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トリエスタの聖騎士  作者: ゆげつげ
【 手にした指輪と囚われの姫君 】
5/20

ナサニエル・レインの誕生 - 5 -

※ 下ネタ注意。

 目が覚めると暗い室内に居た。

 何故かは分からないけれど、後ろ手にされて手足を縛られてるみたいだ。

 ……これは誘拐?

 わたしをクリンプトン家の娘と知っての仕業だろうか?

 でも、そうだった。わたしは今、男装しているんだった。

 じゃあ、何故だろう?それなりの身なりだったから、どこかの子息と間違えられた!?

 それとも、髪の色の所為……?えーい、忌々しい。

 でも、この髪色。確かに稀ではあるけれど、100人に1人くらいの割合だから、そこまで珍しくもない。


 考えられる可能性としては子息の誘拐が濃厚かしら?

 でも身代金をとるにしても、身元がハッキリとしてないと無駄よね。

 ──タダの人買いだろうか。

 子供の頃、よく屋敷を抜け出していたわたしに子守りのターニャが言っていたのだ。

 「1人で外を歩き回っていると、人買いに攫われてしまいますよ」って。

 わたしは全くそんなこと信じてなかった……だって、攫われたことなんて1度もなかったから。

 わたしを怖がらせる為のウソだと思ってたんだけど……本当に居たんだ。

 きっと村にはいなかったけど、町にはいたのね。


 ……どうしよう。

 きっと、どこかへ売られちゃうんだ。

 聖なる神の国と称される聖トリエスタ王国には奴隷制度はないけれど、ひとまず外に出てしまったら、わからない。

 色んな国が存在しているから。

 でも、大抵の国がここと同じ神、ファーミリアムを崇めている。

 そんなに酷い扱いはされないと思うけれど……。


「おい、お前」

 室内に突然、声が響いた。

 ……ああ、なんだか聞き覚えがある声だ。

 そう、見た目よりちょっと低めの……はっ!!


「ライアン・フランシス様!?」


 わたしが上げた声に、視界の隅の暗がりで何かが動いた。

 ひぃえぇぇ。オバケはちょっと勘弁してほしい。

 誰か!誰か!!明かりをつけてちょーだいっ!

 心の中で、そう必死に叫んでいると、パッと明かりが灯った。

 と言うか、声の主が部屋のランプに火を点けたみたいだ。


 ……なーんだ。影の正体はライアン様だったのか。

 恥ずかしい。オバケなんかと勘違いするなんて……わたしの愛もまだまだと言うことね。


「──目が覚めたのか」

 ライアン様は気だるそうな様子で、コチラを向く。

 ああ、何て言うか……その肉体美。

 わたし……男の人の裸なんて、初めて見たわ。上半身だけだけど。

 部屋に灯る小さな明かりが、彼の体を下から照らし出していて、なんとも欲情的……。

 続いてコチラに近づいて来る彼の顔を、窓から差し込む月明かりが青白く照らしていた。

「ああ……神様」

 う、美しい……ラ、ライアン・フランシス様!!

 ハア、ハアと思わず鼻息が荒くなる。

 そして、何故か下半身がムズムズとして、熱い。

 ああ、なんなのこの感覚!

 初めて感じるような……でも、でも、堪らない!!

「……お、お前、大丈夫か?」

 わたしのすぐ傍までやってきたライアン様は、明かりに照らされたコチラを見るなり言った。

「ええ、すこぶる元気です!興奮しています!!」

 縄で縛られて、床に転がっている状態でわたしは答えた。

 すると近くまで来ていたライアン様が、一歩、後ずさる。


 ……あーん、後もう少し近づいてくれてもいいのにぃ。

 そんなことを思いながら、わたしは疼く自分の下半身を見た。


 はて?わたし下半身に詰め物でもしてたかしら?

 この盛り上がっているモノは、なあに?


