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青春リライト  作者: ぽん
一章
5/9

無口な男と饒舌な男

 宣言から五日目。

 今のところ何もかもが順風満帆で、自分でも驚くほど学校が楽しかった。一年の頃は朝が億劫で仕方なく、世界が永遠に闇で閉ざされていればいい、などと中二病というより破滅願望に近い思考を持っていたのだが、今となっては朝がとてもさわやかなものに感じられる。

 今日も小夜と蛍と共に登校している。花も恥らう可憐な女の子二人の後ろを歩くのは眼福以外の何物でもなく、僕はこのポジションをしっかりキープしようと心の中で誓った。無論、これはストーカー心理ではなく、三人が横になって歩いていると邪魔だという常識的発想から生まれた副産物である。

 断じて言うが、やましい気持ちは無い。僕にとって彼女たちは家族と天使でしかない。家族には家族の愛情しかなく、天使には信仰心が溢れるだけである。

 誰にともなく心の内で弁明していると、あっという間に高校に着いた。最近は高校までの道のりが短いと思うこともしばしばだ。これも偏に孤高の戦士という重すぎる枷から解放されたおかげだろう。

 小夜とは昇降口で別れ、蛍と共に二年の下駄箱に向かった。

 自分の上履きを取り出そうと、下駄箱の扉を開ける。

 すると、そこに何かがいた。

 反射的に手を引っ込める。


「薫くん? どうかしたのかい?」


「いや……」


 得体のしれない不安感を覚え、蛍の言葉にも曖昧にしか返事ができない。

 恐る恐る下駄箱の中を凝視する。


「……っ!」


 上履きの中にムカデが潜んでいた。

 あまりの気持ち悪さに心臓が早鐘を打つ。不快な汗が背中に滲む。

 嫌がらせ……? それともたまたまムカデが侵入したのか……?

 とりあえず、僕は下駄箱の扉を閉めた。今ムカデを外に解き放ったら無駄に注目を集めてしまう。それに、蛍にもこんなものは見せたくなかった。


「薫くん?」


「……ちょっと職員室に、用があるのを思い出したから。先に教室に」


「……うん。わかった」


 蛍は少し訝しんだ様子を見せたが、追求することなく教室へ向かった。ありがたい。

 さて、朝のHR(ホームルーム)が始まるまであと十分ほどある。それまでになんとかムカデをどこかに逃し、教室へ戻らねば。

 しかし登校する人は切れ間なくやってくるので、なかなか下駄箱に手を付けられないでいた。教室にも行かずここで立ち尽くしていると変な目で見られるので、さっさと処分したいところである。


「おう、なにしてんだ」


 そんな折、源田くんが下駄箱にやってきた。でかい図体ゆえに彼の持っているカバンが小さく見える。

 だいぶギリギリの時間に登校してくるんだなとどうでもいいことを思いながら、返事をする。


「いや、まあ」


 しかし何と言ったものか。

 ムカデが僕の上履きを仮宿にしているのでさっさと立ち退き願いたいと思っているところです、とは言いたくない。

 僕は自分が嫌がらせを受けているということを、他の人に知られたくないのだ。まだ嫌がらせと確定したわけではないが、十中八九そうだろう。


「もう教室行かねぇとHR始まっぞ」


「そろそろ、行く」


「なら早くしろよ」


 くそっ! ムカデがいなかったらすぐにでも彼と一緒に教室に行けるのに! 彼がこんなにも嬉しい催促をしてくれているというのに! なんでこんなときに限って上履きをムカデに取られているのか!

