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護朗の日常10



 護朗は(そうはみえないが)目を猫の様にして笑っている。


 にとも(こちらは目蓋が動くので見える)目を猫の様にして笑っている。


「いよいよですわ、お兄様。」


「いよいよだね、にと。」


 それを苦笑気味だが、可愛くて仕方無いと言う風に見守る譲。


 姿だけは(だが譲限定で中身も)愛らしい二人がどうしてこんな風に笑っているかというと。


「きょっお~はぁ~。」


 相変わらず調子の外れた歌声で護朗が歌う。


「「エイプリルフール!!!!」」 


 揃えた声に譲がソファーから拍手を送る。


「それで何をするのかな?」


 艶やかな髪を揺らして問う譲ににとが笑顔のまま振り向いた。


「はい、佐々木さんに日頃の呪返しとしてサプライズをしようと思いました。」


「恩返し?」


「はい!呪返しです!」


 恐ろしきは同音異義語。言葉は同じでも意味が全く違う。


 違いすぎだ。


「そう。では何をするのかな?」


「詳しくはお楽しみです。大丈夫です、工藤様と椎原様には許可を取っておりますから。」


 企画書付きで提出した詳細を読んだ工藤もにとの様に目を猫の様にして微笑み全面協力を申し出てくれたのだ。


 ちなみに。


 護朗は詳細を知らないがにとがするので協力するのである。


 本人はパーティーとしか知らない。


「とっても驚かれると思いますが、楽しいものになると思います。」


「そう、頑張って。」


「はい。それで、ご主人様にお願いがあるのですが。」


「なに?」


「もし佐々木様から電話が掛かってきたらこう言って下さい。大丈夫です、椎原様からは許可を貰っています。」


 にとはそう言って譲の耳元で一行分の言葉を囁く。


「それを言えばいいのかな?」


「はい。」


「いいよ。可愛いにとの頼みだからね。」


 細く優しい手でにとの頭を撫でるとにとは大好きなお兄様に対して向ける笑顔と同等の笑みを向けて頷く。


「ありがとうございますご主人様。」


「でも無理はしないように。」


「それは勿論。」


 かくしてエイプリルフールパーティーは始まった。



 まず午前中。


「工藤様、手配の方は。」


「終了している。」


「ありがとうございます。」


 イヤホンを耳に(どうやっているかは特注なので問題なし。)当ててにとは微笑む。


「にと、僕は何を手伝えばいいのかな?」


「お兄様は今からこの紙に書かれた住所に行ってください。そしてこの花束と菓子折りと、この手紙を持っていって笑顔でその人に渡してくださいね。『お届け物です』と言って。」


「了解!」


 護朗は左手を耳の横に持っていって敬礼をすると渡された品を持って窓から飛んでいった。


 そう、ア○ムの様に。


 ちなみに本日の護朗のコスプレはスー○ーマンである。


 10分して戻ってきた護朗は笑顔で渡してきたよ、と言う。にとは頷いて次にあるところに電話を入れた。会話を聞かれない為に護朗には譲の仕事場に午前のお茶を持っていってもらっている。


