5話
…ぅうん!いい目覚めじゃ!
妾は自分で作った家のベッド―さすがにシーツ1枚じゃ。柔らかいベッドまで持ってたりはせん―から体を起こし壁を殴り付ける
――ドゴォ!!!
うむ…良い天気よ
隣で寝ておったシノンが飛び起きて文句を言ってきたけど気にせず朝食の準備を頼む
昨日は体を動かして、食事もしっかり、沐浴も出来て睡眠もばっちり
言うことはなし
今日も張り切って行こう
…とはいかんな
ベッドから立ち上がり服を手に取る
ローブが血なまぐさいのじゃ。なにか違う服を見繕うか…
「アイテムポケット。妾の服」
…出てきたのは絹の服じゃな
うす緑のシャツに茶色のスカート
コッペパンに穴があいたような靴
右手の指にはまった指輪が精一杯のお洒落感を出しておる
どこの街娘じゃ…
妾もこんなの持っておったんじゃな
おっ!インナーが魔蚕で作ったシャツじゃ
これは着心地が快適な素材で魔法防御がかなりある
今日の昼にはアディリアにつくから目立たぬよう控えめにと言うことかの
「ドミニクが何かする前に着替えるとするか」
着替え、身だしなみを整え、朝食を取ると昨日作った家を土に還す
残しておいたら盗賊が住み着きそうじゃし
ささっと朝食を食べて―ドミニクがめちゃめちゃ食べておったがそんなに腹が減っておったのか?―出発する
「今日の夜にはアディリアに着きますね。運命の相手はいるでしょうか?」
「そうじゃのぅ…居ればいいのう。できれば…悪人でなければいいが」
「理想ひくっ!!」
シノンよ…妾の男運を舐めるでない
声をかければ盗賊、強盗、暗殺者。寄ってくるのはチャラい男、権力目当て
大臣共もそりゃ見合いでどうにかしようとするわな
「なるほど。それなら占い?に頼りたくなる気持ちも分かる気がします」
「着いたらまずは拠点作り。次に冒険者ギルドにでも行ってみるかの」
まずは落ち着ける場所を得なくてはな
もし運命の相手に出会えても家がなければその場かぎりになる可能性大…
逢い引きするのにも準備がいるもんじゃな
「次の出会いをしくじれば666回目じゃからのぅ…」
「御察しします」
はぁ…
「そういえばなんでギルドなんですか?」
シノンは話題を変えてきた。ちょっと重かったか?
「ん。なんとなくじゃ。妾はあまり自由に行動したことがないし働いた事もない。しかも妾には労働の知識はない。そこで腕っぷしはある妾なら冒険者で稼ぐのが良いと考えたのじゃ。ま、ついでに聖銀が報酬のクエストなんてあれば最高なんじゃがな」
「そうですね…っと。ドミニクーー!お腹いっぱいだからって遅いと置いていくよ~!」
かなり後ろを歩くドミニク。斧は杖じゃないぞ
―――――――――――――――――――――――――――
「…やっと着いたぁ…」
最後に到着したドミニクがこれ見よがしに座り込んだ。もう一歩も動けぬと言いたげじゃな
まぁいいか。今日くらい妾が宿を取りにいくかの
「シノン。お主はドミニクとここで待っとれ。妾が部屋をとってくるからの」
「大丈夫ですか?」
「まかせとけ」
二人を街の入り口に置いて宿屋を探す
アディリアは半円と長方形がくっついたような形の街で東西に入り口がある
東側がバルビア。西側が人族側の入り口だ
街の中央には緩衝帯として長く広い南北を貫通する2本の大通りが敷かれている
もちろん緩衝帯は中立で食物屋、服屋、武器屋、ギルド、宿屋があるのじゃが街の南北に別れていて人族と魔族の対立に巻き込まれないように造られておる
つまり入り口からもっとも遠い
しかも南北どっちかわからん
ちぃと面倒じゃが散歩と考えて街を見てまわるか
建築物は主に石造と木造。緩衝帯に近づく程石造が多くなっている
中立地帯に向かい―何故街の宿屋を使わぬのか?それは既にいっぱいじゃって断られたからじゃ―緩衝帯に沿ってまずは南へ
まぁその付近の壁もボロボロで衝突が頻繁に起こっているのを物語っておるがな
緩衝帯もあまり役にたっておらぬ
だって反対側の大通りにはやはり人間が見回っているようだしな
ふむ…宿屋があったな。
こちらにあるのは食い物屋、服屋、宿屋
という事はギルドや残りは北の方か
登録は明日じゃな
で、宿屋じゃが中立であるからか建物にダメージがない
流石に中立だからといって端っこに作るだけの事はあるな
宿屋には食い物屋が隣接していて食い物屋は木造だ
入り口にケンカ両成敗と書いてあるからきっとケンカが起こるのは頻繁なんじゃろう
修理しやすいよう木造なんじゃろうな
宿屋は二階建てで一階は石造、二階は杉でできた木造だ
暗くてよく見えないけど窓の感じから見ると一部屋がけっこう大きい
これから見ると金をかなり取られそうじゃ
まぁ妾は魔王だし、金だけは持っとるからどうでも良いが
一階に入ると正面にカウンター―カウンター横には食い物屋に通じている扉があるが明日世話になろう―があり、その向こうに支配人らしき人物がいる
カウンターからゆっくりと歩き出てくる
仕立てのいいシャツに黒のベスト。シワのない黒のパンツ
「お主が支配人か?」
ニコリと一礼
「左様でございます。お客様…お泊まりでしょうか?この宿は少し値が張りますが…」
ああ、街娘の格好じゃったな。
まぁ金持ってる風には見えぬよな
「今日を休めればそれでよい。それから連れがおる。記入だけ先にさせてもらおう」
「わかりました。ではこちらに…。それにしてもお客様は運がいい。最後の一部屋だったのですよ」
記入台帳を差し出しながらそんな事を言ってきた
危ないとこじゃった。街に着いたのにシーツ一枚は涙が出ちゃうのう…
だって妾は女の子だもん
…………妾は何を言っとる
記入を済ませると街の入り口へ引き返す
中立地帯を入り口付近に向かい歩くと街の反対側、つまり人族側が少し騒がしい。何かあったのか?