 僕は気持ちを押し殺して言った。


「君は、先に行ったらいい」


「……お前、なんか隠してんな?」


「まさか」


「わかったぜ。お前さては、下駄箱にラブレターでも忍ばせようとしてんだろ。はっ、古典的だなおい」


「……違う」


「お? いま少しばかり間があったようだが?」


「とにかく、違う」


「けっ、まあいいや。じゃあな」


 彼はつまらなそうに手を振り、教室へ向かう階段を上っていった。

 よし、そろそろ人もいなくなったし、ムカデを処分しよう。

 僕は掃除用具入れからチリトリとホウキを取り出し、装備を整えた。

 再び下駄箱と対峙する。この中にあのモザイクを張って然るべきおぞましい生き物がいるのかと思うと身の毛がよだつ。とにかく開けたくない。もはやパンドラの箱である。

 そうしてうだうだしていると、登校時間の終わりを告げるチャイムがなった。じきに朝のHRが始まるだろう。逃げている場合じゃない。

 そーっと扉に近づき、当たって砕けろの心境で開け放つ。同時に後ろに飛び退る。

 ムカデは上履きの中に未だに居座っていた。それほど居心地がいいのか、あるいは僕の足の臭いを気に入ったのか、いずれにせよいい迷惑である。

 ホウキで上履きを突いてムカデを誘い出そうとしていると、横から野太い声が飛んできた。


「おう、なにしてんだよ」


 源田くんだった。さっき教室に行ったのではなかったのか。


「なぜ、君が」


「まったく女に興味なさそうな顔してどいつにお熱なのか気になってよ。教室に行ったふりして見張ってたんだが……なんだ、なんか下駄箱に入れられたのか」


 つい先程の彼は人を喰ったような笑みを浮かべていたのだが、今の彼は泣く子も黙りながら失禁しつつ土下座も辞さないくらいのヤクザフェイスと化していた。もし僕がトイレを我慢していたらこの場は大惨事となっていただろう。

 源田くんは僕の下駄箱を覗きみると、うわ気持ちわり、と率直な意見を述べながら、ムカデが住み着いている右足の上履きを持って外に出た。す、凄い、よく躊躇なく持てるな。格好いい……。

 彼は上履きを振ってムカデを地面に落とすと、僕に上履きを投げ渡した。


「ったくよ。これくらいさっさと処分しろや。もうHR始まってんだろうが」


「ごめん。ありがとう、助かった」


「……まあ、無駄にでかいアメ貰ったからな。お返しだ。……おら、行くぞ」


 彼はそっけなくそう言うと、教室へと歩き出していた。

 僕は急いでホウキとチリトリを片付けて、彼の格好良すぎる背中を追った。




「おーう、源田と佐久良もうちょっと早く来いよな」


 僕と源田くんが遅れて教室に入ると、担任の先生に軽く注意された。

 だがそんなことはどうでもよかった。僕は教室に入った瞬間から、クラスメイトの反応を観察することに集中していた。嫌がらせ犯がこのクラスにいるのであれば、何かしら変わった反応を示すのではないかと思ったのだ。

 しかし、源田くんと一緒に教室に入ったことが間違いだった。この根暗と巨漢の組み合わせは好奇の視線を集めるのには充分で、嫌がらせ犯を判別するどころではなかったのだ。

 クラスの男子が「カツアゲしてたんじゃね?」と面白おかしく言っているのを、源田くんが睨みつけて黙らせていた。多分、あの男子は今からパンツを替えに行くと思う。

 席に着くと、蛍に声をかけられた。


「遅かったね」


「トイレにも、寄ったから」


「そっか。でもどうしてあの怖い彼と一緒に来たんだい?」


「……まあ、たまたま」


 蛍に対して隠し事はしたくないが、あの下駄箱の件は隠して然るべきことのように思うのだ。僕の惨めなプライドでもある。

 担任の先生が「今日も頑張りましょう」的な言葉でHRを締めくくっているのを気にもとめず、僕は思案にくれていた。

 誰がムカデを入れたのか。どうしてそんなことをしたのか。なぜ僕なのか。

 一年の頃はぼっちだったが、これほど明確な悪意をぶつけられたことはなかった。はっきり言って、だいぶ参っている。今後もそういうことがあるのではないかと思うと、今から気が滅入る。

