命の(この頃無理矢理中身の外側に少々特殊な綿を詰めて柔らかくなった)セキュリティー兼和みロボットなのである。


 そんな護朗がご主人様の元を離れて単身、海を越えて遥々とやってきた理由とは。




 ジェ○ソンが持っていたものより進化した電動鋸を、大きな音を立てて構える護朗の顔は真剣そのもの。


「博士。どれがいいでしょうか。」


「大きすぎたらマンションに入らないと思うから程良い大きさで、見た目の良いのがいいんじゃないかな?」


 護朗の目は鋭い牙を持つ獣にも似た真剣さを持っている。


 たとえ見た目だけは硝子製の目に似ていたとしても、ロボットなのでそんな目は無理だとしても。


 博士にはそう見えた。


「では、あれなんてどうだと思いますか?」


 指差した先には博士が提案した通りの大きさ、見た目のもみの木が。


「うん、いいんじゃない?」


 大寒波が押し寄せてきていると連日ニュースで騒ぎ立てているにも関わらず博士はお馴染みの白衣をはためかせながら頷いた。


「では、行きますっ!チェスト―!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 護朗は電動鋸を投げ捨てて背中から取り出した刀を両手で構えて其処に向かって走っていく。


 そして一閃。


 もみの木は見事な切り口を残して切り株となった。


「ふぅ。いい仕事ですねぇ。」


「その台詞、使い方間違ってるよ。更に言うならチェストって言って斬るのは縦だから。」


「・・・・・・・・・他に思いつかなかったんです。」


「でも良かったじゃない。良い、クリスマスツリーが見つかって。」


 そう。


 護朗はご主人様の為にクリスマスツリーを取りに某国まで船で来たのだった。


 多少草臥れた格好で若干汚れてしまっている白衣を見ながら博士は笑う。


「はい!これで帰れますね!」


「でも問題が一つ。」


「何ですか?」


「クリスマスまであと5日しかないんだ。船じゃ間に合わない。」


「・・・気合で帰りましょう。小さな船でもあれば僕、漕ぎます。」


「うんそれいいね。じゃあそれで行こう!」 


 かくして護朗は自覚の無いまま暴れ周り、地下に住む人々を恐れさせたのだがそれに気付かないまま海岸へと出て小船で帰っていった。


 強襲した者達はそれがもみの木ひとつ手に入れる為だったとは誰も思わない。


 知ったとしても強制的に忘れた事だろう。


 護朗が某国に来て起こした被害は。


 ○万ドルともみの木一本。


 とても高くついたもみの木であった。






「只今帰りました~。」


 翌々日笑顔でクリスマスツリーを飾っている所へ仕事帰りの護朗の主人が駆け寄ってきてくれた。


「護朗こそ、お帰りなさい。」


 柔らかい声は人工和みオーラを持つ護朗など適わない優しさと和みに満ちている。護朗はそんなご主人様が大好きだった。


「はい!」


「で、何をしてきたの?僕はメンテナンスとしか聞いてなかったから。」


「えへへ。これお土産なんです。」


 指差したのはクリスマスツリー。もみの木が本物である事に気付いた譲は笑顔になって護朗の頭をゆっくりと撫でる。


 柔らかい指を持つ手に撫でられて護朗は思わず笑顔。


「わ、凄いね。本物のもみの木だ。」


 そう言って笑顔になった譲に護朗は益々笑顔になって最後に残しておいた飾りを差し出した。


「ご主人様、これ付けてください。」


 最後の飾りである星を両手で差し出す護朗に譲は益々笑顔になって頬に頬を擦り付けてから星を受け取る。


「有難う護朗。じゃあつけるね。」


「はい!」


 付けられた星は部屋の明かりが反射して柔らかく光っていた。


「護朗。」


「はい。」


「メリークリスマス。」


 そう言って首に巻かれたのは赤いベルベットのリボン。


 そして大きな紙包みを渡される。


「開けてみて。」


 言われたとおり開けて見ると其処には護朗が寝るのに丁度良い、可愛らしい絵柄の刺繍が施された羽根布団があった。


 驚いて目を見張る護朗に譲は笑顔のまま護朗の手を引いて、いくつもある中の一部屋を開ける。


「これ・・・。」


「僕から護朗へのクリスマスプレゼント。」


 部屋の中は机、ベッドと護朗に似合いそうな絨毯が敷かれており温かみのあるそれは一目で護朗の部屋だと分かるものだった。


「でも、ご主人様、僕はロボットなんで」


 言いかけた口を柔らかな手で制してから譲は護朗の肩に手を置いて部屋へと促す。


「護朗は僕の大事な存在だから。今までリビングのソファーで寝かせて御免ね。」


 柔らかく響く声に護朗は益々ご主人様が大好きになる。


「ふぇっ、・・・・・・有難う御座います!」


「どうしたしまして。」


 柔らかく笑いながら譲はもう抱えられない位重くなった護朗を抱き締めて微笑む。


 ご主人様を喜ばせたくて頑張った護朗だったがそれ以上に自分が嬉しいクリスマスとなったのであった。


 

  今回あんまりギャグにならなかったのは他の書いている話全てがシリアスだからだと思います。次は脳内お笑いモードになって書けるといいなと思っております・・・。実はこれ、書き直ししてからUPしたのですが、書き直さなきゃ良かったと後悔中。でも久しぶりに譲を出せたのでよしとする事としUPしました。実は、譲の後ろにはしっかりと宇治さんという人が居るのですが其処は割愛。


 

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