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第90話:二つ目のパーティーの相談

佐藤勇馬たちが統合ダンジョンの一層最奥で、お腹をタプタプに膨らませながら『初級レベルアップポーション』を四十九本一気飲みし、第二の初級職を爆速でカンストさせてから、およそ二週間の月日が流れていた。


十月中旬を過ぎ、秋の気配はさらに深まり、街路樹の葉も色づき始めている。

 佐藤たちはカイトのアドバイス通り、第二の中級職へと無事に転職を果たし、一時的な弱体化期間を少しだけスキップして、現在はレベリングに勤しんでいた。


そんなある日の昼休み。

 カイトは、いつもなら佐藤たちと過ごすはずの時間を変え、校舎の裏手にある、普段はあまり生徒が立ち入らない中庭のベンチに座っていた。

 すぐ隣には、この学校において誰もがその動向に注目する才媛であり、カイトたちとは別のパーティを率いる、九条院の姿があった。


「――さて、こうやって急に声をかけて、わざわざお昼休みの時間を取ってもらってありがとね。結城くん」


九条院は上品に膝の上でお弁当箱を広げながら、お淑やかに微笑んだ。彼女から「昼休みに少し二人で話がしたい」と請われ、一緒にお弁当を食べる運びになったのだ。


「ううん、全然気にしないで。俺もたまには場所を変えて食べるのも新鮮だしね。……それで、九条院さん。話っていうのは?」


カイトが親が作ってくれた弁当のサンドイッチを齧りながら尋ねると、九条院は一度、箸を置いて居住まいを正した。雑談もそこそこに、彼を呼び出した本題へと切り出す。


「ええ。まずは、私たちのパーティの現状について、あなたに報告させて。……実はね、私を含めたメンバー全員、一つ目の『中級職』がカンストしたの」


「えっ……! それは凄いね。おめでとう、九条院さん」


カイトは素直に驚き、祝福の言葉を口にした。

 佐藤たちは三人でダンジョン攻略を行っているため、一般的なパーティー人数の五人と比べ一人当たりの獲得経験値量が増える。そのためあの速さにも一定の納得をしていた、それに対し九条院たちのパーティは四人、獲得経験値の効率で言えば佐藤たちよりも落ちるが、その差を二週間という短い期間に抑えているあたり、彼らがこの学年、ひいては同世代の中でも比較的突出していることを物語っている。


「ええ、ありがとう。……でも、ここからが今日の本題なのだけれど」


九条院は少しだけ真剣な、どこか探るような眼差しをカイトに向けた。


「佐藤くんたちに、少しね、お話を伺ったのよ。彼らが中級職をカンストさせた後、二個目の初級職をどうやって選んだのかを。……そしたら彼ら、少し自慢げに『カイトに聞いた』って言うじゃない? だから、私たちもこれから複合上級職を目指すにあたって、何かアドバイスを貰えないかと思って、今日ここで結城くんに付き合ってもらっているの。……もし良ければなのだけれど、私たちにもアドバイスをくれないかしら?」


「あはは……自慢するようなことでもないだろうに」


カイトは苦笑しながら頭を掻いた。絶対に他言無用と釘を刺したのは『初級レベルアップポーション』の存在だけであり、職業選択のアドバイス自体は隠すようなことではない。佐藤たちの存在が、こうして九条院を動かしたのだろう。


とはいえ、他ならぬ九条院からの頼みだ。彼女たちとはこれまでも統合ダンジョンの攻略において良好な関係を築いてきたし、変に勿体ぶる必要もない。


「もちろん、いいよ! 全然構わない。……ただ、的確なルートを見極めるためには、みんなの『理想の将来像』を知りたいんだ。九条院さんたちは、最終的にどんな戦い方をしたいか、それぞれの希望の職の像を教えてもらえるかな?」


カイトの快諾に、九条院はパッと表情を明るくした。


「ありがとう、結城くん! 受けてくれて嬉しいわ。……ええと、まずは私個人の希望からね」


九条院はふっと視線を落とし、それから、今まで誰にも見せたことのないような、燃え盛るような強い意志が宿った瞳でカイトを真っ直ぐに見据えた。


「私は……あなたの前でこういうことを言うのも少し恥ずかしいし、大言壮語に聞こえるかもしれないけれど……『最強』になりたいの。誰にも負けない、圧倒的な頂を目指したい。ダンジョンに潜り始めたあの日から、その気持ちだけはずっと変わらずに持っているわ」


気高く、美しく、そして貪欲に強さを求める。彼女に相応しい、迷いのない言葉だった。


「それで、他のパーティメンバーの希望なのだけれど……。事前に全員からしっかりと話を聞いてきたから、代表して私から伝えるわね」


九条院は記憶を辿るように、指を折り数えながら言葉を続けた。


「まず、清水くんは『守る力』を求めていたわ。ただ攻撃を防ぐだけじゃなくて、とにかく何があっても絶対に崩れない、パーティ全体の『頑強な支柱』になりたいって言っていたわ。

 次に、明美ちゃん……松田さんのことね? 彼女は……ちょっと恥ずかしいのだけれど、『私は、紗夜様のお力になれるなら、どんな職でも構わない』って言っていたわ。相変わらず私を盲信しているところがあるのだけれど、本心みたいね。

 最後に、大久保さんはね……実は、結城くんと同じ、モンスターを従えて戦う職――『調教師』にずっと憧れていたそうなの。将来的に、強力な魔獣を配下に置く職になりたいって、強く希望していたわ」


