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ちっさいおじさんと3日間  作者: 早川 りな
その後の私
11/16

お月見

 今日は満月。あれから1か月か。



 おじさんは指輪だけを残して、あの日居なくなった。指輪を見て、おじさんに二度と会えないだろうと何となく分かっていた。でも、おじさんがまた現れてくれるんじゃないか、という期待もあった。

 冷蔵庫を開けるとき、プラグをさし込むとき、キムチを食べるとき、缶チューハイを飲むとき、おじさんのことを思い出しおじさんが現れないかな、と思った。1か月経った今、その期待は持っていない。

 でも、おじさんを思い出すと温かい気持ちになる。


 おじさんは一体何者だったのかは分からないままだったけど、例えばおじさんが宇宙人とか天使とかだったって分かったとしても、私にとっておじさんはおじさんだ。それ以外何者でもない。

 横になるだけですぐに寝て、睡眠時間がすごく長くて、好き勝手な所に突然現れて、何もしゃべらないのに表情や動作で言いたいことがすぐに分かって、笑顔が梅干みたいで、キムチと緑茶とトマトとチューハイが好物で、手がすごく暖かい。それが、おじさんだ。これだけ分かっていれば十分。


 ときどき全て夢や幻だったんじゃないかと思うけど、私の右手の人差し指に填まっている指輪を見る。おじさんは居たんだ。私のために指輪を探してくれた。この指輪がおじさんが居た証だ。

 この指輪を見てると、実はこの指輪がおじさんに変身していたんじゃないかって思う。だって、ムーストーンの色とおじさんの月の光に当たった髪の毛の色が同じだったから。

 仕事に悩み、指輪を失くして、元気のない私に会いに来てくれたんじゃないか、と最近は思う。そうだったら、うれしい。そうじゃなくても、あの3日間は楽しかったから、おじさんが現れたことはやっぱりうれしい。

 おじさんは私に笑顔をくれた。おじさんを思い出すと笑顔になる。仕事で失敗しても、悩んでいても。



「おじさん、月がすごくきれいだよ。おじさんもどこかで見てたらいいな」



 おじさんは最後にピースサインを私に向けた。今、私も同じことをした。月に微笑んで、右手をピースにして空へと掲げた。人差し指と中指の間に満月を挟むようにして。そのとき、ムーストーンが一瞬光った気がした。


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