1話
魔王ニルバーナメインのお話
「はっ…初登場じゃ。妾がニルバーナ・バルビア・エヴァンジェリンじゃ!よろしく頼むぞ」
「皆さんはプロローグ読んでるはずですから名前くらいきっと知ってますよ」
「では妾のはち切れんばかりのメイド姿も」
「スリーサイズでも公開してみては?誰か引っ掛かるかもしれませんよ」
「妾はそんな破廉恥な真似はせん」
「まぁ、そんなことよりアイテムポケットから…」
スタタタタタタ…
「………」
魔王城を抜け出し、城下町に降りてきた
現在地はバルビア大陸、首都のバルビア。まんまじゃな
目指すは人族の大陸じゃな
もう665回もお見合いしてるし目ぼしい相手はもうおらんからな…
言ってて悲しくなってきたわ
気を取り直して行こう
時刻は昼過ぎじゃな。
相変わらず雑多な場所じゃが活気は溢れておる。
魔族だからちょっぴり血気盛んな所はあるが人死にはないのが良いところ
魔族と言うからには魔物ではない
魔族は人族と姿形はそれほど変わらん
魔族は基本的に本来の姿を隠しておるからの。角くらいでしか判断できんのだ
そもそも魔物は自然発生じゃし、魔族にだって襲いかかってくる
人族はそれすら解っておらんがな
世界中にあるテラーポイントという穴からでてくるんじゃ
魔族側の方はばっちり管理しておるが、たまに新しいポイントができるから探索は定期的にしておる
人族側の方は知らんがな
「さてと…」
まずは服じゃな
大通りにでも行けばわかるか…
……………
「って、わからん」
久しぶりの外出だし、前回から100年近くたっておるはず…
全て入れ替わっていてもおかしくないからの
こう言うときは
―キッ
そこらにいる魔族男を捕まえて案内させるのがいいじゃろ
支配の魔眼で睨むと男は大通りに関わらず妾の目の前に膝まづいてきた
支配の魔眼は…まぁそのままの力じゃな。魔王固有スキルじゃ。単体でも複数でも可じゃ
女には効きにくいが気にもならん
使わない方が楽だしの
「なんなりとお申し付け下さい。まお…」―バン!
いかんぞ~。
魔王などと言ってはいかんぞ~
城から逃げたのがバレるじゃろ
「お主。妾を服屋…に…」
いかん。強く叩きすぎた。鼻血を出しながら気絶しておる
―ざわざわ
周りは昼過ぎだからかまだ人が結構いる
ヤバイの。ここは一旦逃げるか
小道に入り民衆の視線から逃げる
ここで騒いだら城から兵士どもが降りてくる
人目を避けて路地から路地へ
「スカーレットの返上はしばらく先のようじゃな」
ため息をつく
いかんいかん。マーテルの癖が移ってしもうたわ
というか服屋なぞ別に探さなくてもよかったわ
「コスチュームチェンジ『闇の衣』」
闇の衣は物理、魔法を全て無効化できるし、イメージを伝えることで形を変える事ができる優れものよ
妾は闇の衣をホットパンツとシャツベストに変更する
ブーツとアイテムパックをつけてアクティブさも出しておこう
うーん。闇の衣は戦うのには良いがお洒落感がないのう
白黒灰色しかないんじゃ。華やかさがない
んむ?いかんな。いつの間にか道に迷ってしまったわ
今までは石造りの建家だったのに周りを見れば木でできた家ばかり
言ってはなんだが掘っ立て小屋じゃ
道を尋ねようと近くの建物に入る
「ここは…アクセサリー屋か…」
外観は言っては悪いがただのボロ小屋だ。キィキィと鳴る吊り看板が閑古鳥をよんでそうじゃ
こんなところに店を出しても誰も来んじゃろーな
―ギギギギ
うわっ
蝶番も錆びてる
店舗は6畳一間くらい
狭い店よの
「たのも~」
なんか違うな
妾は道場破りに来たんじゃない
「すまぬが誰がおるか」
埃っぽいな
奥の方に扉があるから住居と兼用といったところか
「いらっしゃいませ…何かお探しかな」
おおぅ!店番おったのか!
