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トリエスタの聖騎士  作者: ゆげつげ
【 手にした指輪と囚われの姫君 】
8/20

噂の義賊「白い風」 - 3 -

 あれから、わたしたち3人は宿の一室から、その1階にある食堂へと場所を移した。

 ちょっと遅めの朝食を食べながら、ケイン王子とジェフリーさんから、こうなったことの経緯を説明してもらうのだ。

 もちろん、わたしはお金を1銭も持ち合わせていないので、ここは2人の奢りで。


「まずは謝罪いたします。すみません、手荒な真似をしてしまいました」

 そう言って、ジェフリーさんは頭を下げた。

 わたしたちは取り合えず、食堂の一番隅のテーブルにつき、やって来た女の子に朝食セットを頼んだ。

 その後、すぐにジェフリーさんが話を切り出したのだ。

「ジェフリーさん、頭を上げてください。そもそも、わたしを捕まえたのってケイン王子ですよね」

 わたしは目の前で つまらなそうに腰掛けている王子に目を向けた。

「ふん。お前が紛らわしい恰好をしていたのが悪い」

 ええ?誰、が、悪いですってぇ?

「ケイン、悪いのは貴方ですよ。何も聞かずに気を失わせて連れてくるなんて……乱暴にも程があります」

 本当、本当。

 ケイン王子はジェフリーさんの爪の垢でも煎じて飲めばいいんだわ。

 そして気持悪くなって、ゲェゲェ言って吐いちゃえばいいのよ。


「すみません……ナサニエルさん。えっと、それからですね。昨日も言ったと思いますが僕たちはとある任務で此方に潜伏して居ります。出来たらケインの呼び名の後に王子、という単語は控えて頂きたいのですが」


 大変恐縮そうなジェフリーさんである。

「あ、わかりました。では、ケインさんとお呼びします」

 わたしがそう言うと、ケイン王子が言った。

「ケインでいい」

「いや、ここは敢えて、さん付けで」

「いいって言ってるだろうが」

「嫌です」

「……っ、お前!」

 忌々しそうにわたしを見る王子。

「ケインと呼べ!命令だ」

 命令ですって、何と横暴な。

 そもそも、わたしはケイン王子の部下でも何でもないんだから、命令なんて聞く必要ないわ。

 彼はライアン・フランシス様でもないのに。

 それに王子にどれだけ無礼を働こうとも、今のわたしは架空の人物。

 不敬罪なんて、怖くない。

 処罰されそうになったら、ささーっと逃げちゃえばいいんだもの。

 女の子の恰好してれば、バレないでしょう?たぶん、だけれど。

「ケインさんがわたしのコトをお前じゃなくて、名前で読んで下さるなら考えてもいいですよ?」

 言ったわたしに、王子は言った。

「お前、何様のつもりだ!」

 何様って、それはもちろん奴隷様☆

 ライアン・フランシス様の愛の奴隷でーす。

 なんて言えないので、黙っていると、食堂の女の子が2人して、テーブルに料理を運んできてくれた。

 お皿に乗った白いご飯と目玉焼き。

 それから何の肉で作ったかわからないハンバーグ(緑色をしている)と、湯気の出るコンソメスープ。

 付け合わせにサラダなんかも付いたお得感たっぷりのメニューだと思う。


 いつも家で食べる時は朝食にパンとサラダとかしか食べてなかったから。

 一般的な食事なんて、わからない。


 ただ朝からボリューム満点だなぁ、って思うだけ。


 わたしたちは気を取り直して、朝食に舌鼓をうちながら、本題に入った。




「実は僕たち、ある盗賊団を追っていまして……」


 ジェフリーさんが言うには、巷を賑わす盗賊団「白い風」は義賊として非常に有名らしい。

 わたしは初めて聞いたんだけど、この地方以外では数々の武勇伝を残しているとか。

 悪い貴族に攫われた娘さんを助けたり、あくどい商売をしている豪商をこらしめたり。

 そのついでに、ほんの少し盗みを働くといった感じの盗賊団。まさに義賊。

 平民の皆様の間では密かにその盗賊団「白い風」のことを「裏の聖騎士」なんて呼んでいたりするらしい。

 と言うのも、その義賊の服装が聖騎士団のそれと全く同じだと言うんだから、驚きだ。

 そこまで聞いて、おバカなわたしでも納得した。


 つまり、ケイン王子は聖騎士団の恰好をしたわたしをあの路地で発見して、その「白い風」の一味だと勘違いしたのだ。

 でも……と、わたしは思う。


「あの、本物の聖騎士団とその盗賊団の人と、どうやって区別をつけるんでしょう?」

 同じ服装なら、見分けがつかない筈だ。

 わたしがもし本当の聖騎士だったとしたら?

