第20話:黄金なき宝物庫、封じられた力
土曜日の朝、八時。大崎の総合ギルドロビーは、休日を利用して狩りに出る探索者たちで活気づいていた。その喧騒の中、カイトのパーティメンバー三人は、いつも以上に緊張した面持ちで集合していた。
「みんな、揃ってるな。まずはショップへ寄るぞ。そこでポーションを十個買い足しておこう」
カイトの指示に、佐藤が怪訝そうな顔をする。
「おいおい、十個もか? 今日行くのはそんなにヤバい場所なのかよ」
「念のためだ。……今日は、いつもとは少し勝手が違うからな」
準備を整えた一行が、カイトの案内で辿り着いたのは、市街地から少し離れた地下にひっそりと佇む石造りの遺跡だった。入り口のプレートには『古代王の隠し宝物庫』と刻まれている。
「ここ……知ってるわ。確か、初級職のスキルを使ってくるミイラが出るのよね。対人訓練の代わりに来る探索者が多いって聞いたことがあるけど」
田中さんが周囲を見渡しながら言う。鈴木さんも思い出したように頷いた。
「でも、ここって……名前に反して、ドロップ品も宝箱も一切出ない『美味しくないダンジョン』の代名詞じゃなかったでしたっけ?」
三人の視線がカイトに集まる。わざわざ貴重な休日を使ってまで、実入りの少ない場所へ来る理由が分からなかったのだ。
「ああ、その通りだ。ここは対人訓練の場所として知られているが、俺たちが今日ここに来たのは訓練のためじゃない。これからの俺たちのために、どうしてもここを攻略する必要があったんだ」
カイトは真剣な眼差しで仲間たちを見据え、言葉を続けた。
「これから中に入るが、一つだけ約束してほしい。このダンジョンの中では、絶対に『アクティブスキル』を使用しないでくれ」
「……はぁ!? スキル禁止だって?」
佐藤が素っ頓狂な声を上げた。田中さんも絶句している。攻撃魔法も、回避スキルも、回復魔法も封印して戦えというのだ。それは探索者にとって、暗闇を明かりなしで歩くような暴挙に等しい。
「……自分を信じて、と言いたいところだが、今は『俺を信じてくれ』と言わせてほしい。この制約の先に、必要なものがあるんだ」
カイトの瞳には、一切の迷いがなかった。その圧倒的な自信に押されるように、三人は顔を見合わせ、深く頷いた。
「……分かったわよ。あんたがそこまで言うなら、付き合ってあげるわ」
「俺もだ。スキルなしの立ち回り、見せてやるぜ!」
ダンジョンの一層に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺した。
現れたのは、剣を構えた「剣士ミイラ」と、杖を持つ「魔法使いミイラ」。彼らは機械的な動きながらも、正確に【火炎斬り】や【魔力矢】といった初級スキルを放ってくる。
「くっ、スキルが使えないと……間合いが全然違う!」
佐藤が苦戦を強いられていた。普段ならスキルによる補正で強引にねじ伏せられる場面でも、純粋な剣筋だけではミイラの放つスキルの圧力に押し負けそうになる。田中さんも魔法の詠唱を封じられ、杖を振るって魔力そのものをぶつける慣れない戦法に顔をしかめていた。
一方、カイトの動きは冴え渡っていた。
【ヘイト・ブロウ】を使えない状況で、カイトは盾の打ち鳴らしと、自身の立ち位置だけで三体のミイラを引きつける。
ガキィィィン!
剣士ミイラの【斬打】を、カイトはスキルを使わずに「盾の角度」だけで受け流す。物理法則に従った正確なパッシブガード。さらに、雷狼の盾が持つ自動反撃の雷光が、ミイラの動きを止める。
「佐藤、右だ! 魔法の弾道を見極めろ! 田中さんは足元を崩せ!」
カイトの的確な指示が飛ぶ。スキルという「力」を奪われたことで、三人は嫌でも敵の動きを注視し、自身の身体操作に意識を向けざるを得なくなった。
数時間の激闘。
一層を抜ける頃には、三人は肩で息をしていた。だが、その瞳には変化が現れていた。スキルに頼らない「素の動き」の練度が、短時間で劇的に向上していたのだ。
「……はぁ、はぁ……。死ぬかと思ったけど、意外となんとかなるもんだな」
佐藤が汗を拭いながら笑う。
「ええ。スキルの発動に頼り切っていた部分が見えてきたわ……」
田中さんも自身の杖を見つめ、何事かを考え込んでいた。
「ごめん~、私みんなの動きをみてポーションを使うことしかできてない……」
「今日はここまでにしよう。一日やっただけでも、スキルなしの感覚は掴めたはずだ。……本番は明日、最深部までの攻略だ。佐藤も田中さんも最初に比べてすごく動きがよくなってるよ。鈴木さんも的確にポーションを使ってくれてありがとう。」
カイトの言葉に、三人は力強く頷いた。
不便の先に待つ真の対価。その正体を知るのはまだカイト一人だが、パーティの絆は、この奇妙な試練を通じてより強固なものへと変わり始めていた。
『現在のジョブ:盾士』
『現在のレベル:40』