 そこで僕ははっとなり、自分の机、そして机の中を確認した。嫌がらせといえば机である。幸い、僕は教科書の類は全て持ち帰っている優等生なので、それに被害が及ぶことはない。しかし、机に誹謗中傷の文言が掘られていたりする可能性は大いにある。

 そう思ったのだが、特にそういう嫌がらせを受けた形跡はなかった。よかった。


「薫くん? どうしたの?」


 僕が鵜の目鷹の目で机を見ていたものだから、蛍が心配そうな顔で訊いてきた。


「いや、なんでも」


「本当に?」


「ああ」


「そっか」


 蛍が少し強めに追及してきたので、僕はちょっと驚いた。何かあったのかなと蛍を窺うと、彼女のブレザーの袖が埃で汚れていることに気付いた。


「蛍、袖が少し……」


「あ、なんか汚れてるね。ありがと、教えてくれて」


 蛍がぱんぱんと袖を払った。

 僕はその様子を見ながら、蛍は手がちっちゃくて可愛いなーと考えていた。



 朝の件が頭の中を独占しているせいで、午前の授業はまるで身が入らなかった。

 三人で過ごす楽しい昼休みになっても気持ちを切り替えることができず、ただでさえ無口なのにことさら物言わぬ置物になっていた。


「ちょっとあなた、いつも以上に目が死んでるわよ」


 そんな相坂さんの言葉にも反応できない。

 僕は犯人が誰なのかということで頭がいっぱいだった。

 授業中もなんとなく周囲を窺っていたのだが、あからさまに僕を嘲笑する人もいなければ、蔑みの視線を送ってくる人もいなかった。まあ、そんなにわかりやすい人もいないか。

 もやもやと思案に耽りながら卵焼きをもそもそと咀嚼していると、僕らのスペースに誰が近寄ってきた。


「あのさ、俺もここで食っていいかな?」


 チャラさの最先端を走るイケメンだった。声が爽やかだった。昨日は二人だったが、今日は一人で獲物を狩りに来たらしい。よく単身突っ込んでこれるなあ。僕には考えられない無謀極まる所業である。

 彼は、蛍と相坂さんに目をやりながら彼女たちの返事を待っていた。僕のこともちゃんと視界に入れなさい。

 是非を問われているのは彼女たちのようなので、僕は黙っていた。もとより口を挟むつもりはなく、彼がこの場に参加することについても異を唱えるつもりはなかった。

 相坂さんは見るからに嫌そうな顔をしていて、その清々しさは噴飯物だった。よくそんなに態度に出せるなと、感心してしまう。


「私はいいけど、君たちはいいかい?」


「僕は、大丈夫」


「私は嫌」


「じゃ、賛成多数みたいだからここで食うね」


 チャライケメンは、眉根を寄せた相坂さんの表情に怯むことなく、近くにあった机を寄せてきた。


「夏目ちゃんのお弁当は今日も美味しそうだね。その唐揚げと俺の焼きそばパン、トレードしない?」


「くっくっ、だめだよ。私は唐揚げが大好きだからね」


 僕は自分の食事に集中するふりをして、彼の一挙手一投足に注目していた。こんな間近でイケてるメンズの話術を見られる機会もそうそうない。スポーツでもなんでも、技術は上級者から盗むのがお決まりである。良いところは盗み、悪いところは自分も省みる。そういうふうにして、何事も上達していくのだ。


「相坂さんって週末は何するの? 明日から休みじゃん?」


「別に」


 そっけなすぎる相坂さんの物言いに、しかしイケメンはめげない。それどころか笑みを深めるという余裕しゃくしゃくっぷり。これは完全に女というものをわかっている顔ですわ。