「実は……これはあまり公にはなっていないんですが、聖騎士の服というのは特殊な手法で作られているんですよ」

「特殊な手法?」

 ジェフリーさんが親切に答えてくれる。

「はい。聖騎士の制服はそれだけで、聖器みたいな物なんです」

 わぁ、そんなこと、初耳だ。

 『月刊 聖騎士☆通信』にも、そんな情報は載ってなかったもの。

「ですから、どんなにそっくりに作っても、見る人が見れば本物か偽物か一目瞭然なんです」

 そうかぁ、だからわたしは捕まったのね。

 ジェフリーさんの説明にわたしは頷く。


 ……でもそんなこと、わたしに話しちゃってもいいのかしら?

 見た目と違って口の軽いジェフリーさんの今後が少し心配になる。

 だって、身元もハッキリしない部外者のわたしに、自分たちの身分や目的をこんなに簡単に明かしちゃうなんて。


 そんな時、わたしの心の声が聞こえたのか、ジェフリーさんが申し訳なさそうに、頭を下げた。


「ナサニエルさん。誠に勝手ながら、僕はあなたの荷物を検めさせて頂きました」

「はあ、そうですか」

 わたしは付け合わせのサラダをムシャムシャと食べながらジェフリーさんに相槌をうつ。

 ケイン王子はさっきから一言も喋らずに黙々と目の前のご飯を食べていた。

「そこで、こんなものを発見しまして……」

 こんなもの?

 ジェフリーさんが懐から取り出したのは一枚の伝票。

 わたしがこの町の服屋「クレメリーの仕立て屋」さんで注文したライアン・フランシス様の為の聖騎士の服の引き換え券だ。

 そこにはきちんと注文者の名前の欄に「エルザ・クリンプトン」という名前が記されている。


「実はこの町の隣村であるミネリの領主は僕の家の遠い親せき筋にあたるんですよ。コンバート家と言うんですがご存じありませんか?」


 コンバート家……聞いたことがあるような気もするけれど……。

 ひょっとして、わたしの正体がバレちゃったのかしら。

 と、言っても今は男の人の体だし、どう説明すればいいの?

 それ以前にわたしって、ずっと男のまま?と言うか、なんで男?

 聖騎士になりたいってお願いしたから?仮にそうだとしても、本当になれるのだろうか。


 ……まあ、努力はするけども……小さい頃からの夢だったんだし……。


「この伝票を見て、すぐにクリンプトン家に連絡をとりました」

 ええ、連絡とっちゃったの?

「するとピンクの髪をした男の子ならば確かにウチの従者に居りましたと言う返答を頂きましてね」

 え?え?えええ?

「確かあそこの娘さんも「奇跡の色」の持ち主でしたよね。あなたと同じ」

「はあ」

 話の展開について行けずに気の抜けた返事をしてしまう。

「あの家の執事さんが言っておられました。その少年は聖騎士を目指して従者の仕事を辞めて王都に向かう途中だと」

 バッスン。バッスンが話を合わせてくれたの?

 彼ならわたしがどれくらい聖騎士になりたがっていたのか、知っている。

 でも……どうして?少年ってコトにしてくれているの?

