家電の異変
オートロック、駅から10分、大家さんも優しい人で、バストイレは別の1LDKというすばらしい条件が整った私の城。そんな築12年の白い外壁のアパートの前に来た。
ポストから郵便物を取り出し、暗証番号を押してエレベーターホールへ向かう。エレベーターが1階に下りてくるのを待った。
―― チン。
エレベーターの到着音と共に、エレベーターが開いた。中に入り、5階のボタンを押す。ブーンという、機械音がやけに耳障りな感じがした。それに鼻を衝くような香水の匂いが充満していた。
クサイ……。
そんな居心地の悪いエレベーターは5階で止まり、ドアが開いた。
自分の部屋へと続く廊下を歩きながら、ガサゴソとバックの中から鍵を探し、見つけたときにはちょうど部屋の前だった。
やっと部屋に着いた。今日はアパートまでの道のりが長かった。くだらないことばかり考えてたからかもしれない。
ずっと脱ぎたかったパンプスを脱ぐ。リビングへ行き、テーブルの上にバックとレジ袋を置いてソファに座る。家具を買うときに一番奮発したアイボリーカラーのソファは、私のヒーリングスポット。どんなに有名なヒーリングスポットよりも私を癒してくれる場所。
「ああーー」
これじゃあ、おっさんだわ。自分が無意識に出した声って、素の自分だろうから余計に凹むわ。買ったものを冷蔵庫に入れないと。その前にお風呂にお湯をためないと。いや、着替えないと。
あれこれ考えても体が動かない。とりあえずテレビでも見ようと、リモコンの電源ボタンを押す。
「あれ、何でつかないの。昨日、電池入れ替えたばっかりだし。朝はちゃんとついたのに」
一人でぶつぶつ言いながらテレビの方へ行き、テレビの周りを見回す。
「えっ、何で主電源のプラグが抜けてるの?」
プラグをコンセントに差込み、テレビの電源を入れる。リモコンでチャンネルをカチャカチャと変える。特に異常はない。プラグが抜けた理由は気になるけど、テレビがちゃっとついたから良しとしよう。
お風呂場に行き湯船を張り、寝室でコットン素材のルームウェアに着替る。
そして、冷蔵庫に買ったものを入れた。冷蔵庫の中にはミネラルウォーター、缶ビール、キムチ、ドレッシング、プチトマトが入っていた。
この冷蔵庫はヒドイ。女子力、低すぎですよね。自炊、全然していません。情けなくなってきた。でも仕事が忙しいんだからしょうがない。別に料理ができないわけでもないし。
今日の私はポジティブとネガティブのスパイラルである。正確にはネガティブが発動すると、自分で強制的にポジティブを発動する。そのせいでスパイラルになっていた。
洗面所へ行き、洗濯機に下着を放り投げ、バスルームのドアを開けた。白い湯気がもわんと顔にかかった。
髪の毛をヘアークリップで束ねて、メイクを落とす。皮膚呼吸がスムーズになった気がする。
すっぴんって、一番楽だよね。でも、すっぴんで外に出る勇気もないけど。
それからシャンプーをして、体を洗い、湯船に浸かる。
生き返る……。
疲れた足や肩の血行がよくなり、全身が軽くなった。
まずい。眠くなってきた。このまま、寝たら気持ちいいだろうな。だめ、だめ。風呂場で溺死なんてダメ。裸で発見は恥ずかしすぎる。その前に、溺死の方が問題だよ。ああ、もう出よう。今日の私はどうでもいいことを考えすぎる。
バスタオルで体と髪を拭き、服を着る。ドライヤーで髪を乾かし、ヘアークリップでまとめた。
キッチンへ行き、さっき買ったから揚げ弁当を電子レンジで温める。冷蔵庫から缶ビールを出し、テーブルに並べた。
よく冷えた缶ビールを開けると、ブッシューといい音が響く。お風呂で火照った体には最高の潤い。から揚げ弁当のフタを開ければ、食欲をそそるいい匂いがする。
「いただきます」
から揚げを一口。ビールを一口。
美味い。から揚げとビールは何でこんなに合うんだろう。
お弁当を買うとき、この時間にカロリーが高すぎるとは思ったけど、たまにはいいじゃないか、と言う悪魔の囁きに同調した。
悪魔さま、バンザーイ!! から揚げ、バンザーイ!!
大してアルコールが強くない私は缶ビールを半分飲んだだけでほろ酔い。ちょっといい気分でから揚げ弁当を全て平らげた。
バックからスマートフォンを出し、メールと着信のチェックをする。
あ、大学からの友達から食事のお誘いが来てる。その日は予定も特にないし、最近の近況も聞きたい。そのお誘い乗りましょう。
友達にメールを返信して、充電器に置く。
「あれ、なんで充電しないの?」
充電中の赤いランプがつかない。何回かスマートフォンを充電器から外し置くを繰り返してみる。
やっぱり充電できない。
充電器やコードを確認してみるとプラグが抜けていた。
「また……。なんなの、一体」
微妙な違和感を持ちつつ、コンセントに差し込む。スマートフォンに赤いランプがついた。
昨日の掃除したときに引っ掛けたんだよね。
そう思うことで違和感を無視した。それでも何となくもやもやした感じが残っていた。
こういう時は寝るのが一番だよね。
洗面所で歯を磨いて、ベッドにダイブ。ベッドに仰向けになって手足をぎゅうっと、伸ばす。
「ん~~、ああーー」
今日、2発目のおっさん声。2回目だと凹みもしないや。
ぐるんっと寝返りを打って横を向く。そしてもう一回寝返りを打って、反対側を向く。
やっぱセミダブル最高!!
去年の10月に思い切ってシングルからセミダブルに買い替えた。
「寝返りを打ちやすいようにセミダブルに変えた」と、友達に言ったら、「どんだけ寝相が悪いの?」と、笑われた。確かに、寝相はいいわけでもないけれど、すごく悪いわけでもない。ただ、広い場所で寝たかっただけ。
また寝返りを打って、スタンドライトを点けた。そして目覚まし時計のアラームを解除する。
明日は好きなだけ寝れる。幸せ……。ん? スタンドライトがチカチカしてる、何? 電球は先月、LEDに変えたから10年は大丈夫なはず。壊れたのかな?
ベッドから降りて、スタンドライトの周りを見てみた。
「っえ? な、何? アレ?」
私は人生で初めてとんでもないものと遭遇した。