 空を飛べば早いのだ。


「あ、私、佐々木の秘書で御座います。」


 にとが出した声は艶やかでありながら女の棘に満ち溢れたものである。


 その後の会話は言うまでも無いだろう。


 2分で終了した後工藤に報告し、後は協力者が佐々木の下に向かうのみ。


 15~20分程で仕掛けてある盗聴器から何が聞こえるか非常に楽しみである。


「お兄様に変な事を吹き込んだ恨みは重いですよ、佐々木様。」


 うさぎの格好をした重度のブラコンアンドロイド(又は護衛ロボット)は愛らしい顔を僅かに歪めて微笑んだ。






一方護朗は。


「博士ぇ~。これでいいですか?」


 首を傾げる仕草に博士は笑顔で頷く。


「ああ、接続も完璧だな。後はこれを・・・と。」


 渡された洋服はシャツに半ズボン。更にリボンタイ、長めのジャケット。色は光沢のある紺。


 20世紀初頭イギリス子息の服を彷彿とさせる。


「これは博士の趣味ですか?」


「いや、にとの趣味。」


 膝下靴下にはきちんとベルトまでついていた。


「にとってこういう趣味なんだ。」


 頷きつつ身形を整えた護朗は時計を見ると博士に手を振る。


「じゃあ、僕は行って来ます!」


「ああ、行っておいで。」


 手を振って見送った博士は一言。


「にと、どうしてあんな趣味になったんだろうなぁ。」


 首を傾げつつ、細かい事は気にしない博士はまあいいかと研究室へと戻っていった。



 そうして佐々木の為のエイプリルフールの準備は万端となったのである。




 その日、佐々木は寝惚け顔で歯を磨いた後新聞を読んでいた。


 今日は休みなのでカラーシャツとスラックス姿というラフな姿である。


「さて、今日は栄子の所だったかな。」


 苦い珈琲を飲みながら新聞をひととおり読んだ後ジャケットを着込んで出かける準備をした。時刻は10時半。


 待ち合わせの場所まで15分で約束した時間は11時だから今から行けば十分間に合う。


 軽く髪を整えてから車のキーを持って駐車場まで降りるとレ○サスに乗って待ち合わせ場所へ。


 5分前に到着は当然だと思って噴水の前で待つ。


 普段ならこういう待ち合わせ方はまずしないのだが気まぐれを起こして了承したのだ。(ちなみに酒井には猛反対されたが無視している。)


「お待たせ。」


 艶やかな声に僅かに笑みを浮かべて振り向くと其処には栄子ではなく楚々とした顔立ちの別の女、佐奈が立っている。


(あれ、間違ったかな。まあ、いいか。)


 よくある事なので気にしない佐々木は頷いた。


「ああ、じゃ、行こうか。」


 佐々木が肘を曲げると女は腕を絡ませてくる。


 そうして歩き出した瞬間。


「待ちなさいよ。」


 これまた艶やかな声が降りてきた。


 振り向くとそこには栄子が。


「佐々木さん、私と待ち合わせしていた筈なのに・・・どういう事?」


 派手な美人である栄子の仁王立ちに佐々木は一瞬怯んだ。


「え、あ、あれ????」


「まあ、時間より遅れてきたのにその言い草。失礼な人ね。」


 楚々とした美人、佐奈が口元に手を当てて微笑むと栄子の顔は一気に歪む。


「なんですって!あなた何様のつもり?!」


「佐々木さんとお付き合いしている女のつもりだけど?」


「はぁ?!」


 佐々木は逃げたい気分に駆られたが佐奈が腕を掴んでいる為動く事が出来ない。


 待ち合わせ場所が外なので人の視線は痛いし、女二人の気迫は男達のものとは種類が違い少し恐ろしい。少し、ほんの少しである。あくまでも僅かなのだ。


「・・・・・・・・・お取り込み中失礼致しますね、ちょっと宜しいかしら。」


 そんな険悪モードの中、更に女の声が降ってきた。 


 栄子と佐奈が振り向くと訪問着を着た女性が花束を持って立っている。


「なに。」


「取り込み中よ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・日名子。」


 佐々木の呟く声に栄子と佐奈は怒気を含ませた視線で佐々木を睨みつけるが瞬時に女同士の闘いに戻っていく。


 笑顔と般若の形相とすまし顔のにらみ合い。


 とりあえず通行人は避けて通っている。


 今までに数度経験している為、とりあえず佐々木はその光景に無表情を装っていたが何回体験してもこれには慣れないなぁと人事の様に考えていたのだが。


「さ・・・佐々木さん。僕だけじゃなかったの・・・?」


 涙声のボーイソプラノの声に女3人と佐々木が一気に振り返った。


 するとそこには。


 黒く艶々とした髪に大きな瞳、白い肌、ほんのりと染まった頬と唇、子ども特有の肉付きの良い手に桃色に染まった膝を剥き出しにした、リボンタイが良く似合う美少年が目に涙を浮かべて立っている。


