表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/129

第87話:リベンジ

深い闇が支配する、統合ダンジョン第三十六層。

 前日に三十四層で新たな力を試したカイトたちがゲートを潜り抜け、前方に広がっていたのは、昼間で固定された三十四層とは打って変わって、冷徹な静寂に包まれた夜の世界だった。


頭上には澄んだ光を放つ月が浮かんでいるものの、地上を埋め尽くす十数メートル級の巨石群が複雑な影を落とし、探索者の視界を著しく奪っている。以前、カイトたちがなす術もなく撤退を余儀なくされた、苦い記憶の舞台そのものだった。


「……やっぱり、ここは相変わらず視界が最悪だな」


カイトは小さく息を吐き出し、精神を研ぎ澄ます。

 この階層の恐ろしさは、暗闇そのものだけではない。夜の闇と巨石の影に同化し、音もなく冒険者を屠るために潜む、狡猾なモンスターたちの存在にある。

 だが、今のカイトの瞳に、怯えの色は微塵もなかった。


「準備はいいか、二人とも。ここからは一歩だって退かないぞ」


「はっ。我が主の往く道を阻む障害、すべて切り伏せましょう」


白銀の鎧を月光に鈍く輝かせ、イストが愛剣の柄に手をかける。細部の金装飾が、闇の中で静かに自己主張していた。


「グルァッ!」


ティロフィもまた、体長五メートルを超える巨躯を低く構え、いつでも動けるよう漆黒の翼をわずかに羽ばたかせた。


ゲートから数歩踏み出した、まさにその瞬間だった。

 張り詰めた空気を切り裂き、岩の影、そして頭上の暗闇から、明確な「殺意」がカイトたちへと向けられる。不意打ちを狙い、息を潜めていた三十六層の住人たちが動き出そうとしていた。


「させるかよ。――ティロフィ、先制だ! 【挑発の咆哮】、続けて【恐圧の咆哮】を連続で放て!」


「グルォォォォォォォッ!!」


カイトの鋭い号令と同時に、ティロフィの喉奥から不可視の波動が炸裂した。

 まずは周囲の全ヘイトを強制的に自身へと引きつける【挑発の咆哮】。この一撃により、岩陰に隠れていたモンスターたちが、怒りに狂ったように一斉に姿を現した。


巨石の影から滑り出すように出現したのは、漆黒の黒曜石で構成された細身の人型ゴーレム――『シャドウガレム』だ。表面が鏡面のように磨き上げられており、月光を反射させてカイトたちの目を眩ませようと企んでいる。

 さらに、銀色の鉱石が混ざった体毛を持つ『ルナウルフ』の群れが、月光の下で残像を残すほどの高速移動で地面を駆け、頭上からは黒曜石の翼を持つ大蝙蝠『オブシディアン・バット』が、超音波の衝撃波を放ちながら急降下してくる。


普通の中堅冒険者パーティであれば、この全方位からの同時奇襲によって瞬時に壊滅へと追い込まれる地獄絵図。

 しかし、ティロフィの咆哮はそこで終わらない。


「ガルォォォォッ!!」


間髪入れずに放たれた二弾目、【恐圧の咆哮】。

 黒竜形態のティロフィから放たれた圧倒的な覇気が、襲いかからんとしていたモンスターたちを真っ向から押し潰した。その強力なデバフ効果により、敵全体の攻撃力と防御力が著しく減少する。


「ガァ!?」

「グルゥッ……!」


急激な身体の変化に、ルナウルフたちの足がもつれ、オブシディアン・バットの急降下の軌道が大きくブレる。

 シャドウガレムが辛うじてティロフィの脚にその拳を叩きつけたが、攻撃力を削がれた彼らの打撃は、進化したティロフィの強固な漆黒の鱗を前に、何の痛痒も与えることはできなかった。カンッ、と虚しい金属音が響くだけである。