騒動では無さそうじゃが…
確かめる気にはならず二人を迎えに足を進めるとすぐに見つけた
二人は入り口の両サイドで座り込んで何か話しておった―シノンは火の魔法を練習しながら立ったようじゃが―が妾に気づくと立ち上がり近づいてくる
「シノン。ドミニク部屋が取れた。行くぞ」
今日の部屋は広そうじゃしドミニクがいても―端っこにロープででも抑えておけば―問題ないじゃろ
ドミニクは顔が蕩けておる。ベッドで寝れるのが嬉しいらしい
妾が宿の場所を教えるとふらふらと軽い足取りで歩いていった
覇王の斧の【ステータスUp】と【重量操作】を上手く使っておる様子
シノンはシノンで足に風魔法付与して歩く速度が早い
二人とも早く宿で休みたいようなので―喋るのも億劫になっておる―こちらも話さず一直線に宿へ
――たのむ。何とかならないか?
なんじゃ?
支配人に掴みかからん勢いでカウンターに手をついている男がいる
その後ろに男一人、女二人
カウンターで支配人を困らせている男は茶髪で短髪、鋼色の鎧、剣。使い込んだ鞘や柄からそこそこ強いと評価
後ろにいる男は短髪も短髪で黒い髪を立てて威圧のある目鼻顔立ちをしている
口を結び茶褐色の瞳が男を見ている
全身鎧、鎚、デカイ盾―先が尖っているな…スパイクシールドとカイトシールドを足したような盾じゃ―からチームの盾役か
続いて白を貴重とした神官服、ロザリオ、錫杖の女
間違いなく神官じゃな
整った顔のさらさらな金髪、メリハリある身体。胸はシノンよりある程度
カウンターの男に諦めて夜営を進めておるが街にいて女がいるのに夜営はないと聞いてくれずこちらも困っている
最後の一人は明らかに魔法使い。節くれだった杖に黒の三角帽子とローブ
帽子を深く被っておるので顔は解らぬ
「…zzZ」
こやつ立ったまま寝とるぞ
と、いつまでもこうしてても仕方あるまい
―んんっ!
軽く咳き込んでみるとカウンターにとりつく男とその取り巻きがこちらを見てきた
「お帰りなさいませ。お客様」
支配人が妾に気づいて挨拶してくる
「うむ。こやつらがツレじゃ。部屋はどこかの?」
「はい。二階の角部屋、208号室になります。今荷物係を呼びますので少しお待ちを…」
「構わぬ。荷物など手に持ってる物くらいじゃ」
ドミニクの覇王の斧に視線をやるがそれくらいは預けんでも持てるはずじゃ
「左様で…ではこちらが鍵になります」
ああ、と鍵を受け取る
「すまないがひとつ頼まれてくれないか?」
カウンターにいた男がこちらに向いて話しかけてきた
薄い青、水色、空色を思わせる瞳
吸い込まれそうじゃ
「ニーナ様…?」
いやいや大丈夫じゃよ
「ん?な、なんじゃ?」
妾は何事も無かったかのように―したつもり―返事をする
シノンが声が上ずっていると言ってきたが仕方ないじゃろ
人族の男じゃぞ
「あんた達が泊まる208号室は6つベッドがあったはずだよな。出来たら女性二人を相部屋させてもらえないか?料金も半分だす」
「う~ん。妾は別に構わぬが…妾達は…魔族なんじゃ。」
妾はシノンの耳を指さしていう
「…やめましょう?私達は野宿でも…」
神官女が言った
やっぱり人族と魔族は相容れんのかのぅ
一応言ってみるか
「誰か一人は床か椅子に寝る事になるかもしれぬがそれで良ければ全員来るが良い。もちろん着替えとかの時は出てもらうがの」
きっと仲間と離れて魔族といるのが嫌なんじゃ無いかと思ったわけじゃ
「私…もうねむい」
妾から鍵が抜けてプカプカと魔法使いの方へ飛んでいった
魔法使いは先に部屋に向かうみたいだ
「決まりじゃな。ま、妾達も出費が減るから得ではあるから気にする事はないぞ」
「そう言ってもらえると助かる。…が、まさか魔族が受け入れてくれるとはな」
「なにやら誤解があるようじゃが…妾達は攻めて来る者しか攻撃せんので安心せい。ま、そなたらで殺れるのはドミニクくらいなもんじゃて」
カウンター男レベル38、盾役40、神官女27、魔法使いで35じゃった
シノンはレベル自体は低くても装備品の差で圧勝じゃな
ドミニクは戦闘向きで無いことがわかったからそんなもんじゃろ
シノンを見て胡散臭げに見ると続いてドミニクに視線が集まる
「ドミニク…ってこの人ドワーフ!」
ドミニクは眠かったのか船を漕いでおったが大きい声に目を冷ましおった
…支配人から冷たい目でさっさと部屋へ行けと言われておる
『静かに』を忘れずにじゃ