4話
街を出てから2日目
妾達は国境の街アディリアに向かう道のりの途中じゃ
妾達は馬車や馬(妾の転移魔法も)等を使わずに徒歩での行軍をしておる
何故使わないのかと聞かれたら道中で会うものもチェックしたいからのう
馬を買ったりしても妾の事がバレるからな
妾達は魔族だったり妖精族だったりするので体力的には余裕がある
二日目であるがそこまで疲労は感じぬな
それで今何をしているかと聞かれれば
夜になったので夜営の準備をしておる
「ニーナ様…食事の用意ができました」
いいタイミングでシノンが声をかけてきた
うむ、と立ち上がり丘の上にある小屋から離れた
「ほぁ~…また立派な物を造りましたね」「我らは女じゃ。せめて寝るときくらいは安全でありたいからな」
来たときは丘の上には小屋なぞなかった
妾がまだ野宿をしたくなかったから土魔法で強引に作り上げたんじゃ
「そうですね。身の危険を感じますよねぇ」
火の番をしているドミニクがこちらを見て手を振っておる
「昨日だけで何度辱しめられたことか…」
「ええ…ドミニクがあんな人だとは思いませんでした」
初日、出発直後躓きシノンのお尻にタッチしたり
昼食後アンダーシャツで寛いでいた所に水をぶっかけ下着を見られたり
夕食後、近くの河原で水浴び中、近くを散策していたドミニクが通りがかり我らの体を見られそうになったり
今朝はシノンに抱きついて寝ておった
まだシノンも闇の衣を使いこなせてないのでオートカウンターが発動しなかったから仕方がないが…
もちろんシノンがビンタを食らわせたのは言うまでもない(寝てるときまでイージスの盾を装備しておらんかったからな。ちゃんと殴れた)
そう、小屋を作ったのはドミニクから我が身を守る為じゃ
「ニーナ様。シノン!早く食べようよ!」
イラッ!
―パァン!バキッ!
「ぎゃひ!ひぶぇっ!」
シノンがビンタ、妾はグーパンでうっぷんを晴らす
「あなたは!反省って言葉を知らないの!」
「で…でも…わざとじゃ…」
顔を腫らして涙と鼻血をたらすドミニク
「当たり前よ!もしわざとなら今頃噛み砕いて魔物の餌にでもしてるわ!」
妾は二人を無視して食事にありつこうとするがうるさくてかなわん
「シノン…仕方がないが回復してやってくれ。そして夕食にしよう」
妾は早く食べたいんじゃ
「ホントに仕方がないですね」
シノンにはありあまる魔力知識を有効活用させ回復、風、土をマスターさせた
魔力が乏しいので大きな魔法を使うには先になるけど初級回復魔法ならいけるじゃろ
「ヒール」
また怪我をしていた鼻をなぞりあげ治療しているが…
「っクシュン」
…………
治療がうまくいかないから何度もなぞっておったらくしゃみをしおった
夕食に入らんで良かったわ
シノンもギリギリ避けたみたいじゃしドミニクももうよさげだ
「やっとごはんにありつけ―」
「―られんようじゃな」
「え?」
妾は手をチョキの形で肩まで挙げると体を横にずらす
―ヒュッ―パシッ
妾は指を閉じ迫り来るものを捕まえた
「っナ?コイツ見モシナイデ俺ノ剣…ウッ…動カネ」
指を放すと勢いよく転げおった
ボロい革の鎧に錆びた金属製の剣
顔を見るとホブゴブリンじゃな
ゴブリンと同じ緑の肌をしておるが妾達と同じような人型で背丈で。ゴブリンは無理じゃがホブゴブリンが人語を話すので間違い無いじゃろ
落ち着きの無い仕草に不意打ち
盗賊か…
「な…え?誰ですか?」
「お知り合いですか?」
ドミニク…お前空気読め
「お主ら、戦闘準備。敵は10…いや9人じゃ。一人三匹は倒せよ」
杖を握り転げたホブゴブリンの頭を殴り吹っ飛ばす
隠れていた盗賊共に降り注ぐように散らしてやると戸惑ったような声をだしながら接近してくる
「シノン。お主は左の三匹を。ドミニクは右の三匹をやれ」
妾はもちろんリーダーっぽい奴がいる中央の三匹じゃ
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ニーナ様の指示通り戦闘準備をする。といっても意識的にだけだけどね
刃物はまぁ包丁でいいか
私は左の奴を殺ればいいのね
出しっぱなしの包丁や皿を手に走ると相手は向かってくるとは思ってなかったみたいで一瞬怯んだ
こいつらはケンカしに来たんじゃない。私達を殺して持ち物を奪う強盗だ
だから容赦しないよ
皿に風の属性を付与(まだ直接使えるような魔法は無理だ)して手前の盗賊に投げつける
―パリン―ザクッ
一枚目は避けられたけど二枚目で左足を切り裂いた
「ギィィィ!足ガ!俺ノ足ガ!!!」
うるさくなぁ。殺す気できたなら殺されても仕方ないでしょ
包丁に土魔法で硬化させ足を斬ってやった強盗の胸を革鎧ごと胸を突き刺してやった
うん。まだ未熟でも応用さえできれば十分戦える
「死ネェ!!」
一人目に構っている間に残りに囲まれたけど特に恐怖は感じないな
魔蝶の首飾りの魔法知識は魔法道具にも作用するらしく闇の衣の操作も教えてくれた
私は右腕、背中部を囲うように大きな盾をイメージする
―ガギギギィィィ!
もちろん闇の衣はイメージを受け取り思う形に変形。真っ黒な盾が敵の攻撃を受け止めてくれた
このまま取りつかれても面倒ね
「闇の衣!弾け」
―バン!
