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ちっさいおじさんと3日間  作者: 早川 りな
ちっさいおじさんの真実
14/16

ほんとうのこと 2日目

 う~ん。よく寝た。昨日はいろいろあったから疲れちゃって、横になったらすぐに寝ちゃった。持ち主がかけてくれたんだ、このタオル。恐い人って、ちょっと思ったけど、やさしい人なんだね。

 部屋の明かりがついてない。カーテンも閉まってる。でも、外は明るいからたぶん朝だ。持ち主はまだ寝てるみたいだね。よし、いっぱい寝たおかげで元気になったし、探すぞ。元の姿に戻ろう。


――バフッ。


 この姿が一番楽ちん。カーテンからあふれる光が当たって、ぼく、すごくキレイだな。そんなことはどうでもいいんだ。

 一応、持ち主が寝てるか確認しておこう。

 ベッドのある部屋に行って、持ち主の顔を覗き込んだ。

 よし、寝てる。

 それにしても、サガシモノ妖精にそっくりなあの玉はなんだろう。これが分からないと探すのは難しいなあ。こういうときは、他のサガシモノ妖精に聞いてみよう。


『とんとん。日本のサガシモノ妖精です。今、これを探しています。でも、これが何だか分かりません。これを知ってる妖精は教えてください』


 これでよし。白くてキラキラした玉の情報も一緒に送ったし、あとは待つだけ。


『とんとん。アメリカのサガシモノ妖精です。これは砂糖の塊や岩塩だと思います』


『とんとん。フランスのサガシモノ妖精です。入浴剤とかではありませんか』


『とんとん。イギリスのサガシモノ妖精です。満月に似てますね。月の形をした何かではありませんか』


『とんとん。インドのサガシモノ妖精です。水晶だと思います』


 こんな情報が他のサガシモノ妖精から、ぼくの所にたくさんきた。


『とんとん。ありがとうございました。みんなの情報を参考に探してみます』


 どれも合ってる気もするし、どれも違う気もする。もらった情報をもとに探すしかないかな、今はね。うわっ、持ち主が起きて来ちゃった。隠れなきゃ。


――うん? 何?


 持ち主がソファに座ってハンドタオルを見て言った。ぼくのこと思い出してるんだろうな。しっかりおじさんの姿、見られちゃったし、大丈夫かな……。あっ、何事もなかった感じで、ハンドタオルしまった。夢だった、と思うことにしたんだね。

 それからキッチンの方でガチャガチャと音がして、またリビングに来た。


――いただきます。


 朝ご飯、食べてるんだ。静かだったのに音楽が流れ出した。ふ~ん、ピアノの音楽が好きなんだ。


――ごちそうさま。


 食べ終わったんだ。持ち主はキッチンに行ったり、洗面所に行ったり、ベッドの部屋に行ったり、いろいろ動いて忙しい人。


――よし、いってきます。


 玄関から鍵をガチャっと閉める音がした。

 探しモノ・タイム!! とりあえず、キッチンを中心に探してみよう。

 まず、食器棚。お皿、丸いけど平たいから違う。グラス、キラキラしてるけど、白くて丸くないから違う。コップ、お茶碗、湯のみ、みんな違うな。

 次は、シンクやコンロの周り。シンクの周りにはそれっぽいものはないな。あ、あそこにある調味料のラックにあるかも。これなら、おじさんになった方が探しやすいかも。


――バフッ。


 調味料と調味料の間を歩いていろいろ探してみる。白い丸いものなんてないな。うん? 大きなしょう油のビンの後ろで何かが倒れてる。これ白くて丸くキラキラしてる。近づくとそれはお砂糖が入っている小さいビンだった。これなのかもしれない。でも、違うかもしれない。一応、他のも探そう。

 次は冷蔵庫の中も探してみよう。冷蔵庫の中に入いると、思うことは1つかしかない。寒い!! うう~、頑張って探さないと。白くて丸いものなんてないなあ。本当に寒い……。

 あまりの寒さでひざをついて座り込んだ。目の前に丸くて白いものがあった。両手で一生懸命擦ってみた。これかもしれない。



――うっわぁ~~!!

 冷蔵庫の扉が開いて、叫び声が聞こえたあと、また扉が閉まった。また、持ち主に見つかっちゃった。そう思ったら、また扉が開いた。

――おじさん、どうやって中に入ったの?

 そんなことよりこの白くて丸いもの。

――おじさん、いつから冷蔵庫の中にいたの?

 あれ、どんどん消えてく……。もしかしてただの汚れだったの。こんな寒い中、頑張ったのに~~。泣きたくなってきた。

――おじさん、寒くないの?

 寒いです。すごく寒いです。目で訴えてみた。

――寒いんだ……。はぁ。

 持ち主はぼくの体を掴んで冷蔵庫から出してくれた。そして昨日と同じようにソファに下ろしてくれた。

 外、暖かい。

 横に何か置かれた。それは昨日、ぼくにかけてくれたオレンジ色のハンドタオルだった。そのハンドタオルを体に巻きつける。 暖かい。

 ありがとうの気持ちを込めて、持ち主に笑いかけてみた。すると持ち主も笑い返してくれた。

 この人とは言葉がなくても、スムーズに会話ができる。不思議……。

――ねえ、そんなに寒いなら何で冷蔵庫から出ないのよ。入れたんだから、出ることだってできるでしょ?