四人それぞれの願い。それを聞いたカイトは、腕を組んで脳内でゲーム時代の膨大な職業派生ツリー、そして複合上級職の前提条件を高速で検索し始めた。


(九条院さんが『最強・頂』。清水くんが『崩れない支柱』。松田さんが『九条院さんの力になる』。大久保さんが『調教師』か……)


彼女たちの現在の中級職をベースに、その望みを最大限に叶えるための最適解。特に大久保が調教師を志望しているというのは、カイトにとっても興味深い情報だった。


数秒の沈黙の後、カイトは腕を解き、九条院を見つめた。


「うん、みんなの理想はよく分かったよ。……じゃあ、俺からの提案を伝えるね。ただ、これはあくまでも俺個人としての『アドバイス』だから、絶対にその通りにしろって話ではない、ということだけは念頭に置いておいてね?」


「ええ、もちろん分かっているわ。先駆者であるあなたの見解を聞けるだけで、本当に貴重なのだから」


九条院がコクコクと真剣に頷く。カイトは人差し指を立てて、まずは彼女自身のルートから提示した。


「それじゃあ、まず九条院さんだけど……今鍛え終わった一つ目の中級職に重ねる形で、まずは初級職の『癒し手』を経由して、その先の中級職『大癒術師』を極めてほしいんだ」


「えっ……? 私が、回復職である『大癒術師』を……?」


九条院は驚きに目を見張った。「最強の頂」を望んだ自分に対し、カイトが提示したのが純粋なヒーラー系の中級職だったからだ。しかし、カイトの目は大真面目だった。


「うん。一見、最強を目指すアタッカーとは真逆に思えるかもしれないけど、これを極めた時に、九条院さんの希望に沿った職になれると思うよ。だから、九条院さんが真の頂を目指すなら、ここで大癒術師を極めるのが一番の近道になると俺は考えてる」


「なるほど、ただ剣や攻撃魔法を突き詰めるだけでは、真の頂には届かないということね……。わかったわ」


九条院は感嘆のため息を漏らし、カイトの言葉を貪るように脳裏に刻み込む。


「次に、清水くんだ。彼は『剣士』を経由した、中級職の『騎士』を目指すのをおすすめするよ。今持っている前衛職の防御スキルに、騎士の近接戦闘能力が合わされば、パーティ全体の耐久力が劇的に跳ね上がる。そしてその先にある複合上級職、それに就けばまさに、どんな強敵が来ても絶対に崩れない完璧な支柱になれるはずだ」


「清水くんには『騎士』ね。彼の真面目な性格にもぴったりだわ」


「そして松田さん。彼女は九条院さんと同じく、初級の『癒し手』を経由して中級の『大癒術師』を極めてほしい」


「明美ちゃんも、私と同じ大癒術師に?」


「そう。九条院さんが将来的に前線に出て『最強』を体現するようになれば、パーティー全体の力を底上げするような人、そんな人になるのが彼女の希望に沿っていると思う。そして大魔法使いと大癒術師を極めた先にきっと彼女の求める物があると思うんだ。九条院さんの力にも絶対なれるって断言するよ」


カイトがそう説明すると、九条院は頬を僅かに赤く染め、嬉しそうに目を細めた。


「ふふ、明美ちゃんがそれを聞いたら、喜んで大癒術師のレベリングに励む姿が目に浮かぶわ。素晴らしい提案をありがとう」


「最後に、大久保さんについてなんだけど……」


カイトは少しだけ声を低くした。ここが一番の「捻り」を加えた部分だった。


「彼女は調教師を目指したいと言っていたけど、初級職の『盾士』を経由して、中級職の『大盾士』を極めるルートをおすすめしとくね」


「えっ!? 調教師になりたい彼女に、盾の職を……?」


九条院は今日一番の衝撃を受けたように声を上げた。しかし、カイトはニヤリと不敵に笑う。


「そう。調教師になるためのルートは、大癒術師と大盾士、二つを極めた先にあるんだ。これに関しては俺が証明しているから、安心して育成に臨んでほしい。」


カイトが提示した未来のビジョンは、九条院の納得を得られたようだった。


「……自分たちの理想に近付けると、俺は思うよ」


カイトがそう言ってサンドイッチを平らげると、九条院は深く、深く息を吐き出し、尊敬の念を隠そうともせずにカイトを見つめた。


「……ありがとう、結城くん。本来こうやってアドバイスする筋合いもなければ義務だってないのに、真剣にアドバイスをくれたこと、身に染みているわ。本当にありがとう。」


九条院は丁寧に頭を下げた。


「ふふ、また何か、絶対に素晴らしい埋め合わせをさせてもらうわね。期待していて頂戴?」


「あはは、埋め合わせなんて気にしなくていいのに。みんなが強くなって、三年生の最後の合同演習で四十層を一緒に大々的に攻略できたら、俺としてはそれが一番嬉しいかもな」


「ええ、そうね! その時は、私たちの進化した力、存分に見せてあげるわ」


九条院は悪戯っぽく笑い、それからは昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴るまで、二人は他愛のない学校の雑談や、最近のダンジョンでの出来事について楽しそうに話を咲かせながら、残りのご飯を食べていった。


秋風が吹き抜ける中庭で、先駆者としての知識を授けたカイトと、次なる頂への道標を得た九条院。

 カイトの周囲で、確実に、そして爆発的に新たな強者たちが産声を上げようとしていた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.58)』

『使役モンスター:イスト(Lv.19・銀騎士)、ティロフィ(Lv.19・黒白竜)』

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カイトの周囲で、確実に、そして爆発的に新たな強者たちが産声を上げようとしていた。 それぞれが目標を持って切磋琢磨していくの大好き 弱体化しかもバランスの悪いPT編成とか不安しかないだろうに…
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