 紺色のジャケットと半ズボンがいけない想像を掻き立てる、ショタコンにはたまらない美少年だ。


「ひ、酷いっ。」


 目尻一杯に浮かべた涙が一筋頬を伝う。


 すると今まで般若の形相だった栄子が瞬時に顔を変えてハンカチ片手に少年によっていく。


「大丈夫?泣かないで、ね?どうしたの?このおじさんと知り合い?」


 ブランドものの高価なバックを躊躇なく地面に落として丁寧な優しい手つきで少年の涙を拭う栄子は母性愛に溢れていた。


「さ、佐々木さん、酷い・・・。」


「どうして?お姉さんに言ってみて?ね?」


「う、うん・・・佐々木さん、僕だけじゃなかったんだ・・・。」


 栄子の顔は再び般若の形相に戻った。いや、先程以上の迫力がある。


 恐ろしい。


 腕を掴んでいた佐奈は思わず一歩下がる。


「あんた・・・こんないたいけな少年にまで手を出していたの?」


 地底より這い出るような声に佐々木は慌てて首を横に振った。


「そんなわけないだろう?!」


 佐々木は必死だ。いくらなんでも痴話喧嘩の上にショタコンで変態の捺印を押されたくない。


「俺が好きなのは成人した女だけだ!」


 必死の声に、だがその美少年が佐々木に抱きつく。


「酷い、僕を忘れたんですか?僕ですよ、護朗です。」


 陽射しの香りと少年特有の匂い、そしてあたり一面に漂う色香。


更に顔を上げてしっかりと見えたその顔には見覚えがあった。


「譲さん・・・・?」


 譲の顔にどことなく似ているその少年の声に佐々木は漸く思い当たった。


「確かにその声は・・・護朗。」


 だがしかし佐々木が記憶している護朗は熊ぬいぐるみの護衛ロボット(90~120cm)だった筈。


「そんな顔を覚えてくれていないなんて・・・僕の声だけしか覚えていないなんて酷すぎます。」


 大人な女性達は一気に批判の目を佐々木に向ける。大人の勘繰りというやつだ。


「声しか覚えていないって・・・・佐々木さん。」


「違う、違うんだ!こいつは会長の大事な人の護衛ロっ!!!!!」


 足を踏まれて続きが言えない佐々木の靴には栄子のヒールが食い込んでいる。


「譲さんという方よね?それは知っているけど、今のあなたの言葉を誰が信用すると思っているの?」


 栄子の言葉に今まで大人しく(?)微笑んでいた日名子が携帯電話を取り出した。


「譲さんの所の子、という事でしたら真相は譲さんにお聞きすればよいのではないかしら?私達の問題より護朗君の方が先でしょう?」


 その言葉に佐奈も頷き、女達に気圧されながら佐々木は全員に聞こえる状態にして譲に電話する。


『はい。』


「あ、譲さん、佐々木です。」


『お疲れ様です・・・あれ、確か今日は佐々木さんお休みでしたよね?どうされたんですか?』


「実は護朗が今此処に居るんですが、妙な事を言っていまして。」

『護朗がですか?』


「はぁ。」


 未だに抱きつかれた状態の護朗を見下ろすと目に涙を浮かべて佐々木を見ている。


「何か、妙な事になっていまして。」


 佐々木が冷や汗を掻きながらも何とか言うと護朗が叫んだ。


「佐々木さんが、僕だけじゃないって言うんです!!!!」


 わぁ、と涙を溢れさせて訴えて、栄子に涙を拭かれつつの言動に佐々木の背中に流れる汗は数倍となっていた。


『・・・・・佐々木さん。』


「いや、違うんです!譲さんだってご存知でしょう?!護朗は」


『今まで色々と目を瞑っていましたが、僕の大事な養い子を泣かせるなんて事許すと思いますか?』


 いつもは柔らかな声が淡々としておりそら恐ろしい。


「いや違うんです!」


