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「百人兄弟」10円
「あなたのお父さんは、日本の少子化に随分と貢献されたそうですね」
「はい」
「兄弟はいるのですか?」
「私の兄弟ですか」
「長男は、戦時中フィリピン沖で亡くなりました」
「それは、残念ですね」
「長女は、広島の原爆の被害に遭い。遺体もみつかりません」
「はい」
「次男は結核に冒されました。当時は薬なんてなかったですから」
「はい」
「次女は、赤線ってわかりますか」
「はい、確か今で言う売春でしょうか」
「そうです。性病がうつり亡くなりましたね」
「三男は、シベリアに抑留され行方不明のままです」
「なるほどですね。それにしても、ご兄弟が多いですね」
「何を言われます。まだまだこれからです」
「なんと驚きです」
「三女は、食い意地がはってまして、鉄砲に当たりました」
「鉄砲?火縄銃?」
「拳銃のことではなくて、フグのことですね」
「ああ、はい」
「八男は、漁師でして大シケの日に船が転覆し、帰らぬ人となりました」
「悲しいことが続きますね」
「私も、兄たちから聞いた話なので、リアルタイムには知りません」
「時は流れてますからね」
「六女は、洋裁が得意で、今女性に人気のブランドKを生み出しました。残念ながら、生きてはいませんが」
「ブランドですか」
「十八男は、認知症を患って、老人ホームで余生をすごしています」
「十八男……」
「十四女は、生まれつき病弱で三歳で亡くなりました」
「はい」
「九男は、トラックに追突され事故で亡くなりました」
「はい」
「十五女は、統合失調症で我を失い。麻薬に手を出しビルから落ちて自殺しています」
「そうですか」
「四男は、不倫の果てに海に入り、入水自殺をしています」
「はい」
「二十女は警察官となり、犯人を追跡中に打たれ。殉職されました」
「はい(長いな……)」
「今、長いなと思いませんでした」
「いえ」
「二十四男は、肺ガンで亡くなりました。薬の副作用で、最後の最後まで苦しみました」
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「そうですか。亡くなった方が多いですが、元気な方はいますか?」
「四十四女は、グループアイドルのオーディションに合格して、持ち前のプロポーションでセンターをやっています」
「それはすごい」
「三十男は、音楽大学を出てクラシックの作曲家をやっています」
「おお」
「三十六女は、OLになって事務仕事を担当しています」
「ふむふむ」
「二十五男は、お好み焼き屋をしていましたが火事で亡くなりました」
「まだ存命な方は?」
「三十二女は、土木の公務員で元気にしています」
「ええ」
「三十五男は、町工場で鉄の加工をしていましたが、不況で今無職ですね」
「兄弟それぞれですね」
「三十九女は、専業主婦ですね。子供も二人」
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「その前までの方は独身?」
「はい」
「結婚してる方は?」
「五男は、アフリカに行ったきり帰ってきません。現地の方と結婚して子供が一人いると風の噂で」
「そうですか」
「十女は、夫を二十歳で失い。シングルマザーで、子供を一人育ててこの世を去りました。生活保護に頼っていた気がします」
「はい」
「二十男は、ハンターをしていたのですが、猛獣に噛まれて亡くなりました。結婚はしていましたが、子供はいません」
「子供は、神様からの授かりものですしね」
「四十女は、子供を妊娠し保育師のパートを退職しています。今年10月が予定日です」
「よく覚えてますね」
「家族ですから」
「いやはや」
「十三男は教師をしていました。戦争反対を唱え、紛争地帯の国へ渡り、行方不明に。子供がいたかどうか……」
「はい」
「四女は、五人の子供を産み。ボタン付けの内職をしていました。すでに亡くなっています」
「だいぶ昔に戻りましたね」
「四十一男は、ブライダルプランナーに努めていて、同僚と結婚しました。子供はこれからですかね」
「いいですね。まだ若い兄弟も?」
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「五十女は、生まれたばかりでかわいいです」
「赤ちゃんもいるのですね」
「四十八男は、小学生です」
「ふんふん」
「四十五女は、中学生ですね」
「はい」
「四十三男は高校生です」
「はい」
「四十一女は大学生です」
「はい」
「三十八男は大学院生です」
「ええ」
「三十三女は、コンビニでアルバイトをしています。結婚はしてなかったかな」
「はい」
「十男は、老衰でなくなりました。一番良い死に方でしょうか」
「自然の死ですもんね」
「八女は、夫の作った借金を返せず、電車で命を絶ちました。子供たち三人は、いまだにその借金を返してるとか」
「かわいそうですね」
「六男は医者ですが、過労で倒れてこの世を去りました」
「職業も豊富なのですね」
「五女は、料理教室の先生をしていました。原因不明の高熱により亡くなりました。子供は二人いましたね」
「先は長そうだ」
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「ここらで一服でもします?」
「そうしますか」
「ふー生き返る」
「ですね。続きをどうぞ」
「十一男は、金物屋をしていました。繁盛店でしたが、突然入って来た強盗に殺されました」
「ええ」
「二十九女は、両親の決めたお見合い結婚をしています。子宝五人に恵まれ、幸せに暮らしています」
「へぇー」
「七男は、結婚詐欺をしてしまいまして、犯罪者として服役。なので、家族のほとんどは嫌っています。釈放後、七女と駆け落ちしまして。けして、兄弟の間で許される恋ではありません。二人はどこへいったのか。捜索願いも出していません」
「それは大事件だ」
「十四男、十五男は、IT関連のベンチャー企業をたちあげ。今はその孫が億万長者になっています」
「ほうほう」
「三十女、三十一女は、二人揃って出家し、西日本と東日本に分かれ、地震で失われた命を鎮魂に周っています」
