第19話:地固めと、新たなる誘い
月曜日の朝。教室の窓から差し込む春の陽光とは裏腹に、生徒たちの間には独特の緊張感が漂っていた。先週の対人訓練という「溜め」の期間を終え、今日から再び統合ダンジョンへの演習が再開されるからだ。
「おはよう、カイト! 体、鈍ってねえだろうな?」
教室に入るなり、佐藤が快活に声をかけてくる。その後ろでは田中さんと鈴木さんも、どこか気合の入った表情で頷き合った。
「ああ、万全だよ」
カイトは短く応えた。日曜日の死闘で負った傷は、一晩の休息とポーションの併用で完全に癒えている。レベルは37。手元には、盾士の常識を覆す移動スキル「短距離テレポート」が備わっていた。
だが、ホームルームに現れた教官の言葉は、逸るクラスの空気を冷やすものだった。
「今日から演習を再開する。だが、十五層を突破した結城のパーティを含め、全チーム当面は十六層以降への進出を禁止する。お前たちはまだ、十五層以下で地力を蓄える段階にある。いいな」
クラスからは溜め息が漏れたが、カイトは冷静だった。無理に未知の階層へ突っ込むより、今は確実なリターンを得るべき時だと判断したからだ。
「……というわけだ。今週は無理に階層を更新せず、地固めをしよう」
放課後、ギルドの転送陣を前にカイトが方針を切り出した。
「地固め? 」
田中さんの問いに、カイトは首を振った。
「あぁ、今週の舞台は十四層だ。あそこはリポップ速度が速く、魔石の入手も安定している。今週一杯で大量の魔石を稼いで、今後の軍資金を作ると同時に、全員のレベルを底上げしたい」
こうして、カイトたちの「稼ぎ」の一週間が始まった。
十四層は、どこまでも青い芝が広がる草原エリアだ。視界が開けている分、魔物の接近に気づきやすいが、それは同時に魔物側からもこちらの存在が丸見えであることを意味する。
「いくぞ! 【ヘイト・ブロウ】!!」
カイトが盾を打ち鳴らし、広範囲の魔物の敵意を自身へと固定する。四方から殺到する魔物の牙や爪、角。カイトは一歩も引かず、そのすべてを『雷狼の盾』で受け止めた。
無数の攻撃を受ければ受けるほど、パッシブスキル【衆目の一点】が活性化し、カイトの微かな擦り傷を瞬時に塞いでいく。
「たあぁぁっ!」
「【氷礫】!」
カイトが完璧に敵を止めている間に、佐藤の剣と田中さんの魔法が草原を掃除していく。鈴木さんの的確な支援もあり、パーティは機械的なまでの効率で魔石を回収し続けた。
カイトは道中、習得したばかりの「短距離テレポート」を使いたい衝動を抑えていた。このスキルは戦局を覆す決定打になるが、まだ仲間に見せるべきではない。純粋な盾の技術だけで一週間を戦い抜いた。
そして金曜日の演習終了後。
夕闇が迫る大崎駅前の広場で、四人は今週の成果を確認していた。
「……集計出たわよ。今週の累計撃破数は、一日平均百五十体。合計で魔石は六百三十二個!」
田中さんが計算機を弾き、数字を提示する。
「魔石一個の買い取りが200円として……合計で126,400円ね。一週間の演習代としては、中等部じゃありえない金額よ」
「マジかよ、めちゃくちゃ稼いだな!」
「はい。それに、レベルの方も……」
鈴木さんの視線の先、カイトのステータスには目標としていた数字が刻まれていた。
『現在のレベル:40』
『スキル:【属性ガード】を習得しました』
ついに辿り着いた。物理防御だけでなく、魔法や属性ブレスをも減衰させる盾士の金字塔。一方の佐藤たちもレベル30に到達し、パーティ全体の底上げは完了した。
「……みんな、今週はお疲れ様。おかげで良い準備ができた」
カイトは一度言葉を切り、三人の顔を順番に見つめた。
「ところで、明日と明後日の予定はどうなってる? 休みならゆっくりしてほしいんだが」
「俺は特にねえよ。自主練のつもりだった」
「私も休暇と自主練かな。何かあるの?」
三人の返答を確認し、カイトは切り出した。
「なら、明日、俺と一緒に『単独ダンジョン』に行かないか?」
統合ダンジョンとは違い、世界各地に点在している独立したダンジョン。この世界ではまだその全容は解明されていないが、カイトはその存在を「知って」いた。
「単独ダンジョン?」
「ああ。単独ダンジョンの中でどうしてもみんなと攻略したいところがあるんだ。……どうかな?」
「カイトくんが誘ってくれるなら、私は行きたいです!」
「俺も! 面白そうじゃねえか!」
「私も異論ないわ。あなたの選ぶ場所なら、退屈はしなさそうだしね」
「決まりだ。明日、朝八時にここに集合してくれ」
カイトは頼もしい仲間たちの笑顔に応え、静かに拳を握った。
レベル40の盾、そして信頼できる仲間たち。
明日の単独ダンジョンで、彼らはさらなる高みへと足を踏み入れることになる。
『現在のジョブ:盾士』
『現在のレベル:40』
『習得スキル:属性ガード』