 あ、わたしが髪を切って行ったからか……。クローゼットの男装セットもないことだしね。

 優秀なバッスンなら、それくらい察知するのもお手の物かしら。

「男性で、髪がピンク色の人は大変、貴重です」

「……え、そうなんですか?」

 えっと、これも初耳です。

「髪の色が変わるのは常に聖力を放出し続けているからだと言われているんですが、この現象が男性に起こる事は数少ない症例なんですよ」

 原因はわかりませんが、と ジェフリーさんは言った。


「聖騎士団としても力の強い団員は歓迎です。あなたみたいな方に入って頂けると非常に助かる。普通の警備なら大丈夫ですが、魔のモノを相手にするとなると、聖術が欠かせませんからね。ちょうど、僕たち第3団には聖術師が欠けているんです」


 聖術師が欠けている、ジェフリーさんの言葉にケイン王子があからさまな反応を見せたけれど、それは見なかったコトにした。

 何か事情があるんだろうけど、今のわたしには全く関係ない。


 それよりも、これってチャンス?聖騎士になれるチャンス?


 でも、わたし……聖騎士になる特訓を途中で放棄しちゃったのよね。

 聖術の基礎は勉強したけれど、それは必要な知識を頭に詰め込んだだけで、実際には聖術なんて一度も使ったことがない。

 それは使う場面に遭遇したことがないってコトもあるんだけれど……。


 けれど、ここは嘘も方便ですよねー!

 と言うか、勝手にわたしの髪の色を見て、聖力が強いイコール聖術師って判断しちゃった人が悪いんだ。

 つまりジェフリーさんが悪いってコトで。

 わたしは黙るコトで事実を隠ぺいした。

 聖騎士団に入ってしまえば、こっちのものよ!


「ですが、残念な事に今年の聖騎士入団テストは既に終わっているんですよね。そこで相談なんですが、ナサニエルさん。僕たちと一緒に今回の事件の解決に尽力して頂けないでしょうか?その中であなたの力を判断させて頂いて、よければ入団。ダメでも来年の春には試験がありますから、事件解決の暁には王都までお送りしますよ」


 おお、踏んだり蹴ったりじゃなくって、至れりつくせりなお話じゃない。

 上手い話には裏がある、だなんて言ったのは誰?

 例え裏があったって、乗って見るのが女ってモノよねぇ。


「その話、受けて立ちましょう!」

「いや、その……本当に立たなくてもいいんですけどね」

 と、その場で立ち上がったわたしにジェフリーさんは言った。




「ところで、ジェフリーさんたちが関わっている事件って何なんですか?」

 同じテーブルにいても、一言も発しないケイン王子は最早、空気と化していた。

 ここはもう、わたしとジェフリーさんの世界。ケイン王子は蚊帳の外だ。

 ちょっと寂しげな王子は食後のデザートにプリンを頼んだ。

 ついでにわたしも同じものを頼む。後、水のおかわりを要求した。

「実は先月、王宮に手紙が届きまして」

「手紙?」

「はい。差出人は「白い風」で、ケインの別腹の妹君、テレサ・フェイス・トリエスタを誘拐した、と」


「えええええ!!」


 わたしは思わず叫んでいた。それはもう大声で。

 少ないけれど食堂中の客の視線がコチラに集まる。

「あ、ナサニエルさん。お気持ちはわかりますが、お静かにお願いします」

 以外に冷静なジェフリーさんの言葉に、最初に忠告しろよ!とツッコミを入れたくなりました。

 わたしは何とか気を取り直して、ジェフリーさんに質問をする。

「あの、お姫様って本当に誘拐されたんですか?」

 何て言うか、それって一大事だよね?

 国を上げて大々的に捜索とかってしないのかしら。

「はあ、一応は姿が見えないんですけど……テレサ様には前科がありまして……以前にも似たような事件を起こしているんです」

「はい?」

 わたしは思わず聞き返してしまった。


「テレサ様は以前、今回と似たような脅迫文を自分の父親、つまり国王様に送りつけて、右往左往している姿を陰から楽しむという事をされたのですよ。その時は国一丸となって騎士を集めたりしましたから、今回もまた同じような事であったら示しがつかない。それで国王様から早々に解決するように、と、たまたま国内勤務中だった第3聖騎士団にお鉢が回って来たんです」


「な、何て言うか……はた迷惑なお姫様なんですね。そのテレサ様って人」

 わたしの率直な意見にジェフリーが苦笑を浮かべる。

「実はその他にもいくつか気になる点がありまして、それは追々お話 していきましょう。今は早急に情報を集めなくてはなりませんので」




誤字修正しました。

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