「すごいです」
「十二男は、プロ野球選手になり、最後は心筋梗塞で亡くなりました」
「はい」
「九女は、バレーの選手でしたが、スパイク時の着地に失敗。床で頭を強く打ち、脳のクモ膜下出血で亡くなりました」
「東洋の魔女ですか……」
「二十八男は、十二男を見習って野球一筋の人生を送り、メジャーリーガーとして活躍しています」
「これは名選手!」
「三十四女は、なでしこジャパンのGKをしていますよ」
「なでしこまで」
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「三十六男は、身体的な障害があって、介護士の方のお世話を受けています」
「そうなんですね」
「二十五女は、もう亡くなっていますが、生前スーパーのレジを打っていたそうです」
「ええ」
「二十九男は、麻雀師で毎日ギャンブル三昧。嫁さんと子供に呆れられているそうです」
「ははは」
「四十九女は、三歳です。やっと言葉を話し始めました」
「一番良い時期」
「五十男は、幼稚園生。もも組です」
「かわいい」
「四十八女は、六歳になったばかり、口ばかり達者で困ります」
「へぇ」
「四十九男は、四歳ですね。走るのが早いです」
「ふーん」
「四十七女は、七歳です。体が弱いため、風邪をひきやすいです」
「はい」
「四十七男が、確か小学生で戦隊者が好きです」
「はい」
「四十六女が、来年中学生ですね。大人っぽくなってきました」
「ええ」
「四十六男は、中卒で寿司屋に弟子入りしました」
「頼もしい」
「四十三女は、高校を中退して、買春で事件を起こしました。親と兄弟が叱ると家出をしました。今は風俗で働いているのではないでしょうか」
「時代ですかねえ……」
「四十五男は、高校生で剣道をしています」
「心身共に鍛えているんですね」
「四十二女は、大学生なんですが、こまったことに華麗な容姿で、男に金品をたくさん貢がせていると聞いています」
「将来は恐ろしい女性に」
「四十四男は、中卒でとび職になり、東京スカイツリーですか?あれをつくるのを手伝ったとか」
「いいですね」
「三十七女は、浪人、留年、休止を繰り返して、いまだ大学生です。留学が好きらしく」
「四十二男は、高校を中退してフリーターになっています。将来どうするのか」
「そりゃ、不安です」
「三十五女は、一度就職はしたのですが、仕事が嫌になり退職。今は看護師の学校に行っています」
「人それぞれ役割がねえ」
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「三十一男は、農家で野菜を育てています」
「いやあ、兄弟の多さになれてきましたよ」
「十六女は、作家です。人間愛の話が好きでした」
「ふんふん」
「三十二男は、絵が好きでね。海外で画家になりましたよ。本業より、アルバイトで飯くっているのでしょうね」
「画家は厳しいな」
「十三女は、旅館で働いていて、露店風呂の掃除を主にしています。胃ガンで、彼女は命を落としましたが」
「ええ」
「十六男は、JRの新幹線の運転士です。十代の頃、声を聞いたことがあります」
「そうですか」
「二十七女は、エステを経営しています。女性専門だとか」
「はい」
「四十男は、天文学者です。宇宙の研究をしています」
「おお」
「二十三女は、ケーキ職人で、一流ホテルのパティシエです」
「おいしいのでしょうね」
「二十七男は、林業をしています。不況で国産はあまり売れないそうです」
「どこも不況がありますね」
「二十一女は、科学者です。ノーベル物理学賞を受賞しことがあります。出来高細胞を発見しました」
「すばらしい」
「三十四男は、スタントマンをしています。ハリウッド俳優の代わりに車にはねられたとか」
「ハリウッドですかー」
「十二女は、塾の講師をしていました。今は、塾跡地になっています」
「へぇ」
「二十一男は、漫画家をしています。俺たち東西南北の作者です」
「存じていますよ」
「二十六女は、保険の営業をしていますね」
「はい」
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「十七男は、飛行機の製造に携わっていました。病で亡くなりました」
「ラストスパートでしょうか?」
「もう少しです、眠らず聞いてください」
「はい」
「十一女は、クリーニング屋をしていました。子供が後を継いでいます」
「ええ(疲れてきた)」
「十九男は、ヘリコプターのパイロットです。自然公園の空中散歩が特に多いそうです」
「はい」
「二十八女は、家でひきこもって、完全にニート状態です」
「あらら」
「二十三男は、牡蠣の養殖をしています。中腰の姿勢が多く、肉体労働です」
「ふむふむ」
「十八女は、古里舞踊の踊り子です。地域の活性化がしたいと。階段から落ちて亡くなりました」
「そうですか」
「二十二男は、ニュースキャスターです。毎朝目にしています」
「ああ」
「二十四女は、能の達人でした。古い伝統を大切にする人でしたね」
「ほー」
「三十九男は、プロゴルファーです。年間の獲得賞金が一位の年もありました」
「すごい」
「十七女は、スチュワーデスでした。当時では考えられないぐらい英語がペラペラです」
「はい」
「二十六男は、銀行員です。一円単位で割りカンでケチでした」
「ははは」
「十九女は、産婆さんです。たくさんの命が生まれる姿を見守ったそうです」
「はい」
「三十七男は、お笑い芸人でした。一発屋で、一年間だけ仕事がばんばん入ったそうです」
「いましたね」
「二十二女は、傭兵です。外国人部隊に所属していたそうです」
「いやー、兄弟って心から良いですね」
「残りの紹介していない二人は、私と妹で双子です。二人で歌手をしています」
「ということは、話にでていないあなたが○男、双子の妹さんが○女ですかね」
「いかにも、私が○男、妹が○女です」
「長々とインタビューをお受けいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、いつでもお話しますよ。百人兄弟は私の誇りですから」
「おつかれさまでした」
完