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第22話:九条院パーティーと、夜の草原の門

五月初め。世間ではゴールデンウィークの真っ只中であり、街の至る所で行楽の浮ついた空気が漂っているはずだった。しかし、大崎の冒険者養成学校にその気配は一切ない。

 月曜日の朝。ホームルームの教卓に立つ教官の言葉は、学生たちの甘い幻想を打ち砕くものだった。


「……さて、世間は連休らしいが、お前たちに休みはない。冒険者という職業に『長期休暇』は推奨されないからだ」


教官が鋭い視線を教室全体に走らせる。


「死と隣り合わせの現場で戦う我々にとって、数日のブランク、僅かな身体の鈍りは死に直結する。プロになれば己で塩梅を調整できるが、未熟なお前たちが長期休暇で腕を落とせば、連休明けに待つのは葬儀だ。だからこそ、学生のうちはあえて世間の祝祭日を無視し、訓練を継続させる。……まぁ、一部の生徒は休日返上でダンジョンに潜っていたようだがな」


教官の視線が一瞬、カイトの席で止まった。カイトは表情を変えず、静かに前を見据えたままだ。佐藤が「バレてんじゃねえか?」と小声で囁くが、カイトは動じない。


「次に、進捗についてだ。先週の時点で九条院、清水、松田、大久保のパーティが、十五層ボスの攻略を完了した」


教室がざわつく。学年トップクラスの九条院たちが、ついにカイトたちに追いついたのだ。

 九条院が誇らしげに顎を引く。その隣では、盾を抱えた弱気そうな少年・清水がおどおどと視線を泳がせ、勝気な表情の魔法使い・松田が九条院を心酔した目で見つめている。最後尾には、どこか超然とした雰囲気を纏う癒し手の大久保が、余裕の笑みを浮かべて……教科書を上下逆さまに持っていた。


「これに伴い、本日より十六層の進出を解禁する。ただし、許可するのは十六層までだ。十七層以降は十六層での戦闘が完全に安定したと判断するまで禁ずる」


教官が背後のホワイトボードに、十六層の概要を書き込む。


「十六層からのフィールドは『夜の草原』だ。出現する敵は主に四種類。銀の毛並みを持つムーンライト・ストーカー、状態異常を撒くウィスプ・ランタン、闇に紛れるシャドウ・マンティス、そして魔力レーザーを放つスターライト・ゴーレムだ」


教官は一度言葉を切り、釘を刺すように付け加えた。


「十六層では、原則として同時に出現する敵は一種類ずつの個体、または群れだ。まずは夜間戦闘の距離感と、それぞれの魔物の特性に慣れることに専念しろ。以上だ。演習開始!」


午後の演習。ギルドの転送陣を抜けたカイトたちは、十六層への階段を下りた。

 辿り着いた先は、静寂に包まれた青白い世界だった。


「……うわぁ、本当に夜だ。月が綺麗だけど、なんだか不気味ね」

 田中が杖を握り直し、周囲を警戒する。頭上には巨大な銀月が浮かび、草原は青白く照らされているが、少し離れると深い闇が口を開けていた。


「よし、みんな。【宝物庫】からランタンを出してくれ。足元を照らしつつ、一種類ずつ確実に仕留めていくぞ」


「おう、任せろ! ……ってか、マジで便利だなこれ!」

 佐藤が意識するだけで、手元に魔光石のランタンが出現する。リュックを漁る手間がない。その利便性に感動しながらも、一行は慎重に歩みを進めた。


最初に出現したのは、ムーンライト・ストーカーの群れだった。

 月の光に紛れ、残像を残しながら高速で接近してくる銀の狼たち。


「【ヘイト・ブロウ】!!」


カイトが盾を打ち鳴らす。通常なら視認しづらい残像攻撃だが、ヘイトを固定してしまえば、攻撃の終着点はカイトの盾一点に絞られる。


ガキィィィィィィン!


正確なガード。カイトは一歩も引かず、背後の三人を完璧に守り切る。

「佐藤、右の個体の実体を叩け! 田中さんは左の群れを牽制!」

「了解! 身体が軽いぜ……!」


佐藤の剣が、実体を捉えて一閃する。

 先日の「スキル封印攻略」を経て、彼らの基礎的な身体能力は飛躍的に向上していた。スキルに頼り切っていた頃よりも、敵の動きが「見える」ようになっている。


続いて現れたスターライト・ゴーレム。その頭部から放たれる収束された星光レーザーが、闇を切り裂いて放たれた。


「【属性ガード】!」


カイトが盾の表面に薄い魔力の膜を張る。物理防御では防ぎづらい熱線が盾に接触した瞬間、パッと霧散するように減衰した。

「……いける。このレベルなら、俺の盾は抜けない」


十六層の魔物を、一種類ずつ、確実に、そして圧倒的な継戦能力でなぎ倒していく一行。

 ポーションを飲む暇さえ惜しい乱戦になっても、彼らは【宝物庫】から即座に回復薬を取り出し、常に万全の状態を維持し続けた。


その様子を、少し遅れて十六層に入ってきた九条院パーティが遠目から目撃していた。


「……結城くん、相変わらず手堅い戦い方ね」

 九条院が不敵に笑うが、その隣の清水はカイトの完璧な防御を見て、思わず盾を握る手が震えていた。

「す、すごい……あんなに正確に攻撃を止めるなんて……」

「清水! 何感心してるのよ。九条院様の方がずっとスマートに倒せるに決まってるでしょ!」

 勝気な松田が声を荒らげる。その後ろでは大久保が、

「ふふ、夜の帳に包まれた戦い……風情がありますわね。……あら、ポーションを飲もうとしたら間違えて蓋を閉めたまま口に当ててしまいましたわ」


そんなライバルたちの視線に気づくこともなく、カイトは次なる敵を見据えていた。

 十六層はあくまで通過点。だが、この夜の草原の「真の恐怖」は、まだ牙を隠している。


『現在のジョブ:盾士』

『現在のレベル:40』

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