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第49話:竜の初陣と名もなき騎士

翌朝、静かな日曜日。

 『竜の巣』で灰色のリトルドラゴン、ティロフィをテイムしてから一夜。全身に残る魔力の倦怠感を、カイトは強靭な精神力でねじ伏せていた。彼が早朝から足を運んだのは、都内某所の古い地下水道にひっそりと口を開ける単独ダンジョン――通称『決闘の間』である。


ダンジョンとしての外観は、風化した大理石が重厚な歴史を感じさせる古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる円形建築物だ。入り口を抜けると、ひんやりとした古の空気が肌を撫で、奥へと続く一本の通路が、広大な円形の広場へと繋がっている。


(……ようやく、この時が来たか)


カイトはこの場所をかつて一度攻略し、特殊報酬であるスキル『高貴なる血統』を既に手に入れている。しかし、今日の目的は宝箱ではない。この場所の、コロッセオの中心に鎮座する、あの「名もなき騎士」そのものを、自身の軍団に加えることだ。


カイトは通路を歩きながら、現在の自身のコンディションを確認する。

 ジョブは調教師でレベルは15。


「……準備はいいか、ティロフィ」


カイトが低く呟くと、足元の影から灰色の鱗を持つ小さな竜が姿を現した。昨日テイムしたばかりのティロフィだ。まだ体長一メートルほどの幼体ながら、その瞳にはカイトへの深い信頼と、これから始まる戦いへの高揚感が宿っている。


広場の中央に立った瞬間、背後の巨大な石扉が地響きを立てて閉まった。

 それと同時に、広場の反対側から、カチリ、カチリと金属鎧が擦れる重厚な音が響く。

 現れたのは、装飾を削ぎ落とした実戦本位のフルプレートに身を包んだ怪異。

 『名もなき騎士』。

 手にしているのは長剣とカイトシールド。特定の属性や派手な魔法は持たないが、その一挙手一投足には一切の無駄がなく、基本に忠実な「強さ」が凝縮されている。理想的ともいえる重装歩兵の姿がそこにあった。


「グルァッ!」


カイトの合図と共に、ティロフィが爆発的な速度で地を蹴った。

 ティロフィは即座に魔力を身体の隅々に巡らせるスキル【身体強化】を発動。灰色の鱗が摩擦熱を帯びたように鈍く光り、騎士の懐へと滑り込む。


「ギギッ……!」


名もなき騎士が盾を構え、ティロフィの放つ鋭い【爪撃】を正面から受け止める。重い金属音が円形の広間に反響し、火花が散った。騎士は即座に盾で押し返し、長剣で最短距離の突きを放つが、ティロフィは空中で身を捻り、猫のようなしなやかさでそれを回避する。


(いい動きだ、ティロフィ。やはり君を仲間にして正解だった)


カイトは後方で状況を冷静に分析していた。

 本来、この『決闘の間』はタイマンの真剣勝負を想定されている。しかし、今のカイトは一人の剣士ではなく、軍団を率いる「調教師」だ。使役獣との共闘こそが、彼の真骨頂である。カイトは大癒術師の精密な魔力操作を行い、ティロフィのスタミナを絶え間なくバックアップしながら、騎士の動きを注視した。


「ティロフィ、右だ! 盾の死角を突け!」


カイトの指示に従い、ティロフィが目まぐるしく位置を変える。

 だが、まだ幼体ともいえるティロフィにとって、名もなき騎士はあまりにも手堅かった。

どれほどティロフィが翻弄しようとしても、決して体勢を崩さず、最小限の足運びで常に正面を捉え続ける。その防御の硬さは、まさに鉄壁だ。


(流石だな。普通に戦えば、まだティロフィにこの防御は抜けないか)


カイトは【追憶の指輪】に指を添える。登録されているスキルは、かつて極めた「魔騎士」の技の一つ。


「【魔力の一閃】!」


カイト自身が鋭く踏み込み、騎士の盾の中央を狙って魔力の衝撃波を叩き込んだ。

 ドン、と空気が震えるような重低音が響く。流石の騎士も、上位職の魔力が込められた一撃には耐えきれず、その重厚な体躯が大きくのけぞった。


「今だ、ティロフィ! 抑え込め!」


刹那の隙を突き、ティロフィが騎士の盾の上に乗っかり、鋭い爪を喉元へと突きつけた。

 騎士がもがこうとするが、カイトはその隙を逃さず、右手を力強く突き出した。


「……【テイム・オーダー】!!」


翡翠色の魔力が、名もなき騎士の全身を縛り上げるように包み込む。

 騎士の兜の奥で、青白い魂の炎が激しく揺れた。拒絶と服従の間で揺れ動く、無機質な騎士の意志。

 カイトはさらに魔力を注ぎ込む。自身の「大盾士」としての矜持、そして「魔王」へと至る冷徹な決意を、魔力の波に乗せて騎士の精神へと叩きつけた。


「……俺には君が必要だ。来い!俺と共に高みに行こう!!」


カチリ、と。

 カイトと名もなき騎士の間が鎖でつながったような感覚が生まれた。

 騎士の抵抗が消え、翡翠色の光が鎧に纏わりつき明滅する。


『名もなき騎士のテイムに成功しました』


静寂が戻った広場で、ティロフィは名もなき騎士の上から退き、名もなき騎士はゆっくりと立ち上がり、カイトの前で片膝を突いて頭を垂れた。

 言葉はなくとも、その動作には絶対的な服従が宿っている。


「……ふぅ。これで、仲間はそろった、かな」


カイトは満足げに息を吐いた。

 灰色の竜、ティロフィ。

 そして、名もなき騎士。

 これこそが、カイトが以前から構想していた魔王にふさわしい「魔王軍」の雛形だ。騎士が前線で耐え、ティロフィが遊撃し、カイトが全てを制御する。


騎士とティロフィを【眷属の庭園】へと格納し、カイトは『決闘の間』を後にした。

 外に出ると、夕暮れの陽光が東京の空を赤く染めている。明日からはまた、学校でのいつもの日々が始まる。


(明日の演習からは、この二体との連携を深めるのが最優先だ)


カイトは帰路の電車の中で、ノートに新たな戦略を書き込んでいた。

 これまでの彼は、己の力のみで全てを完結させてきた。しかし、明日からは違う。「仲間」と戦うということは、単に群れることではない。自身の分身とも言える仲間たちと、連携を取り一人では到達できない境地に行くための「新しい力」だ。


(こいつらのことを知ったらきっと、佐藤たちには驚かれるだろうが……。まあ、それも慣れるしかないな)


カイトは窓の外を流れる夜景を見つめながら、静かに目を閉じた。

 灰色の竜と、鉄の騎士。

 彼らとともに歩む道は、昨日までの孤独な歩みとは全く異なるものになるだろう。

 

「……待ってろよ。俺の『魔王』への道は、まだ続いてるぞ」


自宅に着き、用意された夕食を済ませたカイトは、明日の演習に向けて早めに眠りについた。

 孤独ではない、新たな仲間たちとの冒険を想像しながら。


『現在のジョブ:調教師(Lv.15)』

『使役モンスター:ティロフィ(グレイリトルドラゴン)、名もなき騎士』

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― 新着の感想 ―
名もなき騎士にも名前つけてあげてw
ノート盗まれたら大変なのでは? 秘密を知りたい暴きたい奴なら盗みとか平気でやるよね?。 家族人質に取ったり。
千年後のとある廃墟に魔王軍騎士団長として出てきそう
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