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第2話:盾士(タンク)という名の「保険」

大崎市立第一中学校。

 ゲートシティ大崎に隣接するその校舎は、最新の魔力観測装置と訓練施設を備えた、国内屈指の冒険者養成校だ。


入学式を終えた翌日。教室の空気は、言いようのない熱気に包まれていた。

 今日この場所で、人生を左右する『初期職業選択』が行われるからだ。


「いいか、お前たち。今日授かる職業は、お前たちの意志そのものだ」


教壇に立つ教官――現役の上級冒険者でもある男が、鋭い視線で生徒たちを見渡す。この世界に「適性」などという便利なものは存在しない。選んだ道を正解にするのは、本人の努力と、迷いのないルート選択だけだ。


「剣士、魔法使い、盾士、癒し手……。どの道を選んでも、直結する上級職(Lv.90)まで至れば、君たちは国の宝だ。だが、安易にリセットを繰り返すような真似はするな。レベル1に戻る『倦怠感』は、並の精神では耐えられん。最短ルートこそが、最強への近道だと肝に銘じろ」


教室の隅で、俺は静かに鼻で笑った。

 最短ルートが最強? 笑わせるな。それはただの「素材不足の未完成品」への特急券だ。


(……だが、今の俺にそれを口にする資格はない。まずは『盤石な土台』を作らなければ)


教壇には、淡く発光する『職業の鏡』が設置されていた。

 一人ずつ、名前を呼ばれた生徒がその鏡に触れ、自らの意志でシステムへ職業を申請していく。


九条院くじょういん紗夜さやさん」


名前を呼ばれ、一人の少女が席を立った。

 艶やかな黒髪をポニーテールに結び、凛とした空気を纏った美少女だ。品川のエリート家系、九条院家。


九条院が鏡に触れ、凛とした声で宣言する。


「――【剣士】を選択します」


それは、彼女にとって揺るぎない王道の第一歩だ。

 剣士(初級)から細剣士(中級)、そして迅雷士(上級)へ。九条院家に伝わる、最も速く、最も鋭い「物理速度特化エリートコース」のスタート。

 教室中が「やはり剣士か」「彼女なら最短で上級職に上がるだろうな」という羨望の眼差しで見守る中、彼女は表情一つ変えず席に戻った。


「次、結城ゆうきカイトくん」


俺は席を立ち、教壇へと向かう。

 鏡の前に立ち、ゆっくりと手をかざした。

 システムが俺の意識にリンクし、選択可能な職業リストが展開される。


(……魔王への最短ならぬ『最長ルート』。その第一段階だ)


俺がまず目指すのは、物理の【騎士】と、魔の【大魔法使い】を統合した上級職【魔騎士】。

 だが、そのリセットの連鎖を生き抜くためには、まず「絶対に死なない自分」を構築する必要がある。


「――【盾士じゅんし】を選択します」


鏡が黄金色の光を放ち、俺の体に重厚な力が宿る。


「盾士か! 素晴らしいぞ結城。パーティの要だな」


先生が満足そうに頷く。

 周囲の生徒たちからも、「結城、いいやつだな」「パーティ組む時は頼むぜ!」と好意的な声が飛ぶ。

 盾士(初級)から硬士(中級)や地術師などへ至るルートは、世間的には「守りの専門家」としての名誉ある道だ。


だが、俺の狙いはそんな高潔なものではなかった。


(……リセットの後、俺はLv.1の最弱の状態になる。かつ、そこからレベルを上げなければならない)


その絶望的な期間を、盾士のとある「スキル」と「生存感覚」が欲しかったのだ。

 

 盾士を極める。

 その後に控える、魔法使い、そして剣士への「リセット地獄」を生き残るための、これは俺自身への投資だった。


放課後。

 ゲートシティ大崎の地下、ダンジョンの入り口を眺めていた俺の背後に、気配があった。


「結城君、だったかしら」


振り返ると、そこには九条院紗夜が立っていた。

 彼女は見極めるような目で俺を見つめていた。


「あなたの選択、賢明だと思うわ。これから先、パーティーを組むことがあればよろしくね。」


「……善処するよ、九条院さん」


俺は愛想笑いを浮かべて、彼女の脇を通り抜けた。

 今はまだ、なにも話すべきではない。

 彼女が信じている「直結ルート」とは真逆、俺が選んだ「遠回り」を知られたとき、きっとこの世界のみんなには狂気的に見えるだろうから。


カイトの冒険者生活――その「偽りの第一歩」が、今始まった。


『現在のジョブ:盾士』

『現在のレベル:1』

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― 新着の感想 ―
どんなふうな「偽り」なのか、続きが楽しみになります☆彡
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