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第99話:オーク決戦・中

フラッガー五体による多重バフを受け、紅蓮のオーラを滾らせるオークの軍勢。

 一糸乱れぬ完璧な統率で牙を剥く彼らを前に、カイトは即座に思考を巡らせ、喉が張り裂けんばかりの声で指示を飛ばした。


「ティロフィ! まずは【恐圧の咆哮】だ! その後に【黒白反転】で白形態になってから、【強靭の咆哮】でイストにバフを掛けろ!」

「グルァァァァッ!!」


黒き鱗を持つティロフィが深く息を吸い込み、魂を震わせる咆哮を轟かせた。

 黒白竜の固有スキル【恐圧の咆哮】。その波動が広がると同時に、オーク族全軍の凶悪な攻撃力と防御力が一時的に減少する。


間髪容れず、ティロフィの体表を包む白い魔力が激しく明滅した。【黒白反転】の発動。

 一瞬にして黒い鱗のすべてが神秘的な純白へと染まり、アタッカーから支援・回復に特化した白形態へと姿を変える。ティロフィは再び天を仰ぎ、今度は優しくも力強い音色で【強靭の咆哮】を放った。


戦場に宿る白き光がイストの白銀の鎧へと吸い込まれ、彼女の攻撃力と防御力が一時的に爆発して跳ね上がる。


「イスト! バフを貰ったらそのまま前衛のナイトたちをなぎ倒せ!」

「御意――!」


カイトの指示を受け、イストの兜の奥にある炎が爆発的に燃え上がった。

 【主への誓い】とティロフィの【強靭の咆哮】が重複したイストのステータスは、限界を遙かに突破している。白銀の直剣に目も眩むほどの魔力が収束していく。


「【百連斬】――ッ!!」


閃光が奔る。

 それは文字通り、一瞬の間に百の斬撃を高速で叩き込む銀騎士の最大火力。

 凄まじい密度の剣撃の嵐が、前衛を阻んでいた十体のオークナイトたちへと襲いかかった。

硬質なフルプレートアーマーが幾重にも切り裂かれる絶叫のような金属音が響き渡る。


しかし、五重のバフとオークキングの統率を受けたナイトたちもまた、ただでは倒れなかった。彼らは肉肉しい肉体が裂け、深手を負いながらも、狂戦士のごとき執念で盾を突き出し、大剣を振り下ろしてイストへと肉薄する。

 ガキャッ、と鈍い音がして、乱戦の中でイストの白銀の鎧が何箇所も切り裂かれる。オークナイトたちを次々と光の粒子へ還しながらも、イストの身体には確実に傷が刻まれていく。


「クルァァァ!!!」


前衛のナイト十体をすべて消し飛ばした刹那、白形態のティロフィがイストの傍へと滑り込んだ。

 【癒しの風】。

 ティロフィが大きく翼を羽ばたかせると、戦場に心地よい癒しのそよ風が吹き抜けた。緑色の光の粒がイストの全身を包み込み、刻まれた深い傷口をみるみるうちに塞いでいく。イストの体力が一瞬で完璧に回復した。


「ティロフィ、次は一気に後衛を潰すよ! 【属性エンチャント・ガード】!」


カイトが素早くティロフィへと右手をかざし、あらゆる魔法を激減する最高峰のバフを上書きする。


「よし、黒形態に戻って後衛のマジシャンやアーチャー、フラッガーの元へ突撃だ!」

「グルルゥッ!」


ティロフィが再び【黒白反転】を使い、鱗を漆黒へと戻す。攻撃力を再び手に入れた黒白竜は、凄まじい速度で後衛のもとに飛び立つ。


「ブモォォッ!」


だが、それを阻むように、一歩奥に控えていた四メートルの巨躯――二体の『オークジェネラル』が、地を震わせる足取りで大剣を投げるように構えて立ち塞がろうとする。


「邪魔させはしない……。貴様らの相手は私だ」


その巨体の前に、完全回復したイストが割り込んだ。

 【瞬動】によってジェネラルたちの死角へと回り込み、盾と直剣で二体の猛撃を強引に引き受ける。大剣による凄まじい剣戟と力の強さを活かした打撃がイストを襲うが、彼女は【流剣】の技を駆使してそのすべてを受け流し、一歩も引かずに二体をその場に縫い付けた。


ジェネラルたちの足止めに成功したことで、ティロフィの進路は完全に開けた。

 後衛のマジシャンやフラッガーたちが慌てて杖や戦旗を構えるが、すでに遅い。

 後衛陣地の真っ只中へと飛び込んだティロフィが、その巨大な翼を力強く羽ばたかせた。


「【破壊の風】――ッ!!」


ゴオォォォォォンッ!!!


空間そのものを圧殺するような、圧倒的な衝撃波の暴風が巻き起こった。

 五体のオークフラッガー、オークマジシャン、そしてアーチャーたちが、その大質量の衝撃に抗う術もなく、悲鳴を上げる暇さえなく文字通り一瞬ですべて吹き飛ばされ、光の粒子となって消滅していく。


そして、その凄まじい破壊の暴風は、一段高い玉座に座るオークキングをも完全に巻き込んでいた。

 しかし――。


「……ブモォ」


砂煙が晴れた玉座。

 そこには、体長五メートルを超える巨体に凶悪な鎧を纏ったオークキングが、何事もなかったかのように平然と鎮座していた。錫杖を片手に、その身には掠り傷一つ、何の痛痒も与えられていない様子で、冷酷にカイトたちを見下ろしている。


だが、ひとまず後衛のフラッガーたちを完全に殲滅したことで、戦場を支配していた禍々しい五重の重複バフは完全に解除された。


「イスト、ティロフィ! バフは切れたよ! まずはそのジェネラル二体からだ!」

「ハッ!」

「グルァッ!」


後衛を壊滅させたティロフィが猛然と引き返してくる。

 バフが切れ、本来のステータスに戻ったオークジェネラルなど、全力を維持する二体の敵ではなかった。

 イストが放つ【一閃】の鋭い斬撃がジェネラルのフルプレートを分割し、体勢を崩したところへ、ティロフィの【魔纏・爪】を宿した凶悪な爪撃が脳門へと容赦なく振り下ろされる。

 

 ズシャァァンッ!!


完璧な連携の前に、あれほど頑強だった二体のジェネラルも、成す術なく同時に爆散し、大きな魔石へと変わった。


静まり返る広大な玉座の間。

 十体のナイト、二体のジェネラル、そして後衛のすべてを失い――残されたのは、玉座に座るオークキング、ただ一匹となった。

 カイトは油断なく構えを崩さない二体の中心で、まっすぐに王を見据えた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.60)』

『使役モンスター:イスト(Lv.24・銀騎士)、ティロフィ(Lv.24・黒白竜)』

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