「完全に動きが止まったな。……イスト、一番硬い奴から片付けるぞ!」


「承知いたしました――【瞬動】」


カイトの指示が終わるよりも早く、イストの姿が文字通り掻き消えた。

 目にも留まらぬ速度で空間を転移したかと錯覚するような神速の移動。イストが次に現れたのは、ティロフィの足元で動きを硬化させていたシャドウガレムの真ん前だった。


シャドウガレムは、ティロフィに夢中になっており、前に現れたイストのことを認識すらしていないようだった。


「――【一閃】」


闇夜を引き裂くような白銀の軌跡。

 【強靭の咆哮】によるバフが入っていなくとも、銀騎士の基礎攻撃力はすでに突き抜けている。さらに【恐圧の咆哮】で防御力を著しく下げられたシャドウガレムにとって、その一撃はあまりにも致命的だった。


パキィィィン!!


硬質な黒曜石の身体が、縦一文字に綺麗に両断される。シャドウガレムは何が起きたのかを理解する暇さえ与えられず、そのまま光の粒子へと霧散し、地面に魔石を残して消滅した。


「相変わらず凄まじいな。よし、ティロフィ! 残った雑兵どもをまとめて吹き飛ばせ!」


「グルァッ!」


最大の盾であったシャドウガレムを一瞬で失い、動揺に揺れるルナウルフとオブシディアン・バットの群れ。彼らに向けて、ティロフィはその巨大な黒い翼を大きく広げ、全力で岩場を煽った。


「――【破壊の風】」


轟音と共に、空間そのものを圧壊させるような猛烈な衝撃波が巻き起こる。

 夜の冷気が一瞬で弾け飛び、前方一帯にいたモンスターたちが、衝撃波の直撃を受けて次々と圧し折られ、砕け散っていく。残像を残して逃れようとしたルナウルフも、超音波で対抗しようとしたオブシディアン・バットも、その圧倒的な質量攻撃の前には無力だった。


数瞬の前、あれほど濃密な殺意に満ちていた空間は、今や静まり返り、何事もなかったかのように静寂を取り戻していた。地面には、数個の魔石が転がっているだけだ。


「……ふぅ。リベンジ成功、ってところだな」


カイトは周囲を見渡し、小さく笑った。

 かつてあれほど絶望し、命からがら逃げ出した三十六層の初戦を、僅か数十秒という短い時間で、しかも完全に無傷で制してしまったのだ。


カイトは落ちた魔石を拾い上げながら、この新しい戦術の確かな手応えを分析する。


(ティロフィの【挑発の咆哮】で周囲の敵をあらかじめ一箇所に集める。これによって、視界の悪いこの階層でも、敵の不意打ちによる連戦を防ぐことができる。一戦一戦の内容はすべての敵を相手にするから濃密で危険に見えるけど、今の二人のスペックなら、まとめて殲滅した方が結果的に負担が少ないし、安全だ)


索敵ができず、ずるずると奇襲を受け続ける泥沼の連戦に比べれば、こちらから戦場をコントロールするこのハメ技に近いコンボの方が、遥かに効率が良い。


「主、周囲の気配は完全に途絶えました。これなら、先へ進んでも問題ないかと」


剣を払う動作をしながら、イストが凛とした声で告げる。


「グルゥ♪」


ティロフィもまた、自身の新しい力が十全に機能したことに満足したようで、自慢げに胸を張っていた。


「ああ、分かった。進化した二体の力は、俺の想像を遥かに超えてるよ。……これなら、この階層、いや、その先だって問題なく進める」


カイトは力強く頷き、暗闇の奥へと続く道を見据えた。

 停滞していた攻略の時計が、今、確かに進み始めた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.41)』

『使使役モンスター:イスト(Lv.3・銀騎士)、ティロフィ(Lv.2・黒白竜)』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
本作を楽しく読ませてもらってます その中で少し疑問点がありますので書き込みしました もちろん作品を批判する意図は有りません ★5評価もさせてもらってます ●【挑発の咆哮】がカイトのスキルのはずが 本…
おはようございます。 リベンジ成功ですね!カイトくんが目指す最強の頂はまだまだ先ですが、今の段階でも十二分に現時点での世界一テイマーは名乗れそう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