 そう言えば、先ほどから胸元がスースーする気がする。

 無駄に成長していた胸を潰す為に締め付けていたから、そんなハズないのに……。

 これじゃあ、まるで男の人の体だわ。


「って、男ぉぉぉ!?」


 突然、叫んだわたしに、ライアン様が剣を突き刺す。

 それも、わたしの目と鼻の先の床に。

「……ラ、ライアン様?」

 自分の身に起こったであろう珍事よりも、愛しのライアン様に剣を突き付けられているコトの方が衝撃だった。

「ラ、ライアン様……どうされたのですか?何か気に障るコトでも?」

 わたしは震える声で、そう尋ねた。

 だって、嫌だ。ライアン様に嫌われたくない。

「ライアンって言うのは俺のことか?」

 わたしの声に剣を突き刺したまま、ランプを近くのテーブルに置いたライアン様が言った。

 ああ、なんて冷たい眼差し。まさに金色こんじきの悪魔ね。

 昼間なら明るいブルーの瞳が、今は黄色い明かりに照らされて、複雑な色を作り出している。

「ああ、ライアン様……あなたはライアン様でしょう?」

 わたしの目はきっと今、うるうると潤んでいるに違いない。

 夢にまで見たライアン・フランシス様にこうやって会うことが出来たんですもの。

 架空の人物だったハズなのに、こうして今、わたしの目の前に……。

 しかも、わたしは今、男の人みたい。

 だって、体がオカシイし。これなら聖騎士にだって、なれるんじゃないだろうか。


 それもこれも全て、きっと多分、指輪のおかげだ。

 金貨30枚の指輪が、わたしの望みを叶えてくれたんだ。


「俺はライアンなんて名前じゃない」

 感極まったわたしの頭上に冷たい声が降りかかった。

「またまたぁ」

 ご冗談を。そんなに見た目がソックリなのに、別人だなんて言わないで欲しい。

 ひょっとして、わたしのこと焦らしてるの?

 それとも……謙遜なのだろうか?

 確かにちょっと、性格は違うような気がするけれど……だって、ライアン様は自分のことを「俺」なんて言わない。

 「わたし」とか「僕」だもの。

 なんたって、王子様だからね。育ちがよろしいの。

 どんな苦難な道を超えられても、その お優しい性格は変わらなかったのよ。

 だから、友の死や仲間の死に随分と苦しんだのだけど……。

 ライアン様は本来、虫も殺せぬような優しい方なんだから。

「お前が誰と勘違いしているかは知らないが、俺には別の名前がある」

 ……偽名ってことかしら?

 それなら納得だ。ライアン様は一人歩きする名前の為に度々偽名を使う。

 時にはブライアン、時にはキース、時には……と、まあ様々な、その場 限りの名前だ。

「あ、あの……今のお名前は?」

「今の?今のも何も……俺の名前はケイン。それだけだ」

 ケイン、ケインとおっしゃっているのね。

「わかりました。ケイン様と呼ばせて頂きますね」

「いや、呼ばなくていい」

 そ、そんなぁ……。

「それよりも、お前の名前は?仲間はどこだ?」

 名前……に、仲間?

「わ、わたしの名前はナサニエル・レインと申します!」

 咄嗟にそう答えて、わたしは慌ててしまう。

「あ、すみません。その……あなたの大切な友と同じ名前だなんて、おこがましいにも程がありますよね。でもこの名前しか思いつかなくて……ですから、出来たらこの名前で呼んで頂きたいと……」

「何を言ってるんだ?」

 訝しげな顔をして、ライアン様(……じゃなくって今はケイン様よね)が言う。

「あ、あの。はい。ですから、あなたの友の」

「さっきも言ったが誰かと勘違いしている。俺にナサニエル何て言う知り合いはいない」

「え……でも」

「でも、じゃない。さっさと質問に答えろ。答えないなら斬る」

 そんな。ライアン様、じゃなくてケイン様は記憶喪失なのだろうか?

