ほんとうのこと 2日目
う~ん。よく寝た。昨日はいろいろあったから疲れちゃって、横になったらすぐに寝ちゃった。持ち主がかけてくれたんだ、このタオル。恐い人って、ちょっと思ったけど、やさしい人なんだね。
部屋の明かりがついてない。カーテンも閉まってる。でも、外は明るいからたぶん朝だ。持ち主はまだ寝てるみたいだね。よし、いっぱい寝たおかげで元気になったし、探すぞ。元の姿に戻ろう。
――バフッ。
この姿が一番楽ちん。カーテンからあふれる光が当たって、ぼく、すごくキレイだな。そんなことはどうでもいいんだ。
一応、持ち主が寝てるか確認しておこう。
ベッドのある部屋に行って、持ち主の顔を覗き込んだ。
よし、寝てる。
それにしても、サガシモノ妖精にそっくりなあの玉はなんだろう。これが分からないと探すのは難しいなあ。こういうときは、他のサガシモノ妖精に聞いてみよう。
『とんとん。日本のサガシモノ妖精です。今、これを探しています。でも、これが何だか分かりません。これを知ってる妖精は教えてください』
これでよし。白くてキラキラした玉の情報も一緒に送ったし、あとは待つだけ。
『とんとん。アメリカのサガシモノ妖精です。これは砂糖の塊や岩塩だと思います』
『とんとん。フランスのサガシモノ妖精です。入浴剤とかではありませんか』
『とんとん。イギリスのサガシモノ妖精です。満月に似てますね。月の形をした何かではありませんか』
『とんとん。インドのサガシモノ妖精です。水晶だと思います』
こんな情報が他のサガシモノ妖精から、ぼくの所にたくさんきた。
『とんとん。ありがとうございました。みんなの情報を参考に探してみます』
どれも合ってる気もするし、どれも違う気もする。もらった情報をもとに探すしかないかな、今はね。うわっ、持ち主が起きて来ちゃった。隠れなきゃ。
――うん? 何?
持ち主がソファに座ってハンドタオルを見て言った。ぼくのこと思い出してるんだろうな。しっかりおじさんの姿、見られちゃったし、大丈夫かな……。あっ、何事もなかった感じで、ハンドタオルしまった。夢だった、と思うことにしたんだね。
それからキッチンの方でガチャガチャと音がして、またリビングに来た。
――いただきます。
朝ご飯、食べてるんだ。静かだったのに音楽が流れ出した。ふ~ん、ピアノの音楽が好きなんだ。
――ごちそうさま。
食べ終わったんだ。持ち主はキッチンに行ったり、洗面所に行ったり、ベッドの部屋に行ったり、いろいろ動いて忙しい人。
――よし、いってきます。
玄関から鍵をガチャっと閉める音がした。
探しモノ・タイム!! とりあえず、キッチンを中心に探してみよう。
まず、食器棚。お皿、丸いけど平たいから違う。グラス、キラキラしてるけど、白くて丸くないから違う。コップ、お茶碗、湯のみ、みんな違うな。
次は、シンクやコンロの周り。シンクの周りにはそれっぽいものはないな。あ、あそこにある調味料のラックにあるかも。これなら、おじさんになった方が探しやすいかも。
――バフッ。
調味料と調味料の間を歩いていろいろ探してみる。白い丸いものなんてないな。うん? 大きなしょう油のビンの後ろで何かが倒れてる。これ白くて丸くキラキラしてる。近づくとそれはお砂糖が入っている小さいビンだった。これなのかもしれない。でも、違うかもしれない。一応、他のも探そう。
次は冷蔵庫の中も探してみよう。冷蔵庫の中に入いると、思うことは1つかしかない。寒い!! うう~、頑張って探さないと。白くて丸いものなんてないなあ。本当に寒い……。
あまりの寒さでひざをついて座り込んだ。目の前に丸くて白いものがあった。両手で一生懸命擦ってみた。これかもしれない。
――うっわぁ~~!!
冷蔵庫の扉が開いて、叫び声が聞こえたあと、また扉が閉まった。また、持ち主に見つかっちゃった。そう思ったら、また扉が開いた。
――おじさん、どうやって中に入ったの?
そんなことよりこの白くて丸いもの。
――おじさん、いつから冷蔵庫の中にいたの?
あれ、どんどん消えてく……。もしかしてただの汚れだったの。こんな寒い中、頑張ったのに~~。泣きたくなってきた。
――おじさん、寒くないの?
寒いです。すごく寒いです。目で訴えてみた。
――寒いんだ……。はぁ。
持ち主はぼくの体を掴んで冷蔵庫から出してくれた。そして昨日と同じようにソファに下ろしてくれた。
外、暖かい。
横に何か置かれた。それは昨日、ぼくにかけてくれたオレンジ色のハンドタオルだった。そのハンドタオルを体に巻きつける。 暖かい。
ありがとうの気持ちを込めて、持ち主に笑いかけてみた。すると持ち主も笑い返してくれた。
この人とは言葉がなくても、スムーズに会話ができる。不思議……。
――ねえ、そんなに寒いなら何で冷蔵庫から出ないのよ。入れたんだから、出ることだってできるでしょ?