草原に倒れ込んだ片方にジャンプからの踏みつけ
お腹を思いきり踏みつけると血を吐いて気絶した
内臓もいくつか潰れただろうしじきに息絶えるだろうな
コイツももういい
これであと一人
最後の一人を見ると後退って怯えだした
「オッ!オマエ仲間ニシテヤル?一緒ニコナイカ?親分ニ話セバ…」
勧誘に見せかけた命乞いか…
所詮は強盗か。
「ふぅん…それも良いかもね」
私は武装解除して強盗に近づく
「ヘ?ソ…ソウダロ。盗賊モイイモンダゾ」
もちろん強盗になる気はないし逃がす気もない
だから隙をみせる
「じゃあみんなに言わないとね」
と私はニーナ様やドミニクの方を見る
「ゲヘヘヘへ。ダレガオ前ナンカ仲間ニスルカァ!」
うん。案の定隙と勘違いして襲ってきた
こちらの頭を叩ききるような一振り
大振りすぎるわ
包丁に風を付与して横に一線
「ガ…」
剣ごと強盗の頭をはねて殺した
私のノルマは終わりね
他のみんなは…
ニーナ様は既に終わってて火の近くに座り込んでご飯食べてる
ごはんは既に半分以下だ。早く食べないとパンだけになる
…くんくん
血の匂い…ニーナ様からだ
赤いローブだからわからないけどかなり血に染まっているわ
あ…思い出したニーナ様のあだ名
敵の血で染まることから『血塗れスカーレット』と言われていたはずだ
この人とだけは戦わないようにしよう…絶対
「お~シノン!なかなかやるのう。皿を手裏剣にするのは良いアイデアじゃったぞ。ただ予備が減ったがのう」
皿を手裏剣って一番最初じゃない…
その間ずっと食べてたの?
「ドミニクが帰ってくるまでゆっくり食べようぞ」
「ドミニクー!頑張ってね~」
私もごはんは食べたいので走り回るドミニクを放置して席についた
―――――
「うわぁぁぁぁ!ちょ!ちょっ!」
シノンもニーナ様ものんきにごはん食べてないで助けてよー
「マチヤガレー!!!」
ひい!ホブゴブリンの怖いお兄さん達が追いかけて来るぅ
嫌だぁ!その醜悪な顔を歪めて走ってこないでよ!
「ヤダよ!殺されるって分かっててなんで止まるのさ!」
「ウルセー!コレデモクラエー!」
え?なに?何する気?
ホブゴブリンAさんは手に持ってた剣を振りかぶって投げて来た
うわぁ!危ない!!
僕は走る向きを変え逃げる
一人武器の回収の為に少し遅れがでてる
このまま全員をバラけさせればニーナ様の所へ行ってくれるかも知れない
ニーナ様なら一発だろうし―さっき見てたらパンチ一発で爆散ってどういうこと!?―なんとかしてくれないかな!
「ドミニクよーい!一人でやらぬと飯抜きで一人で火の番させるぞ~」
ぎゃあ!逃げ道も塞がれたぁ!!!
どうしよう!どうしたらいい!?
「ハァッ!ハァッ!チ、チク…ショ…ナンテ逃ゲアシダ」
「ダガ、コレデ逃ゲラレンゾ」
武器を回収したホブゴブリンさんが僕の進む道を通せんぼする
「ドミニクーお主のパン食べてもいいかぁ~?」
!!
くそぅ…殺るしかないのか
「ハァッハァッ…ハァッ…ヤッ…ヤット諦メタカ…手間カケサセヤガッテ」
良く見ると息も絶え絶えだ
これなら僕でも勝てるかも
「ナンデソンナニ体力ガアルンダ…オマエ」
あ!
覇王の斧!これか!
ただデカいだけじゃないんだね
よーし。嚇しになるかもしれない。これで逃げてくれたら嬉しいな
「これはね…魔王様からいただいた覇王の斧。敵を容赦なく殲滅するための武器さ。魔王様には合わないから譲ってくださったんだ。君達みたいなのに使うのには気が引けるけどしつこいからいいよね」
ってか覇王の斧やっぱでかいな。
イージスの盾は普段はバックラーくらいで助かる
でもイージスの盾も場合によってはタワーシールドくらいになったりする
防御するとき盾の範囲外に攻撃来たら自動的にカバーしたりする
昨日ニーナ様の水浴び中に遭遇―大丈夫!見てないよ!見てたら生きてないし!未遂に済んだよ。顔面に岩をいっぱい投げられたけど―した時はそうだったけど覇王の斧は身長を越すくらいのデカさがあるんだよ
ちゃんと使えるといいな
イージスの盾から守る気持ちを無くし覇王の斧を両手で構える
「さぁ来なよ。これで頭をかち割ってあげる」
―ブゥン!
と前方へ一振り
――――ガガガガガガガ!!!!!
「「ギャア!!」」
斧頭が地面に触れた途端前方の地面が裂けていって2体のホブゴブリン達を粉砕した
は?何コレ?
「お~地走りを使えるのか!やるのう」
地走りとか知らないよ!あ~二人死んじゃったじゃないか…
ニーナ様のせいだからね!
「クッ、クソ!コンナハズジャ…」
他の2体の軋轢死体を見ながら最後の1体が後退り
はぁ…もう疲れたよ
「出来たらさ…もうどっかいってくれない?」
僕は手でシッシと払い見逃してやると言うとこっちを見ながら離れ逃げていった
―――――――――
結果的に僕は今日をパン1つで乗り越えなければならなくなった
「…ああ、お腹すいたな」
バトルさえなければ今頃お腹いっぱいだったのに…
あのホブゴブリン…
次に会ったら捕まえて同じ目に合わせてやるからね!