 それぐらい、出来るよ。ぼくはお姉さんのために探しモノをしてるの。

――はあ……。まあ、いいや。

 持ち主は呆れ顔でぼくを見ていた。それよりも、ぼく飛ばされそう。扇風機の風が強すぎる。ぼくは飛ばされないように体に力を入れた。すると持ち主が扇風機を止めてくれた。はあ~、助かった。持ち主はキッチンへと行ってしまった。



――はい、どうぞ。熱いかもしれないか気をつけてね。

 持ち主はぼくの目の前に小皿をトレー代わりにして、飲み物を置いてくれた。ぼくは両手でコップを持ち上げた。このコップ、何かのキャップかな? ちょっと熱そう。ふーふーした後に一口飲んだ。お茶だ、あったかい。

――美味しい?

 お姉さんに「うん」と頷いた。ぼくの前に座ってお姉さんは何かを飲んでいた。お姉さんが持っているカップの中を見ると、同じお茶だった。お姉さんと同じものを飲んでることがちょっぴりうれしい。それからコップのお茶を全部飲んで、小皿の上にコップを置いた。

 探しモノをしたり、寒くなったりしたから、体が固まった感じがするな。ぼくはぐーんと伸びをした。それから肩を上下に動かした。体が暖まったら、眠くなってきた。少しお昼寝しよう。ハンドタオルをかけて、ぼくはお昼寝の時間にした。



 ぼくが目を覚ますとお姉さんはキッチンに居た。あ、そうだ。あのお砂糖が入っている小さいビンを渡してみよう。もしかしたら、探しモノかもしれないし。お姉さんに気づかれないよう、元の姿でキッチンへ行こう。


――バフッ。


 よし。ぼくは調味料が並んでるラックへ行って、もう一度おじさんの姿になった。


――バフッ。


 ちょうど、お姉さんはお砂糖を探していた。

――砂糖、砂糖。

 ぼくはお砂糖が入ってるビンを渡してあげた。

――うわっ!! おじさん、いつの間にそんな所。

 お姉さんはすごくビックリしていたけど、お砂糖を受け取ってくれた。

――ありがとう。

 でも、違った。お姉さんの探しモノじゃなかった。あの白くてキラキラした玉の情報が消えないや。ぼくは料理するお姉さんを少し眺めてから、ソファに戻った。    

 あの玉は何? もう、分からないよ~~!!


 また寝ちゃった、ぼく。起きると、お姉さんが目の前にいた。

――おじさん、私これから夕ご飯なんだけど一緒に食べる?

 お姉さんがそう言ってくれたことに、ぼくはうれしくて何度も頷いちゃった。

 すると、お姉さんがぼくの前に手のひらを上にして置いた。なんだろって思ったけど、もしかして手に乗って、そういうこと? いつもぼくの体を掴んで運ぶのに?

 ぼくは「ありがとう」の気持ちをいっぱい込めて、笑顔を向けたんだ。それでお姉さんの手に乗って、胡坐をかいて座った。お姉さんの手は柔らかくて温かかった。それからぼくをテーブルまで運んで、ブルーのハンドタオルを下に敷いてくれたんだ。テーブルはちょっと冷たくて硬かったから、ハンドタオルはふかふかして、さっきまでいたソファみたいだった。

 お姉さんは小皿にコップ代わりの何かのキャップと、短く切った爪楊枝を乗せてぼくの前に置いてくれた。

――それでは、いただきます。

 ぼくは初めて見た。大人の人が両手を合わせて「いただきます」を言うのを。小さい子はよくやってるけど。きっと、大人とか子供とか関係なくすることなんだよね、いただきますって。ぼくもお姉さんと同じようにした。

 お姉さんはお酒の入ってる缶をプシュッと開けた。ぼくも飲んでみたいなお酒。妖精には食べちゃいけないもの、飲んじゃいけないものはないもん。飲みたいって気持ちを目で頑張って伝えてみた。飲みたいです。

――飲みたいの?

 飲みたい、飲みたい!!

 お姉さんは少し困った顔をしてから、ティースプーンに水とお酒を入れて、コップの中に注いでくれた。

 お酒だ。どんな味なんだろう。

 ぐびぐびぐび、ぷはー。甘くておいしい。ふふん、ふわふわしていい気持いいな。

――おじさん、大丈夫? 美味しい?

 ぼくはばんざーいした。なんだか楽しいな~~!

 ふうん? 気が付くと、ぼくの小皿に何か赤いものと白いものが乗っていた。

――この赤いのがキムチ、こっちの白いのがポテトサラダ。

 お姉さんが教えてくれた。爪楊枝でキムチを刺して食べてみた。辛くておいしい!! ぼく、キムチ大好き!! こっちの白いのはと、うっ、マズイ。何これ……。でも、お姉さんが取り分けてくれたから、頑張ってポテトサラダを食べきった。それから、キムチと甘いお酒を美味しく食べた。

 ふわ~あ、眠い。あくびが止まらないよ。このまま寝ちゃおう。


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