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第15話:束の間の休息と、不変の絆

激動の一週間が終わり、日曜日の朝が来た。

 本来ならダンジョンの攻略計画を練るべき時間だが、俺たちは大崎駅前の噴水広場に集まっていた。


「おーい、カイト! こっちこっち!」


私服姿の佐藤が大きく手を振る。その後ろには、いつもより少しお洒落をした田中さんと鈴木さんもいた。

 十五層中ボスの撃破。その「突破記念」として、俺たちは今日一日、ダンジョンのことを忘れて遊び倒すことに決めたのだ。目的地は、市内最大級の体験型アミューズメントパーク『アドベンチャー・ギルド』。最新の魔法技術を駆使したアスレチックや謎解きが楽しめる、一般の人にも探索者志望の学生にも大人気のスポットだ。


「さあ、今日は羽目を外すわよ! 割り勘なしの完全レクリエーションなんだから!」


田中さんの号令で、俺たちの「休日」がスタートした。




まず向かったのは、超巨大アスレチックエリア『天空の回廊』。

 地上二十メートルに設置された細い足場や、動く壁を攻略していくアトラクションだ。一般人なら命綱があっても足がすくむ場所だが、今の俺たちにとっては……。


「よっと……! 佐藤、次、左から動くブロックが来るぞ!」

「おうよ! この程度、ウルフの突進に比べりゃ止まって見えるぜ!」


俺と佐藤は、もはや重力を無視しているかのような動きで跳躍を繰り返した。Lv.36の俺の身体能力と、Lv.23に達し俊敏性が大幅に向上した佐藤。

 壁が迫れば、俺が盾なしの素手でその衝撃をいなし、佐藤が驚異的な踏み込みで次の足場へと飛び移る。


「……ねえ、あの二人、おかしくない?」

「あれ、プロじゃないの? 動きが早すぎて残像が見えるんだけど……」


周囲の一般客が呆然と見上げる中、俺たちは制限時間十分の設定をわずか五分でクリア。頂上のベルを鳴らした時には、パークの記録を塗り替え本日一位のスコアが電光掲示板に刻まれていた。


一方、知的なアトラクションでは女子組が本領を発揮した。

 超高難度脱出ゲーム『賢者の迷宮』。魔法文字を解読し、複雑な数式を解かなければ開かない扉が続くエリアだ。


「この魔法陣、第三階梯の配列が反転してるわね。鈴木さん、そっちのスイッチを4.2秒後に押して!」

「了解! ……はい、完了です。次のパズルは……ええと、重力加速度を考慮した質量計算ですね」


田中さんの圧倒的な演算能力と、癒し手として「気配」を察知する能力に長けた鈴木さん。レベルアップによって脳の処理速度(INT)が向上している二人は、スタッフが「平均クリア率10%」と豪語する仕掛けを、まるでおままごとでもするかのような手際で解き明かしていく。


「あ、あの……お客さま、もう少しヒントが出るまで待っていただけないと、演出が……」

 困惑するスタッフを余所に、二人は涼しい顔で最終ゲートを突破。

 終わってみれば、俺たち四人はパーク内の全アトラクションでその日の上位を取り続けた。


「ふぅ……。ダンジョン以外でこんなに身体動かしたの、久しぶりかも」

「でも、少し物足りなかったわね。やっぱり本物の魔物と対峙する緊張感に慣れちゃったのかしら」


田中さんが苦笑いしながら言い、みんなで笑い合った。




夕暮れ時。

 俺たちはパークの近くにあるハンバーガーショップ『ブレイブ・バーガー』に入った。

 注文したのは、特大のパティが三枚重なった「キング・ゴブリン・バーガー」。戦利品(景品)のぬいぐるみやキーホルダーをテーブルに並べ、大きな口でバーガーに食らいつく。


「……うめぇ! やっぱ運動の後の肉は最高だな!」

 佐藤がコーラで喉を潤しながら、満足げに背もたれに体を預ける。


「一週間前は、十一層に入るだけでビクビクしてたのにね」

 鈴木さんが、自分のレベルアップしたステータス画面を懐かしそうに見つめる。

「カイトくんがいなかったら、きっと私たちはまだ、一番前を走ってる人の後ろ姿を見て嘆いているだけだったと思う。本当に、ありがとう」


「礼を言うのは俺の方だよ。みんながいてくれて、俺を信じてくれたから、十五層を突破できたんだ」


俺は正直な気持ちを口にした。

 だが、その時、胸の奥に小さな、けれど消えない不安が顔を出した。

 俺には「前世」の知識がある。そして、このダンジョンの「異変」も感じている。俺がレベルを上げ、転職し、さらに深層へと進んでいけば……いつか、彼らとの実力差は埋められないものになるかもしれない。


そうなった時、俺はこの「日常」を失うのだろうか。


「……なあ」


俺はポテトを摘まむ手を止め、視線を落としたまま切り出した。


「転職して、レベルが1になったとき……俺はこのパーティーを抜ける……。それでもまたこうして、一緒に遊んでくれるか?」



一瞬、テーブルが静まり返った。



 失敗した、と後悔しかけたその時、佐藤が俺の肩を強く叩いた。


「何言ってんだよ、カイト! 当たり前だろ!」


「そうよ。カイトがどれだけ遠くに行っても、私たちはあんたの最初のパーティメンバーなんだから。……それとも何? カイトは他のもっと強い奴と組んだら、私たちのこと忘れちゃうわけ?」


田中さんが意地悪く笑いながら、コーラのストローで俺を指す。


「カイトくん。私たちは、レベルや効率だけで繋がってるんじゃないですよ。……この一週間、一緒に死線を越えた『仲間』なんですから」


鈴木さんの柔らかい、けれど芯の通った言葉が、俺の不安を綺麗に溶かしていった。


「……そうだな。悪い、変なこと聞いた」


「全くだぜ! 次は二十層突破記念だな。その時はもっと豪華な店を予約しとけよ、リーダー!」


佐藤の笑い声が、店内に響く。

 外はもう夜の帳が下り始めていたが、俺たちの座るテーブルだけは、温かい光に包まれているようだった。


明日からは、また楽しくて大変な日々が始まる。

 けれど、この絆がある限り、俺が折れることはないだろう。


「よし。じゃあ明日から、また死ぬ気でレベリングだ。……準備はいいな?」


「「「もちろん!!」」」


俺の問いに重なる三人の声。

 俺たちは最後の一口を飲み込み、未来へと続く夜の街へ踏み出した。


『現在のジョブ:盾士』

『現在のレベル:36』

『パーティの絆:最大』

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男2人にアベックって言わないような
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