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ちっさいおじさんと3日間  作者: 早川 りな
1日目 今日は金曜日
2/16

家電の異変

 オートロック、駅から10分、大家さんも優しい人で、バストイレは別の1LDKというすばらしい条件が整った私の城。そんな築12年の白い外壁のアパートの前に来た。

 ポストから郵便物を取り出し、暗証番号を押してエレベーターホールへ向かう。エレベーターが1階に下りてくるのを待った。


―― チン。


 エレベーターの到着音と共に、エレベーターが開いた。中に入り、5階のボタンを押す。ブーンという、機械音がやけに耳障りな感じがした。それに鼻を衝くような香水の匂いが充満していた。

 クサイ……。

 そんな居心地の悪いエレベーターは5階で止まり、ドアが開いた。

 自分の部屋へと続く廊下を歩きながら、ガサゴソとバックの中から鍵を探し、見つけたときにはちょうど部屋の前だった。



 やっと部屋に着いた。今日はアパートまでの道のりが長かった。くだらないことばかり考えてたからかもしれない。

 ずっと脱ぎたかったパンプスを脱ぐ。リビングへ行き、テーブルの上にバックとレジ袋を置いてソファに座る。家具を買うときに一番奮発したアイボリーカラーのソファは、私のヒーリングスポット。どんなに有名なヒーリングスポットよりも私を癒してくれる場所。

「ああーー」

 これじゃあ、おっさんだわ。自分が無意識に出した声って、素の自分だろうから余計に凹むわ。買ったものを冷蔵庫に入れないと。その前にお風呂にお湯をためないと。いや、着替えないと。

 あれこれ考えても体が動かない。とりあえずテレビでも見ようと、リモコンの電源ボタンを押す。

「あれ、何でつかないの。昨日、電池入れ替えたばっかりだし。朝はちゃんとついたのに」

 一人でぶつぶつ言いながらテレビの方へ行き、テレビの周りを見回す。

「えっ、何で主電源のプラグが抜けてるの?」

 プラグをコンセントに差込み、テレビの電源を入れる。リモコンでチャンネルをカチャカチャと変える。特に異常はない。プラグが抜けた理由は気になるけど、テレビがちゃっとついたから良しとしよう。


 お風呂場に行き湯船を張り、寝室でコットン素材のルームウェアに着替る。

 そして、冷蔵庫に買ったものを入れた。冷蔵庫の中にはミネラルウォーター、缶ビール、キムチ、ドレッシング、プチトマトが入っていた。

 この冷蔵庫はヒドイ。女子力、低すぎですよね。自炊、全然していません。情けなくなってきた。でも仕事が忙しいんだからしょうがない。別に料理ができないわけでもないし。


 今日の私はポジティブとネガティブのスパイラルである。正確にはネガティブが発動すると、自分で強制的にポジティブを発動する。そのせいでスパイラルになっていた。

 洗面所へ行き、洗濯機に下着を放り投げ、バスルームのドアを開けた。白い湯気がもわんと顔にかかった。

 髪の毛をヘアークリップで束ねて、メイクを落とす。皮膚呼吸がスムーズになった気がする。

 すっぴんって、一番楽だよね。でも、すっぴんで外に出る勇気もないけど。

 それからシャンプーをして、体を洗い、湯船に浸かる。

 生き返る……。

 疲れた足や肩の血行がよくなり、全身が軽くなった。

 まずい。眠くなってきた。このまま、寝たら気持ちいいだろうな。だめ、だめ。風呂場で溺死なんてダメ。裸で発見は恥ずかしすぎる。その前に、溺死の方が問題だよ。ああ、もう出よう。今日の私はどうでもいいことを考えすぎる。

 バスタオルで体と髪を拭き、服を着る。ドライヤーで髪を乾かし、ヘアークリップでまとめた。


 キッチンへ行き、さっき買ったから揚げ弁当を電子レンジで温める。冷蔵庫から缶ビールを出し、テーブルに並べた。

 よく冷えた缶ビールを開けると、ブッシューといい音が響く。お風呂で火照った体には最高の潤い。から揚げ弁当のフタを開ければ、食欲をそそるいい匂いがする。

「いただきます」

 から揚げを一口。ビールを一口。

 美味い。から揚げとビールは何でこんなに合うんだろう。

 お弁当を買うとき、この時間にカロリーが高すぎるとは思ったけど、たまにはいいじゃないか、と言う悪魔の囁きに同調した。

 悪魔さま、バンザーイ!! から揚げ、バンザーイ!!

 大してアルコールが強くない私は缶ビールを半分飲んだだけでほろ酔い。ちょっといい気分でから揚げ弁当を全て平らげた。


 バックからスマートフォンを出し、メールと着信のチェックをする。

 あ、大学からの友達から食事のお誘いが来てる。その日は予定も特にないし、最近の近況も聞きたい。そのお誘い乗りましょう。

 友達にメールを返信して、充電器に置く。

「あれ、なんで充電しないの?」

充電中の赤いランプがつかない。何回かスマートフォンを充電器から外し置くを繰り返してみる。

 やっぱり充電できない。

 充電器やコードを確認してみるとプラグが抜けていた。

「また……。なんなの、一体」

 微妙な違和感を持ちつつ、コンセントに差し込む。スマートフォンに赤いランプがついた。

 昨日の掃除したときに引っ掛けたんだよね。

 そう思うことで違和感を無視した。それでも何となくもやもやした感じが残っていた。

 こういう時は寝るのが一番だよね。



 洗面所で歯を磨いて、ベッドにダイブ。ベッドに仰向けになって手足をぎゅうっと、伸ばす。

「ん~~、ああーー」

 今日、2発目のおっさん声。2回目だと凹みもしないや。

 ぐるんっと寝返りを打って横を向く。そしてもう一回寝返りを打って、反対側を向く。

 やっぱセミダブル最高!!

 去年の10月に思い切ってシングルからセミダブルに買い替えた。

 「寝返りを打ちやすいようにセミダブルに変えた」と、友達に言ったら、「どんだけ寝相が悪いの?」と、笑われた。確かに、寝相はいいわけでもないけれど、すごく悪いわけでもない。ただ、広い場所で寝たかっただけ。

 また寝返りを打って、スタンドライトを点けた。そして目覚まし時計のアラームを解除する。

 明日は好きなだけ寝れる。幸せ……。ん? スタンドライトがチカチカしてる、何? 電球は先月、LEDに変えたから10年は大丈夫なはず。壊れたのかな?

 ベッドから降りて、スタンドライトの周りを見てみた。

「っえ? な、何? アレ?」


 私は人生で初めてとんでもないものと遭遇した。


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