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第11話:碧き草原の洗礼


光の柱を抜けた先、俺たちの視界を埋め尽くしたのは、地平線まで続く鮮やかな「緑」だった。


「……うわぁ、すごい」


鈴木さんが思わず声を漏らす。

 統合ダンジョン十一層。これまでの閉塞感漂う岩肌の坑道とは一変し、そこにはどこまでも高い青空と、風にたなびく膝丈ほどの草むらが広がっていた。遠く前方には、次の階層へと続くのであろう、天を突くような石造りの「塔」が霞んで見える。


一見すればのどかな風景だが、漂う空気の密度は十層までとは比較にならない。

 俺の肌には、草陰に潜む無数の殺意が、刺すような魔力のピリつきとなって伝わってきた。


「浮かれないで。ここからは一段階、難易度が上がる。陣形を崩さないようにね。」


俺の言葉に、佐藤たちがゴクリと唾を飲み込んだ。

 俺を先頭に、草原の緩やかな斜面を進む。カサリ、と不自然な音が右前方から響いた。


「来るよ! 散開せず、俺の背後に!」


草むらを割って飛び出してきたのは、一見すると愛らしい、巨大な白ウサギだった。だが、そいつが空中で身を翻した瞬間、背中の柔らかな毛が鋭利な鋼鉄の針へと変貌する。


「ニードル・ラビットだ!」


ウサギが空中で身を捩ると、その背中から無数の針が、ショットガンのような勢いで俺たちに降り注いだ。


「くっ!」


俺は円盾を掲げ、針の軌道へ割り込む。キンキン、と硬質な金属音が響き、盾の表面を針が叩く。しかし、奴の狙いは俺だけではなかった。散らばった針の一部が地面に突き刺さり、佐藤たちの足元を塞ぐトラップへと変わる。


「うわっ、足の踏み場が……!」

「佐藤、動くな! 田中さん、火球で牽制を!」


俺は一歩踏み出し、跳ね回るラビットの着地狩りを狙う。だが、奴の速度は十層のゴブリンとは段違いだ。地面を蹴る脚力が異常に発達しており、目で追うのが精一杯の速度で縦横無尽に跳ね回る。


「くそっ、速すぎて剣が届かねえ!」

「魔力収束……炎弾! ……っ、外した!?」


普段なら冷静な田中さんの魔法すら、草原の風とラビットの不規則な動きに翻弄され、空を切った。

 これが十一層の洗礼か。一種類、一体系とのエンカウントでさえ、これまでの集団戦以上の労力を強いられる。


俺はあえて盾を下げ、ラビットの突撃を誘った。

 最短距離で突っ込んでくる白光。激突の直前、俺は【スタン・バッシュ】を最小限の予備動作で発動させた。


――バシュッ!


黄金の衝撃がウサギを直撃し、その動きがピタリと止まる。

 俺はその隙にメイスを叩き込み、ようやく一体目を光の塵へと変えた。


戦闘が終わると、そこには小さな「魔石」が転がっていた。


「……はぁ、はぁ。一体相手に、ここまで消耗するなんて」

 佐藤が肩で息をしながら、地面に突き刺さった針を慎重に避けて歩み寄る。

「カイト、お前……よくあんな動きについていけるな。俺たち、今のままじゃ足手まといだな……」


その後も、俺たちは慎重に進んだ。


 風を纏い、視認困難な速度で襲いかかる「ウィンド・ウルフ」。


 草むらに完全に溶け込み、盾を鎌で引っ掛けて強引に体勢を崩しにくる「プレイン・マンティス」。


 そして、地形を無視して突進し、爆発的な衝撃波で前衛の俺ごとパーティを吹き飛ばそうとする重戦車「バースト・ブル」。


どの敵も、これまでの「戦術」を否定してくるような強敵ばかりだ。

 俺自身は【衆目の一点】の恩恵もあり、微かな傷はすぐに癒え、スタミナも余裕を残している。だが、佐藤たちは一戦ごとに死線を彷徨うような緊張感を強いられていた。


「……みんな、一度足を止めよう」


塔のふもとが見え始めたあたりで、俺は提案した。


「今のまま突き進んでも、近いうちに全滅する。まずはこの十一層の敵の動きに慣れる必要がある。……とりあえず、俺以外の三人のレベルが20に乗るまで、ここで徹底的にレベリングをしよう」


俺の提案に、反論する者は誰もいなかった。自分たちの実力が、この「草原」の要求レベルに達していないことを、誰よりも彼ら自身が痛感していたからだ。


そこからの二日間、俺たちは十一層を往復した。

 俺がヘイトを固定し、敵の攻撃パターンを一つずつ解説する。


「ウルフのフェイントは右脚の踏み込みを見ろ。マンティスの鎌は、盾で受けるんじゃなく『流す』んだ」


俺の指導の下、佐藤たちは必死に食らいついた。

 佐藤の剣には迷いがなくなり、田中さんの魔法は風を読んで着弾地点を予測し始め、鈴木さんの支援は最も必要な瞬間に届くようになった。


そして、ついにその時が来た。


『経験値を獲得しました。佐藤、田中、鈴木:Lv.19 → Lv.20』


「やった……。ようやく、20レベルだ……!」

 佐藤が、ドロップした魔石を握りしめ、感極まったように叫んだ。

 Lv.20。中等部一年生としては、トップクラスの速度で「一等賞」の背中が見える位置まで辿り着いたのだ。


一方で、彼らを支え続け、常に最前線で経験値を吸い込み続けた俺のステータスは、さらなる高みへと到達していた。


『結城カイト:Lv.32 → Lv.34』


体内の魔力保有量はさらに増大し、身体能力も上がっているように感じられる。


「カイト……あんた、またレベル上がったでしょ。もう34って、はやすぎるわよ……」

 田中さんが呆れたように、けれど確かな信頼を込めて俺を見た。


「でも、おかげで戦い方は分かってきたわ。次の十二層……いや、十四層の塔まで、このままの勢いで行くわよ!」


佐藤たちの瞳には、十一層に入った当初の怯えは消え、戦士としての鋭い光が宿っていた。

 俺は、自らの盾を強く握り直す。


「ああ、行こう。ここからが本当の『草原攻略』だ」


Lv.34の盾士と、Lv.20に到達した仲間たち。

 草原を吹き抜ける風を背に受け、俺たちはついに、地平線の先にそびえる「塔」へと本格的な進撃を開始した。


『現在のジョブ:盾士』

『現在のレベル:34』

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