それぐらい、出来るよ。ぼくはお姉さんのために探しモノをしてるの。
――はあ……。まあ、いいや。
持ち主は呆れ顔でぼくを見ていた。それよりも、ぼく飛ばされそう。扇風機の風が強すぎる。ぼくは飛ばされないように体に力を入れた。すると持ち主が扇風機を止めてくれた。はあ~、助かった。持ち主はキッチンへと行ってしまった。
――はい、どうぞ。熱いかもしれないか気をつけてね。
持ち主はぼくの目の前に小皿をトレー代わりにして、飲み物を置いてくれた。ぼくは両手でコップを持ち上げた。このコップ、何かのキャップかな? ちょっと熱そう。ふーふーした後に一口飲んだ。お茶だ、あったかい。
――美味しい?
お姉さんに「うん」と頷いた。ぼくの前に座ってお姉さんは何かを飲んでいた。お姉さんが持っているカップの中を見ると、同じお茶だった。お姉さんと同じものを飲んでることがちょっぴりうれしい。それからコップのお茶を全部飲んで、小皿の上にコップを置いた。
探しモノをしたり、寒くなったりしたから、体が固まった感じがするな。ぼくはぐーんと伸びをした。それから肩を上下に動かした。体が暖まったら、眠くなってきた。少しお昼寝しよう。ハンドタオルをかけて、ぼくはお昼寝の時間にした。
ぼくが目を覚ますとお姉さんはキッチンに居た。あ、そうだ。あのお砂糖が入っている小さいビンを渡してみよう。もしかしたら、探しモノかもしれないし。お姉さんに気づかれないよう、元の姿でキッチンへ行こう。
――バフッ。
よし。ぼくは調味料が並んでるラックへ行って、もう一度おじさんの姿になった。
――バフッ。
ちょうど、お姉さんはお砂糖を探していた。
――砂糖、砂糖。
ぼくはお砂糖が入ってるビンを渡してあげた。
――うわっ!! おじさん、いつの間にそんな所。
お姉さんはすごくビックリしていたけど、お砂糖を受け取ってくれた。
――ありがとう。
でも、違った。お姉さんの探しモノじゃなかった。あの白くてキラキラした玉の情報が消えないや。ぼくは料理するお姉さんを少し眺めてから、ソファに戻った。
あの玉は何? もう、分からないよ~~!!
また寝ちゃった、ぼく。起きると、お姉さんが目の前にいた。
――おじさん、私これから夕ご飯なんだけど一緒に食べる?
お姉さんがそう言ってくれたことに、ぼくはうれしくて何度も頷いちゃった。
すると、お姉さんがぼくの前に手のひらを上にして置いた。なんだろって思ったけど、もしかして手に乗って、そういうこと? いつもぼくの体を掴んで運ぶのに?
ぼくは「ありがとう」の気持ちをいっぱい込めて、笑顔を向けたんだ。それでお姉さんの手に乗って、胡坐をかいて座った。お姉さんの手は柔らかくて温かかった。それからぼくをテーブルまで運んで、ブルーのハンドタオルを下に敷いてくれたんだ。テーブルはちょっと冷たくて硬かったから、ハンドタオルはふかふかして、さっきまでいたソファみたいだった。
お姉さんは小皿にコップ代わりの何かのキャップと、短く切った爪楊枝を乗せてぼくの前に置いてくれた。
――それでは、いただきます。
ぼくは初めて見た。大人の人が両手を合わせて「いただきます」を言うのを。小さい子はよくやってるけど。きっと、大人とか子供とか関係なくすることなんだよね、いただきますって。ぼくもお姉さんと同じようにした。
お姉さんはお酒の入ってる缶をプシュッと開けた。ぼくも飲んでみたいなお酒。妖精には食べちゃいけないもの、飲んじゃいけないものはないもん。飲みたいって気持ちを目で頑張って伝えてみた。飲みたいです。
――飲みたいの?
飲みたい、飲みたい!!
お姉さんは少し困った顔をしてから、ティースプーンに水とお酒を入れて、コップの中に注いでくれた。
お酒だ。どんな味なんだろう。
ぐびぐびぐび、ぷはー。甘くておいしい。ふふん、ふわふわしていい気持いいな。
――おじさん、大丈夫? 美味しい?
ぼくはばんざーいした。なんだか楽しいな~~!
ふうん? 気が付くと、ぼくの小皿に何か赤いものと白いものが乗っていた。
――この赤いのがキムチ、こっちの白いのがポテトサラダ。
お姉さんが教えてくれた。爪楊枝でキムチを刺して食べてみた。辛くておいしい!! ぼく、キムチ大好き!! こっちの白いのはと、うっ、マズイ。何これ……。でも、お姉さんが取り分けてくれたから、頑張ってポテトサラダを食べきった。それから、キムチと甘いお酒を美味しく食べた。
ふわ~あ、眠い。あくびが止まらないよ。このまま寝ちゃおう。