 スマホをいじりだした相坂さんを見て、一旦攻めの手を引くイケメン。なるほど、深追いはしないと。

 そして今度は僕に目を向けた。いいよ、わざわざ僕に触れようとしなくていいよ。


「佐久良くんは、えっと……どう? 元気?」


「え……まあ」


 ひどい。これならずっとスルーされ続けたほうがマシである。完全に腫れ物に触るような扱いではないか。取り上げる話題がないのは察するが、もう少し何かあるだろう。

 チャラさの最先端を走るイケメンと言えど、根暗ぼっちの扱いは心得ていなかったようである。そら無縁の存在ですものね、ぼっちなんてね、へへ。それとも何か、僕がユーモア溢れる返答をできなかったのが問題なのか。元気と訊かれて何と答えればいいのか。いろんなところが元気ですと答えたら爆笑だっただろうか。いや、僕が言っても気持ち悪いだけだろう。

 自虐的な思いで胸いっぱいになっていると、蛍が僕を見て微笑んでいた。……いや、これはニヤニヤといった方が適切か。イケメンと僕のやりとりを見て面白がっているのだろう。こちらもひどい。

 救いの女神は相坂さんしかいない。彼女なら今のやりとりを見ても僕を哀れむことなく、ただひたすらにイケメンを疎ましげに見ているに違いない。そう思い彼女に目をやると、驚くべきことに相坂さんは僕を見てせせら笑っていた。ひどい。

 イケメンは彼女らがなぜ笑っているのかわからないようで、きょとんとした顔になっていた。知らなくてもいいことが世の中にはいくらでもある。これもそのひとつである。

 イケメンとの間に超えられない壁のようなものを感じ、意気消沈した。唯一の救いは、彼の言葉に悪意や害意がなかったということである。まあ、だからこそいたたまれない気分にさせられたのだが。

 正直に言えば、僕はこのイケメンが嫌がらせ犯なのではないかと、ほんの少しばかり疑っていた。蛍と相坂さんの傍に居座る僕を邪魔な存在だと認識しているのではないか、そんなふうに思っていたのだ。

 だが実際に接してみて、その可能性はないと感じた。というのも、彼は僕のことなどアウトオブ眼中だからである。アウトオブ眼中。

 僕はうなだれた。教室の中を漠然と見ていると、源田くんと目が合った。彼は「こっちに来い」というようなジェスチャーをしていた。なんだろう。


「ちょっと、呼ばれたので」


 ちょうど弁当も食べ終わった頃合いだったので、彼の元に行ってみようと思った。しかし席を立とうとすると、蛍が頬を膨らませるという可憐さの頂点ともぶりっ子の骨頂とも取れる神がかり的仕草をするものだから、後ろ髪を引かれる思いがした。


「え、夏目ちゃん何そのほっぺ! 可愛いねー!」


 イケメンが興奮気味にそう言うと、彼女は頬を萎ませた。

 彼女のご機嫌を損ねるのは怖かったので、僕はカバンからレモン味のアメを彼女に渡して、席を立った。相坂さんが「私の分は?」というような顔をしたが、今はスルーさせてもらう。僕はさっきのせせら笑いを忘れていないぞ。

 源田くんの近くの席に座ると、彼はやはり忍び笑いをして言う。


「くくっ、あのチャラい奴があそこに座ってる方が違和感ねぇわな」


「……それを、言いたかっただけか」


「んなわけねぇだろ。もっと重要なことだ」


 彼は碇ゲンドウのようなポーズを取って、それっぽいシリアスな口調になった。


「朝のアレだが、お前、ありゃ嫌がらせだろう」


「まあ、おそらくは」


「犯人に心当たりはねぇのか」


「……特には」


 それがないから怖いのだ。何か手掛かりがあれば、そこから絞っていくことができるだろうが、何もないのだ。


「どうすんだ?」


「しばらく、様子見するしか」


「まー、そうなっちまうよな」


「……まあ、あんなことは、今回限りかもしれないし」


 希望的観測ではあるが。


「くくっ、そうだといいがな。どうしても犯人見つけたいってんなら俺に言え。しゃーねぇから協力してやるよ」


 彼が不気味なことを言うので、僕は怖気をふるった。それにしても彼は思いのほか正義感の強い男だったようだ。こんなに怖い顔しているのに。

 ふと自分の席の方を見ると、相坂さんしかその場にいなかった。蛍とイケメンはどこに行ったのだろう。

 僕は源田くんに「戻る」と告げ、席を立った。

 自分の席に戻ると、相坂さんはこちらを一瞥し、再びスマホに視線を落とした。


「二人は」


「あのチャラい男はあそこにいるわよ。ケイはトイレじゃないかしら」


 蛍がトイレ? 天使なのに?