『覚悟しておいてください。』


 問答無用で切られた通話は無常にも通話終了の音だけが流れている。


 冷えた視線が二つ。泣き喚く護朗にそれを宥める愛溢れた声の栄子。そして興味津々な衆目。


 どうする、どうする、どうする。


 ここで逃げては後々どんな噂を流されるか分からないし、その前に護朗が抱きついている時点で逃げられない。


 言い訳するにも今は何を言っても無駄だという事は経験済み。


 見下ろすと少年特有の色香に満ちた少年が泣き喚くのを止めて佐々木を見ている。


「佐々木さん。」


 哀願するような声になんだ、と擦れた声を出してしまう。


 と、突然護朗は満面の笑みを浮かべた。


「え?」


「エイプリルフール成功!!!!!!」


 抱きついていた手を外して隣に居た佐奈と栄子にハイタッチ。


 更に日名子に頭を下げる。


 そうしてひゃっほーい、と言って腕を上げてジャンプ。


 栄子は眩しげな眼差しで拍手を送っている。


「迫真の演技だったわよ、護朗君。」


「栄子さんも佐奈さんもご協力ありがとうございました。」


 日名子は苦笑しつつ手を叩いて頷く。


「私は知らされていなかったのだけれどね。」


 今日、約一時間前に花束と共に此処に来るように指定があっただけの日名子だったが経験値故に悟って傍観していたのだ。ここで引っ掛かっては自分もエイプリルフールに巻き込まれると思って。


「ごめんなさい、怒ってる?」


 首を傾げて問う護朗に日名子はいいえと首を振ってそれでと尋ねる。


「エイプリルパーティーというのはこれの事なのかしら?」


「違うみたいです!パーティー会場を押さえているのでそこでパーティーするんですよ。」


「護朗君も参加するの?」


「ええと・・・どうなんでしょうか。ご主人様が参加するなら僕もすると思いますけど。」


「参加しないのなら私と一緒にデートしない?美味しいパフェをごちそうするわ。もちろん可愛いと噂のにとちゃんも。」


 嬉しげな笑みで誘う栄子にパフェ・・・と夢見心地で考える護朗。

「なぁ、パーティーって。」


「「「「佐々木幹部をエイプリルフールできた成功パーティー」よ」です。」じゃないの?」


「ちなみに工藤様も参加なさいます!・・・・あ、譲様も参加するそうですから皆さん一緒に行きましょう!栄子さん、にとも来ますから。」


「そうなの?じゃあ、今度一緒に遊びに行っていいか譲さんに許可を貰おうかしら。二人一緒は無理だとしても一人ずつ。」


 栄子は夢見心地で宙を見た。


「じゃあ、行きましょうか。」


 日名子の一言に女達は護朗を中心として歩き出す。


 佐々木の腕は佐奈に再びしっかりと握られているので佐々木も引き摺られる様に歩き出したのだが。


「・・・・・お前等顔見知りだったのか・・・。」


 愛人同士が顔見知りだとは知らなかった佐々木の呟きに佐奈は笑う。


「だって携帯電話の着信履歴消去していないし、他に女がいるの隠そうとしないから。」


 明るく笑う佐奈の言葉に佐々木は項垂れた。


「まじかよ・・・。」


「わ、パーティーにクロカンブッシュがあるそうですよ!」


 きゃあぁ~と喜ぶ声と佐々木の溜息が同時に口から吐き出され、その差異に過去の様々な出来事の中で1,2を争う程疲れた佐々木であった。




 だが。



 パーティー会場には現在佐々木と付き合っている面々が勢揃いし、とぐろを巻く闘いが勃発する事を彼はまだ知らない。

10話以降は不定期更新で行きます。

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