ほんとうのこと 自己紹介
ここからちっさいおじさんの正体が分かります。ここからは子供も一緒に息抜き童話です。普通の童話になります。
うわーーん。下ろしてーー。
ぼくは心の中で叫んだ。だって、ぼくのことをつかんで持ち上げているから。手足を動かして、体全体で「下ろして」と訴えてみた。
さて、ぼくがどうしてこんなことになっているのか、初めから話そうと思う。
まず自己紹介ね。ぼくはサガシモノ妖精。「何、それ」って思った人いっぱいいるよね。あのね、人が失くしたモノを見つけてあげるの。物だけじゃないよ、動物だって探してあげられるんだ。
どこかで失くしたモノが「何でそんな所にあるの」って所から出てきたりしない? それ、全部ぼくが見つけてあげるんだから。持ち主が見つけられる所に置いてあげてるんだ。みんな、ぼくに感謝してよね。
探すのって、体力がいるんだ。自分よりも大きなものを浮かせて動かすんだから。動物だとぼくを見たとたんに急に追っかけてくるし、本当に大変だよ。
あとモノを探すために変身もする。これが、また大変。今は夏だからカブトムシとか蝶々に変身したら、小さい子が虫取り網で取ろうとするし、ゴキブリに変身すれば殺虫剤をかけられそうになるしね。ゴキブリなんかに変身するのが悪いって思ったでしょ。でもあの姿って、どんな隙間でも壁でも天井でも歩けて便利なんだよね。殺虫剤をかけられるのは嫌だから、もうゴキブリには変身してない。
最近は人に変身してるんだ。歩けるし、モノはつかめるし、すごく便利。ただ、問題があって、身長が10センチメートルの人にしか変身ができないんだ。動かなければ人にそっくりな人形で終わるから。ただ、かわいい女の子に変身したら、小学生くらいの女の子に1日中抱っこされて参ったよ。その子が寝るまで動けなかったんだから。
それから考えて、おじさんに変身することにした。そうすると誰も興味を持たないからね。
ぼくがモノを探すのは人がいないときや人が眠ってるときにしている。特に人に変身してるときはね。ちなみに、変身をしていない普段のぼくの姿は、ただの白い水晶みたいな玉なんだ。キラキラ光ってて、きれいだよ。それにね、ぼく、壁や扉を通り抜けることができるんだ。すごいでしょ。
ねえ、もしかして妖精が日本語を喋ってるのが気になる人いる? サガシモノ物妖精はひとつの国に1人なんだ。だからアメリカには英語のできる妖精が、フランスにはフランス語ができる妖精が、日本には日本語のできる妖精――ぼくのことね――がいるんだ。つまり、ぼくは日本専属のサガシモノ妖精ってこと。あっ、人に変身しても、人と会話は出来ないんだ。体が小さいと声も小さいみたいで、喋っても相手には声が聞こえないんだ。
今、ぼくの存在を知って「あれ見つけて」とか「何であれがまだ出てこないわけ」とか思ってる人いるでしょ。実は順番があるんだ。その説明の前に、どうやってぼくが探しモノの情報を知るか話すね。人がモノを失くしたと思った瞬間に、ぼくのところにその情報がすぐに届くんだ。みんなが使ってるメールみたいに。でね、ぼくが探しモノを見つけて、持ち主がその探しモノを手に取った瞬間、その情報はなくなっちゃうんだ。
で、ここから順番の話ね。探しモノには探す優先順位がつけられる。例えば国の政治に関わるような書類と結婚指輪だったら、書類を探さなくちゃいけない。モノを失くした人にとってはすごく大切なモノの場合だってあるのは、ぼくだってよくわかってるよ。でも、サガシモノ妖精は日本にぼく1人しかいないから。だからもう少しだけ待ってください。
あとモノには心がある。例えば、持ち主に乱暴な扱いをうけたモノはね、自分の意思でいなくなるんだ。だから、ぼくが見つけて持ち主の所へ返そうとしても、モノ自身が返るのを嫌がるんだ。そのときは、ぼくにはもうどうすることもできない。モノの気持ちを受け入れて、そのままにしておくんだ。
みんなもモノは大事にしてあげて。ずっと前に失くしたモノがもし今でも出てきてないなら、その失くしたモノをどんな風に使っていたか考えて。乱暴に使わなかった? もしそうなら、失くしたモノを思い浮かべて「ごめんなさい」って伝えて。失くしたモノも許してくれるよ。そしたら、ぼくが見つけてあげるから。
と、まあ、ぼくの自己紹介はこんなところ。ああ、あともうひとつ。失くしたモノは3日間で見つけるっていうルールがあるんだ。モノを探すときのたったひとつのルール。ぼくの場合は2日間で見つけられるけどね。妖精もいろいろ大変なんだよ。うん、これで自己紹介は完璧だ。