見た目は15・6くらい。割りとイケメンじゃが幼い印象を受ける
妾の趣味ではないな
ボサボサで適当に伸ばした黒髪
頭につけたゴーグル
腕までまくった汚ない作業着にエンジニアブーツ。何が入ってるかはわからんがパンパンに膨れたポケット。左右の腰に付けた大小の金槌
この少年はドワーフか
その証拠に両腕に何かの刺青が入っている
詳しくは知らぬが種族的な慣わしとかそんなんじゃったはず
大人(一定の歳だったか儀式だったかわすれたが)になるとみんなが知ってる背の低い頑固親父になるからこの少年は見た目通り子供のようだ
ふむ。ただ道を聞くだけなのもつまらんな
世間話でもしてみるか
「店番よ。なぜこの「冒険者さん。見た通りうちは装飾品を扱っている。値は張るかもしれないけど持っていて損はないよ」
いやいや…いくら売上がないからか知らぬが…押し売りはいかんぞ
あと喋っておったじゃろ?被せるでない
「のう…店主や。お主何故ドワーフなのに武器を作らんのじゃ?」
ビクッとなりおった。他の者がなったりするのは嬉しいのう
「ドワーフは住み込みの弟子を育てると聞く。その歳なら師がおるはずじゃが…何故棚に武器をおかん?師はどうした?」
「ん~。その…もう免許皆伝ってか…自信なくすとか言われて追い出されたんだよね」
「なんと!では一人前なのか!しかし棚には…」
剣が無いどころかアクセサリーにまで埃が被っておる
「ドワーフなら名刀の一つや二つ…」
「いや…だって…闘う事も減った今の世じゃもっと売れないよ」
まぁそれはあるか…魔族は基本的にケンカはするけど戦闘はせんのじゃから
「なら国境近くの街に行けばよいではないか。兵隊には飛ぶように売れるぞ」
人族側からの嫌がらせで交戦が多発しておるからな
小競り合い程度の小さな戦闘がある。需要もあるじゃろ
「でもお金もない。行った先に工房もない。素材もないじゃ何もできないし」
ふん…つまらぬ奴
「もうよいわ。大通りに戻る。どっちに向かえばよい?」
「………」
黙ったまま指をさすドワーフ
「ふん。これは情報料じゃ。せめていい素材でも探すんじゃな」
金貨を一枚カウンターに置いて店をでる
無駄な時間を過ごしたわ
確かあっちじゃな
よし。いくか!
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えっと…こっちじゃな
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む…行き止まりか…戻ってみるか。はぁ
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いかん。大通りが遠ざかっていく。
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ええぃ!
どうなっておる?確かにあっちが大通りみたいじゃがそっちに向かう道はどれじゃ?
というかさっきの店主にちゃんと聞いておけば良かったわ
「魔王様」
誰じゃ!
振り向いた先には小汚ない老婆
歯が抜け落ち顔もシワだらけ。手もくすんで汚れておる
いかにも浮浪者
どっからどうみても浮浪者じゃな
THE浮浪者じゃ
うむ?何故妾が魔王だと?
「そなた…何故妾が魔王だと知っておる?」
「知っておりますとも。赤髪金目、琥珀の角」
ヒッヒッヒと笑う老婆
趣味の悪い笑い方をするでない
「見てましたよ。見てました。貴方様がお見合い相手を壁に埋めて、侍女を亜空間に放り込み更にメイド服を奪ったり、大通りで男をかしづかせたり…全て」
「す…すべて?」
「そぉう。すぅべぇとぅぇ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
来るな!にじりよってくるなぁ!
「と、まぁそんな魔王様にお伝えしたいことがあります」
「…」
「占いによればあなたは…今年中に運命の出会いが三つもある」
「う…運命の出会い…じゃと?しかも3つとな」
今が6の月じゃ半分も過ぎておる
いや…まだ半分あると考えなくては
「ええ、いつかはわかりませんがひとつは国境の街、ひとつは人族の神殿、最後の一つは…」
一つは?
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ええい。焦らすでない。なんじゃこの間は
「バルビア」
「よし分かった。国境の街に行く」
「即答!ちょっと待ちなされ!このままこの街にいれば…ふがふぁ」
うわぁ!入れ歯が飛んだ!汚い~!
「絶対嫌じゃ!。女の感が言っておる。妾を幸せにする者は国境にいると」
この街にいるならいつか見つかる
誰が魔王城に帰るものか。帰れば説教が3日は続くに決まってる
それより出会いについてじゃ
「他には!他にはなにかないのか!アドバイス的なものは!ラッキーカラーとかないのか!」
ほれ!なにかカモン
「ゆ…」
おっ!なんじゃでるのか?揺すってみるもんじゃな
「ゆ?お湯か?」
湯など持ち歩けんな。沸かしながら歩いてたらおかしい奴じゃな
神殿をお勧めしたいのう
「ち、ちが…指…」
血?指?
血塗れの指なんか持っとればすぐにお巡りさんが来ちゃうじゃろ
大丈夫か?今から病院に連れてってあげような
「指輪!!指輪ですってぇ。もう止めてくだしゃれぇ」
ん?なんじゃ!それならそうと早く言わぬか
「はぁはぁ…年寄りに何をなさるか…一瞬花畑が見えてしまいましたわ」
「勿体ぶるからそうなるのじゃ。して…指輪とな。妾の持ってる物でよいのかや?」
貢ぎ物やらなんやらで腐るほど持っておるわ
「聖銀のものが良いとありますな」
「聖銀かぁ…魔族じゃ持っておらぬだろうの~」
「それでは…お伝えしましたぞ」
―ダダダダダ
走って…って、おい!お主本当に老婆なのか!
はぁ…追いかける気もせんわ…
「―にしても聖銀とな………」
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「という訳で国境の街アディリアに行く。ついて参れ」
「えっ?なんで僕?という訳って何?」
そう、妾は先ほどのドワーフを国境の街に連れていく事にした
装飾品は得意そうじゃし、ちょうどいいじゃろ
「ちょ!えっ!せめて説明~」
こうして妾の運命の出会いの為の旅が始まった
ただ…少年店主の店を探したりしてる家に…
「もう夜ですよ~!」