 それとも……ショックでその名前を思い出したくないとか。

「す、すみません……ライアン様の気持ちにも気付かずに」

「だから、ライアンじゃないって、さっきから」

 苛立たしげに髪を掻き毟るラ……いや、ケイン様。

「ああ、ケイン様でしたよね。すみません、慣れないもので」

「慣れる必要はないが……それよりも、お前の仲間はどこだ?」

 はて?ケイン様は何をおっしゃっているのか。

「仲間、とは?」

「仲間って言ったらアレだろ?お前の仲間だ」

「…………」

「…………」

 首を傾げるわたしに、つられてライアン様が眉を潜める。

 あ、しまった。ライアン様じゃなくて、ケイン様。ついつい長年の習慣で。


「──お前……盗賊団「白い風」って知ってるか?」

「はぁ……知ってるような、知らないような?」

 聞いたことがあるような、ないような。

 何かの本で読んだんだろうか?

「いや……お前。それ、本気で言ってるんだろうな?正直に答えないと、例え子供でも容赦しないぞ」

 子供って、わたしのことだろうか?

 ケイン様にはわたしって、一体 いくつに見えてるのだろう……。

 本当は16歳だけど、わたしの脳内設定では14歳くらい。

 まあ、子供と言えば、子供よね。

「あの……ケイン様。わたしは何とお答えすればいいのか、さっぱりわかりません」

 わたしは正直にそう言う。

 だって、話の内容がまったく掴めてないんだもの。

「いや、あのな……ったく、俺の説明が悪いのか?」

 ケイン様は呟いて、再び頭を掻き毟る。

 ああ、その仕草……素敵だけれど、ちょっとイメージと違う。

 でもライアン様は、今、ケイン様だから、仕方がないことなのよね。

 今は王子様っていうより、どちらかと言うと、そこら辺の傭兵って感じだもの。

 あ、そこら辺の傭兵なんかと一緒にしちゃダメよね。

 彼らは大体が聖騎士になり損ねた人たちだ。

 剣の腕は立つけど、聖力が足りなかった人たち。

 それでも魔物くらいはやっつけられるから、お金がない平民や商家に重宝されている。


 聖騎士に護衛についてもらうと、表向きには無償なんだけど、裏ではお金を渡さないといけないらしい。

 寄付って名目のお金を。

 この知識は『聖騎士の裏と表 -社会での役割-』という本から学んだ。

 発売してすぐに、神殿側の圧力により絶版になったものだけど。


「あの……ライアン様?」

 わたしは今、そんなことよりも考えなくてはいけないことがあった。

「…………」

 無反応なライアン様って……あ、ケイン様だった。

「ケイン様?」

「なんだ」

「わたし、トイレに行きたいんですけど……」

「トイレならこの部屋を出て左に曲がった角にある」

「あの……これじゃ、歩けません」

 わたし、足を縛られてる。

「ああ」

 ケイン様は頷いて、足の縄を解いてくれた。

 あ、今、ちょっとわたしの足にケイン様の指の感覚が!

 ああ……なんて、なんて、興奮するのー!!

 落ち着け、わたし。落ち着けー。今、興奮したら、取り返しのつかないことになる。


「あ、あの手の方もお願いします」

「──お前、逃げる気じゃないだろうな」

「逃げるなんて!わたし、そんなことしません!」

 ライ……ケイン様のお傍を離れるなんて、今は考えられない。

 トイレにだって一緒に行きたいくらいなのに。

 ケイン様は後ろ手で縛っていた縄を解いて、今度は前にして縛った。

「念のため、俺もついて行く。縛っていても、それなら用くらい足せるだろ」

 きゃー、ケイン様もわたしと離れたくないのね!

 ……トイレにも一緒に行きたいくらいに。

「はい!行きましょう!!」

 わたしが元気よく答えると、ケイン様は少し嫌そうな顔をした。

 ……照れていらっしゃるのかしら?





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