主任がゆく(千文字お題小説)PART7
お借りしたお題は「前」「後」「時系列」です。
松子は住之江博己に対する恋心を一旦封じ込め、商店会の会長に渾身の唐揚げを出す仕事に徹した。
「おお、ホンマやな、住之江はん。見習いの兄ちゃんが揚げたモンとは別モンや」
会長は手放しで松子の唐揚げを誉めちぎってくれた。
「ありがとうございます」
松子は照れ臭いのと住之江に微笑まれているのとで顔が紅潮した。
「この商店街の新しい名物になりそうやな。頼むで、姉ちゃん!」
会長は松子の肩をぽんぽんと叩くと、豪快に笑いながら店を出て行った。
「足立さん、凄いですよ。あの会長さんはお世辞で人を誉めないと言われている方なんです」
住之江にまでそんな事を言われ、松子はとうとう俯いてしまった。
「そ、そうですか……」
住之江は店の中に誰もいないのを確認すると、
「ちょっといいですか、足立さん」
店舗の裏にようやく完成した小さな事務室に入っていく。
「あ、はい」
松子は何だろうと思って彼に続いた。
「杉本さんから聞きました。彼女、随分と失礼な事を言ったようですね」
住之江は松子にパイプ椅子を勧め、自分も松子の前に腰掛けた。
「え?」
そんな話を切り出されるとは思っていなかった松子は目を見開いてしまった。
「彼女、仕事はできるんですけど、どうも同性の受けが良くないんです。周りはみんな敵、みたいな感覚を持っているようで……」
住之江は溜息混じりに続けた。
「そうなんですか……」
杉本美樹は本社の人事担当の女性だ。時系列で話を整理してみて、何故美樹に敵意を向けられるのかわかった。
(確かに同性には好かれないタイプかも)
松子は違う理由で自分も同性に好かれていないと思っている。
「東京にいる時、彼女に交際を申し込まれて断わったんです。その後、私が別の女性と話していると、敵意を剥き出しにして、私の知らないところで虐めていたそうです」
住之江が何故そんな話を自分にするのかも気になった。
「私が守りますから」
住之江がボソッと言ったので、松子は耳を疑った。
「え?」
すると住之江はもう一度、
「私が足立さんを守りますから!」
耳を疑う余地のないほど大きな声で言った。
「まだ知り合って間もないのに気持ち悪い男だって思われるでしょうが、それでも構いません。貴女の事が好きだから」
松子は気が遠くなった。
(ええ!?)
生まれてもうすぐ三十年だが、一度も男子から告白された事はないので、頭がおかしくなったと思った。
気がつくと、住之江に後ろから抱きしめられた。
おおっという急展開です。