 などとアイドルを崇める狂信者のような思考をしていると、相坂さんが嘲りの表情を浮かべてこちらを見ていた。


「あなた、あの男が来たときずっと縮こまってたわね。ふふ、哀れね」


「そういう君も、だんまりを決め込んでいたようだけど」


「あなたと一緒にしないでくれる? 私は別にビビってたわけじゃないわ」


「ほう。であれば、わざわざ彼を遠ざける必要もないのでは」


「私はね、うるさい人が嫌いなの。おわかり?」


 ほうほう。僕はうるさくない分まだマシと考えてよろしいか。

 僕が神妙な顔で頷いているのを見て、相坂さんが眉をひそめて言う。


「ま、あなたみたいに無口で何を考えてるかわからないような人も嫌だけどね」


「僕は、いたって普通の、高校生だ」


「どうかしらね。……ねぇ、ケイと何かあった?」


 彼女は急に真剣な口調になった。


「……いや、特には」


「ふぅん」


 どうしてそんなことを訊くのだろう。


「何か、異変でも」


「別に。ただ、ちょっと顔が穏やかじゃないと思ったのよ。気のせいかもしれないけど」


 僕にはいつもどおりの天使な笑顔にしか見えなかった。彼女にしか感じられない些細な変化があったのだろうか。少し、僕も注意しておこう。

 それとは関係なく、今になって気になり始めたことがあった。


「あの彼は、どうして向こうに」


 イケメンがこの場にいないことが不思議だったのだ。蛍はお花を摘みに行ってしまったようだが、この場には麗しきツインテの女の子がまだ残っているのだ。


「さぁ? 気持ち悪いわねあなた、って言ったら向こうに引っ込んだわよ」


 間違いなくそれが原因である。なぜ彼女はそれがわからないのか。

 おそらく彼は今日に至るまで「気持ち悪い」と言われたことがなかったのだろう。しかし今日初めてそれを言われた。それも高嶺の花と言うに相応しい少女にである。心中察する。

 暗い目を白い目にして彼女を見ると、彼女が言い訳を始めた。


「だってしょうがないじゃない。二人だけになったら急にたくさん話しかけてきて、それがしつこくて気持ち悪いんだもの」


 しつこいならしょうがないかな。いやでも、それなら「しつこい」と言えばよかったのではないだろうか。なぜ「気持ち悪い」が先に出てしまったのか。彼女の言葉のチョイスはだいぶ狂っている。

 しかしそれは彼女の日常茶飯事なので、とやかく言うのも今更の話だろう。蛍も彼女のそういう部分を矯正するつもりもなさそうだし。まあ蛍の場合は、彼女の言動を楽しんでいる節があるが。

 ともかく、あの百戦錬磨のイケメンでも相坂さんを攻略することはできなかったようである。あれほどの恋愛巧者でも無理なら誰が彼女の本質に近づけるのか。

 巨大要塞を前にした先兵のような気分になって彼女を仰ぎ見ると、彼女は尊大な態度になった。


「でも考えようによっては私の発言はファインプレーとも言えるわ。もし私があの男を突っぱねなかったら、あなたの居場所、なくなってたかもしれないわよ?」


「相坂さんの発言を全肯定します」


「よろしい」


 僕はこの瞬間、恐るべきことだが同級生の彼女に忠誠心のようなものを覚えていた。本当に前世が女王の類なのではないかと思わずにはいられなかった。

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